第16話 ヒーロー
それから数日、そこまで大した動きがあるわけでもなく俺は普通に悪意ある人間についての授業をしたし、バーバラには生徒数名に仕込みをしてもらったが…。
「何人かに絞ってみたけどやっぱりアクセルが一番可能性高そうか?」
結局俺のやることはただのクズ行為だしそれをアイツがどうするかというだけの話だ。やりたくねえ…成功するかわからん上に俺の趣味じゃねえんだよな…。
などとごちゃごちゃ考えても話は進まず、結局作戦決行の日を迎えてしまったのが今というわけ。
「頼むぞ、アクセル。」
願うような独り言を零して教室に入る。
「どうも皆、今日で最後になるか?それじゃあ宿題を確認しようか?」
いつも通り宿題を確認する。俺の授業では大体何か一つ宿題を出すが今日は少し意地の悪いものを出していた。
「おや…、今日も分からなかったのか?サリア。」
「す、すみません…。その頑張ったんですけど…。」
「おいおい、いつも言ってるよな?必要なのは結果だよサリア。」
教室にやや不穏な空気が流れる。数名、彼女を笑う声も。彼女を率先していじめる主犯格は3名。おそらく今回もこいつらだろう。今日は3人じゃなくなるがな。
「はあ…困るんだよなあ…こういうの。」
俺の声色が変わり明らかに教室に緊張が走る。この学園は教師が生徒を指導することはあっても非難することは決してない。その一線は決して踏み越えない。
「君一人のせいでさ…皆の士気が下がるんだよ。無能は一人で沈んでいってほしいんだよね。」
「ごめんなさい、私、…次!次からは!」
「これだから無能は嫌いなんだよ。お前らはいつもいつも―」
「…めろよ。」
ああ、本当に良かった。
「どうした?何か言ったか?アクセル。」
「やめろっつってんだよ‼」
静かな研究室に彼の怒号が響く。
「お前らが、
彼の怒りは止まらない、彼の叫びは止まらない。
「どうなってんだよ
この学園の本質はいじめの横行じゃない。本来優秀と無能を分けるなら半分ずつになるはずなんだ。
では何故いじめなんて起きるのか?一番の無能を標的にして他の無能がいじめるのだ。無能扱いされないために、そいつを無能の代表にするのだ。
そうすれば自分は無能じゃないと思い込める。そう信じられる。
「なんで他人を思いやれないんだ‼なんで他人を蹴落とすことに力を使うんだ‼
なんで…俺は助けることができなかったんだ。…なんで俺は諦めたんだ。
なんで俺は
嗚咽混じりの叫びが轟く。どれほど目を瞑った振りをしたって、彼の中の正義感は消えてはいない。
最近現れたカウンセラーに在り方を問われ、最近来た教師に一線を越えられて、彼は自分を見つめなおす。本当になりたかったものを思い出す。
「ありがとう。アクセル。君のおかげでこの学園は変えられる。止められなくなった学園は、お前が歩き出したことで変わるんだ。やっぱりお前は
俺なんかとは生き方も、生き様も何もかもが違うんだと、悲しいほどにそう思った。
それからはとんとん拍子で話は進んだ。まるで学園長が先を読んでいたかの如くスムーズな展開だった。
教師とはいえ俺は現ランスソード領の領主であり、一介の生徒がこんな行為を行ったのでは学校としても対応せざるを得ない。
つまりいじめに対して対策を何か講じる必然性ができたのだ。学校の理念を否定することになろうともである。
そうなれば優秀な生徒を生むためのこの歪な学園の構造を変える必要があるのだ。普通の学園に生まれ変わる必要が。
実際にどうするのかはオリーブ学園長の手腕によるだろうがまあ悪い事にはならないはずだ。彼女がそう望んだのだから。
「と、いうわけだ。オリーブ学園長。」
「うちの生徒が大変な失礼を…。」
「もう騙しあいも結構。それに失礼なことをしたのは俺の方だしな。
「ええ、最近優秀なカウンセラーを雇ったものですから。」
「しかしアンタはどこまで…、まあいいや。そうそう一つ提案があるんだが。いま一番アンタが困ってるのは
実際彼のおかげでこうして学園が変わる理由を、きっかけを作ったとはいえ処遇自体には厳しいものがある。つまるところ学園初の退学者として扱わねばならないということだ。
「そこで…一つ契約をしよう。アンタが救いたいと思った救えないやつを俺が雇うっていう契約だ。ウチも人手が足りなくてね。勿論、審査は最低限するがね。」
「願ってもない事です。領主様。契約書も用意してありますので。」
おいおい、なんで用意してあるんだよ。まるで俺がそう提案するのが分かってたみてえじゃねえかよ。ホントに優秀なことで。
「安心しろ、この家紋に誓うとも。」
そういいながらサインと印を押すために一応契約内容を確認すると、
「なんだこりゃ?なんで雇う側のウチが
「これは正当な評価ですよ。私が評価した貴方の、ね。」
「光栄なことだ、学園長殿。」
つくづく食えない人だね。全く。
「ああそうそう。最近雇ったカウンセラーはクビにしておきますから。彼女はもっとやるべきことがあるでしょうし、他の人物を雇うことにします。」
「…そいつはどうも。」
本当に何から何までお見通しかい。
「はあ…ここまでできるんなら俺の力なんて要らなかったんじゃないのか?」
「いえ、結局私一人ではもう止められなかったのです。いまでも私は
無能は自分を無能とは言わないんだよ学園長。
かくして学園編は幕を閉じる。
終わってしまえば呆気ないもの、鴨にしようと意気込んだはいいものの、いいように使われたのが今回のお話。
ま、人材確保に加えて思わぬ報酬も頂いたことだし俺としても万々歳だ。
次の鴨はキチンと騙しておかねえと俺の詐欺欲が暴走しちまうかもな。
と、言うわけで俺達とアストラ学園との関係はここまで、次の標的は誰になるのか。
ヒントは冒険者。それでは皆様、ごきげんよう。
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