第14話 俺の授業、バーバラ

 早朝、天気は好調。今日からは臨時講師としてアストラ学園に世話になるわけだ。準備していた授業の内容を確認しながら学校へ向かう。


 学園の規模は数日通ってみて思ったがかなり大きい、掃除も恐ろしいほど行き届いているしどれ程の人件費を注いでいるのか、というレベルだ。


「さて、上手く授業はできるかねえ。」


 大して心配してはいないがさすがにこの王国の未来を担うような次世代のエリートがそろう場だ。もしかしたら嘘が途中でバレるかもな。だとしたら嬉しいが。


 流石に前世でも教師はやったことがないので若干沸き立つ心を抑えつつ、最初の授業が始まる。


「えー、おほん。これから数日皆のために領主様が特別講義をしてくださることになった。くれぐれも失礼の無いようにな。では、あとはよろしくお願いします。」


 クラスの担任であろう教師が俺について本当に簡単に説明をして教室から去っていってしまう。残されたのは俺と数十名の生徒たち。回復研ではないのでサリアたちはいないが。


「それでは皆、今日から授業をするクロードだ。疑問があるだろう、お前は何を教えるつもりなのかと、まして年も変わらないだろう同年代のお前が何をするのか、と。」


 生徒の様子を伺ってみるがおおよそ当たっているだろう。


「俺が教えるのは近年発見されたについてだ。…今何人か馬鹿なことを言うなと思っただろう。ただこれは事実だ。知らされているのは王国内でも数名だが実は誰であろうとこの事実にたどり着くことは可能なんだ。」


 皆の顔がいかにもどうしたコイツみたいな顔になりつつある。そりゃそうだよな、伝説の魔法ってなんだよって話だし。


「まあ話半分だと思って聞いてみてくれ、聞けば聞くほどに君たちは伝説の魔法の存在が確かなものだと信じるだろうし、ともすれば未だに未解明な部分の多いそれを紐解く第一人者になるかもしれないのだから。それじゃあ講義を始めよう。」


「伝説の魔法とは人を操る魔法であり、この名をキュプノスというのだが既に知っているという者はいるか?」


 誰も手を上げない、


「そうか、君たちの中には此処にたどり着いた者もいるのではと期待していたのだが…まあいい、まずいつこの呪文が発見、確認されたか、ということだが―」


 今俺の話を信じているのは2,3%といった所か。


「―であり、加えて、この点は過去の王国の記録と照らし合わせてみても似たような現象が起こされており―」


 キュプノスの説明を終えて実際に過去の記録との関連性についての内容に入る。ここでは20%ぐらいが信用しているか?


「―さらに知らぬ者はいないであろう魔法研究の第一人者であるアレクサンドラの論文、―魔法研究とは―からの一節によれば―」


 過去との関連性すらも超えてここからは論文やらの著名な人物の記録などの引用を用いた伝説の魔法の裏付けに入る。ここまで来ると60%は確実に存在するものだと考え始める。


「―現状ではキュプノスと銘打ってはいるが使用者を確認した、確実な例が無いことも事実。これは無論このような能力の魔法を所持しているということ自体がマイナスの要素を持つ場合が多く―」


 終わりに近づきなぜ今まで発見されていなかったのかという考察に行きつく。100%達成、だ。いや実際にはまだ半信半疑ではあるだろうが十分に存在を認めるだけの魔法になっているはずだ。


「―というわけだ。どうだった皆、最初こそ馬鹿にしていただろうが今はどうだ?少なくともこのような魔法が存在して、研究するに値する内容だったと思ったんじゃないか?」


 生徒の様子はそれぞれだが、信用0の奴はもういない。


「では俺の宿題だがこのキュプノスについて君たちも過去の文献、論文、記録から情報を集めてみて欲しい。それに先生はこのキュプノスについて一つだけ嘘を混ぜている。これを見つけてこれたら領主様が直々に先生に口聞きして評価を上げてもらうようにしてやろう。やるきがでてきたか?」


 教室から歓声が上がる。皆評価は死ぬほど欲しいだろうし領主様からの口添えとかすごそうな感じ出るよな。


「それじゃあ講義はここまで、明日まで頑張って。」


 まずは一つ目の講義が終わる。これを後何回も他の教室に回ってやらねばならない。

 …めんどくせえな。一回やるだけで結構疲れたんだが、先生って生き物は凄いな全く。


 結局この日は何度も何度も今の講義をやり続けて、夕刻には疲れで顔が死んでるくらい位はひどい状態だった。そんなフラフラの脚で新設されたカウンセラー室に滑り込む。


「はーい、どうぞー…ってクロード様じゃん。」


「はあ…マジで疲れた。ホント同じことをやるってのは精神的にクルものがあるな…。」


 新しく学園に雇われたというカウンセラーと少しだけ話をする…ていうかバーバラだな、うん。


「で?どうだったよラーラさん。カウンセラーのお仕事は。」


「んー?別に普通だよ?あの先生が嫌いーとか、あの子の事が好きなんだけどーとかお悩み相談室だしね。でもいじめについてはだれも相談してこなかったかな。」


「ま、最初はそんなもんだろ、が来ただけマシってもんさ。じきに愚痴をこぼしに来るさ、そういう場を作ったんだからな。」


「だといいけどねー、っていうか今一番学園で疲れてそうなのはクロード様だし。このラーラさんに相談してみなさい少年よ。」


「うるせえ、つーかあんまり気を抜くなよ?一応敵陣ど真ん中…ってわけでもねえけどバレたら面倒だし。」


「はいはーい分かってますよー。」


 分かっているのかいないのか、ただまあこんなゆるーい感じが生徒にウケるのを願うばかりだな。気安さがないと悩みを愚痴るのは難しいだろうし。


「うし、じゃあ俺は先に帰るから。上手くやれよな。」


「えー、一緒に帰ろうよクロード様。折角なんだし。」


「領主と新任のカウンセラーが一緒に帰ったらおかしいだろうが。つーか俺がここに来るのもこれが最後な、最初だけ新しくできたカウンセラー室に興味を持ったっていう理由で入るだけだし。」


「えー?普段の悩みとかをお姉さんに相談してもいいんだよ?」


「最近の悩みはバから始まるメイドが生意気で困るってのが一番の悩みだな。」


 バタリ、と扉を閉めてカウンセラー室を後にする。なんだか中で怒りの声が騒がしいが気のせいだろう。その足で学園を出て屋敷に帰った。


 夜、夕食の折。


「なあ、気のせいか?帰ってからずっとバーバラが俺に付いてる気がするんだけど。」


「気のせいじゃない?クロード様。」


「んなわけねえだろ!トイレにまでついてくるやつがあるかよ!どんだけ世話してえんだよ!」


「ボクはいつも通りだよクロード様。」


 なんなんだ一体。帰ってからというもの事あるごとにバーバラが俺に引っ付いてくる。そんなに怒らなくてもいいだろ…。


「…。」


 なんかそのせいなのかわかんないけどローズもミシェラもピリピリしてるし。すげーやりにくいんだけど。


「はあ…少しくらいは目を瞑ろうかとも思いましたが…少々躾が必要みたいですわね。」


「いやローズも気持ちはわかるけどよ…バーバラも悪気があるわけじゃねえし…。」


「私が躾けるのはクロード、貴方よ。」


 なんで⁉なんも悪いことしてねえだろ⁉


「人の心を弄んでいるのが悪いのよ全く。」


「さりげなく人の心を読むのやめてね…。心臓に悪いから。」


 いつになく居心地の悪い状況の中気まずい夕食をとって眠りについた。

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