第15話 解答、仕込み

 ざわざわと、教室は騒がしい。授業の始まる前なんてのはどこだってこんなものだろうか。


 雑談をする生徒たちをおさめて授業こと答え合わせを行う。


「それじゃあ授業を始めよう。前回はキュプノスについて嘘を一つ見つけられれば口添えをするっつーのが宿題だったわけだがどうだ?わかったやつはいるか?」


 ぱらぱらとまばらに手が上がる。真実、答えを理解していそうな呆れた顔をしているのは一人だけか。思ったより少ないな。


「んーじゃあそこの君。」


「はい。僕が思うに先日の話の嘘というのは―」


 何人か、理解できていない生徒に答えさせて適当に返事をして納得させる。そろそろ潮時か。


「よしじゃあ最後に…。そこの女の子。」


 眼鏡をかけたいかにも頭のよさそうな委員長タイプの子に当てる。


「キュプノスについての嘘、というのは…。キュプノスという魔法がが嘘だ、という事でしょう。領主様。つまり昨日の話は全てデタラメ、そうですね?」


「はい、正解。うんそうだね。皆の言いたいことはわかるよ。なんだそれはって。馬鹿にしてるのかって。そう、鹿。」


 生徒たちが少しざわつく。まあこんなことを言われたら当然だろうが。


「私は魔法について一般的な知識しか持たないし、君たちの方が十分に造詣が深いのは間違いない。でも君たちはキュプノスの存在を信じたし、穴だらけの論理と説明を見破ることができなかった。」


 俺が君たちに魔法の事を教えられるはずもないなんて少し考えればわかるはずなのにな。


「そして一つだけ間違いがあると言えば本当に一つだけだと思い込む。教師として教えているのだから嘘をつくはずがない、そんなことをするはずがない、馬鹿らしい。そう考えるだろう。その考えに。」


 人を騙すに大事なのはあり得ないという偏見を利用することだ。


「私の話を信じ込まずに全ての内容を検討したのだろうね彼女は、一つに留めず、すべてを検証していけばいくほど俺の話のが目に付くのさ。私が君たちに教えるのは騙されないための授業。生きていくうえで近づいてくる悪人から身を守る術だ。」


 そう、俺が教えられるのはこれだけだ。ただこれを知っているかいないかで食うか食われるかが変わる。知らないだけで、なんてしなくちゃいけなくなる。


「それじゃあ本当の講義を始めよう。第一回は ―悪人と鴨― だ。」


 勉強ができるのは素晴らしい、だがそれだけでは足りない。生きるというのはそんなに簡単じゃない。俺の話で損をする善人が一人でも減ればいいがね。


 …講義終了。午前の部はおしまい、今は昼休みだ。はあ…まだ何回かやんなきゃいけねーよなあ…午後の部だりいなあ…。


 そんなことを考えながら食堂で買ったサンドイッチを食べる。中庭でコレを食うのは俺のルーティンになりつつあった。


 おや…あれはアクセルだ、どうやらカウンセラー室に用事がある様子。意外と早かったな。もう少し掛かると思ったが。


 重い顔つきのアクセルを横目に食事を終えて次の授業に向けての準備をする。まあゆっくりやろう。


 とはいえ朝の内容はもう伝わっているようで、午後の講義でのネタバラシはあまり驚かれることもなく、淡白な感じで受け入れられたものだった。


 sideバーバラ


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 コンコンコン今日もノックが鳴る。


「はーい、どうぞー。」


 昨日と今日だけで何回言っただろう、このセリフ。


 ボクの返事で入ってきたのはクロード様から言われてたアクセルって子。


「…どうも。」


「いらっしゃーい。何か飲む?思ったより生徒さん来るから色々用意したんだよねえ。」


「別にいらないです。」


「そっか。」


 クロード様から聞いてたけどなんだか暗いし真面目そうな感じの子だなあ。


「それで…どうしたの?どんなお悩み?のボクが何でも聞いてあげよう。」


「それが…その…。」


「安心してよ、ここで聞いたことは誰にも言わないから。学園長ともそういう契約してるんだし。」


「その…俺のクラス、回復研っていうんですけど…そこで…いじめが起きてて…。」


「ふむふむ、それで?」


「それでって…。だから、その…なんとか止められないかって…。」


 ふーんやっぱり調、根はいい子だったみたいだよね、今は若干腐ってるみたいだけど。


「うーん、なんだか勘違いしてるみたいだけどボクはカウンセラーであってじゃないんだよ。君たちの悩みを聞いて、それに寄り添う。それだけなんだ。それに…。いじめられてる子は私に相談しに来てない。だから…案外?」


「そんなはずがあるか‼」


 お、きたきた。


「どう考えたって助けて欲しいに決まってる‼あんなの…あんなことが許されていいわけが無いんだ‼」


「ふーん…じゃあ君が助けてあげればいいんじゃない?さ。」


「な…‼なんで…、大体、それができれば俺だって…!」


「ねえ、アクセル君。君は何しにここに来たの?どうなりたくてここに来たの?」


「俺は…。」


「やりたいようにやってみたら?ふふっ大丈夫だよ、失敗しても愚痴ぐらいは聞いてあげるからさ。ボクはだからね。」


 上手く仕込めたかな?ははっやっぱりこの作戦めちゃくちゃだよね。人間の感情なんてそう推し量れるもんじゃないってのにさ。


 クロード様はやっぱりどこかイカレてるのかもね。そういうとこが好きなんだけど。


 結局フラフラとうわ言を言いながらアクセル君は出て行っちゃった。まー仕方ないよねー。ボクもあんまりこういうの言いたくなかったけど、うじうじしてるも嫌いだしね。


 でもリンネもノルドもよくこんな細かいとこまで調べてくるよね。ボクも時々こういう調査やるけどあんまり得意じゃないんだよなー…。


 少年が帰った後の部屋で見返すのは一枚の羊皮紙にまとめられた情報。


 ―アクセル・ブライト―


 平凡な生まれの庶民であり、裕福ではないが愛情を注がれて育ったゆえに正直で優しく誠実なまさしく善人と呼ぶべき子供であった。小さいころから人助けを進んで行うため村での評判も良く、将来の夢は英雄ヒーロー。実際は傭兵になり、魔物と戦う道を進むつもりだったようだが両親の説得もあり、アストラ学園に入学。学を積んで騎士団に入団するのが現在の目標のようである。


 入学当初は横行するいじめに何とかできないかと教師などに助けを求めるも学園の構造上突っぱねられる。親の期待を裏切るわけにもいかず、見て見ぬふりを続けた結果が今の彼の現状そのもの。


 以上、クロード様が追加で調べさせた生徒たちの資料一部抜粋。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る