第13話 作戦会議、ミシェラの事

 夜も更けたころ、俺、ローズ、バーバラ、リンネ、ノルドはこっそりと作戦会議を行っていた。


 因みにミシェラは自室で夢の中。大っぴらにこんな集まって作戦会議してたら怪しまれる。あくまで俺はアイツの前では優秀な領主様なんでね。


「作戦会議はじめー…やっぱ小声だとちょっと締まらねえな。」


 こそこそやってるのだから仕方ないが妙に肩肘張るなこうやってると。


「それで?何かつかめましたの?クロード。」


「なんで声量がいつも通りなんだよ。もうちょっと下げろ…ミシェラが起きたらどうすんだよ。」


「貴方ときたらまだミシェラ《あの娘》のことが理解できていないのね。」


 ローズ…お前まだここにきてちょっとしか経ってねえだろ…。俺よりミシェラのこと知ってるってのかよ…。まあコイツが言う事だし正しいのかもしれねえが。


「はあ…じゃあそのままでいいよ。んで話を戻すが、なんとなくこの学園の闇、のようなものが見えてきた。これに限っちゃ他の学園でもあることではあるんだがな。」


「早く教えてよクロード様。」


「つまりだ、バーバラ。アストラ学園はいじめが横行している。」


「うわー…いじめか。ボクそういうのキライなんだよね。でもそれって言い方悪いけどアストラ学園だけってこともないんじゃない?」


 確かにどこの学園、いやどんな場所にでもいじめ自体はあるだろう。


「それはそうだ。ただアストラ学園はそれが起こりやすい。いうなればいじめの温床なんだよ。」


「あぁ、そういうことですか。クロード様。」


 リンネとローズは察しがいいのかなんとなく理解してるようだ。バーバラは…いつも通りだな。ノルドは表情から読み取れん。ポーカーフェイスがうますぎるんだよ。


「つまりだバーバラ。優秀であることを強いて無能であることを否定する学園の根本的な構造として、無能になった側の人間は優秀側の人間にいじめられやすいってことだ。格差を明確にしてるのが問題なんだろうな多分。」


「ふーん。それでもいじめる気持ちはボクにはわかんないけどね。」


「人は弱いってことだよ。思春期に明らかに格下の人間がいて、ストレスの溜まる環境にいたんじゃそうなったっておかしくないのさ。」


「クロード様も思春期真っただ中だけどねー。」


「俺の事はいいの。それでこの闇の部分を活かして作戦を考えたんだが…。今回はバーバラ一人で頑張ってもらうことになると思う。」


「え⁉ボクだけ⁉」


「そ、ボクだけ。つーか大人数で学園に近づく方法が浮かばなかった。」


「別にいいけどさー、何やればいいの?」


「バーバラにはやってもらおうと思ってる。」


 多分これが一番適任なのがバーバラだけなんだよな。


「カウンセラー?」


「そう、簡単に言うと生徒からお悩みを聞いて、それを解決してあげる。そんな感じだ。」


「うーん、でもボクにいじめ解決なんてできるかな…。」


「ま、解決ってのは無理だろうが…、ただ被害者や周辺生徒の話を聞いて寄り添ってやれればそれでいい。おそらくそれでうまくいく。」


「まあそれならやってみるけど…それでどうやってお金をだまし取るの?」


「そこは今は考えなくていい。ただそう振舞ってくれればあとは俺が何とかする。」


 こんな風にカッコつけたけど成功率は…10%くらいか?まあもそこまで期待してはいないだろ。


「オッケー、まかせてよ。」


「それと、リンネとノルドには明日からラヴィニアでオリーブ学園長の事探ってみてくれ。情報がとれるかどうかは怪しいが。」


「わかりました、クロード様。」


「かしこまりました、坊ちゃま。」


 二人がいつものように返事を返す。バーバラとちがって雑談してくんねーんだよな。ただこっちから振るのもなあ…今は一応作戦会議だから場が緩くなりすぎてもいけねえし。


「ローズは…お留守番だな。」


「当然でしょう。留守を守るのが妻の務めですから。」


「まだ婚約してねえだろ…、間違ってはねえんだけどよ…。」


 ローズとの正式な婚約を結ぶのはいつになるのやら。


「安心しろバーバラ。俺も多分もう少し向こうにいる算段はついてるしな。」


「それはいいんだけど…カウンセラーって雇ってもらえるかな?中に入ること自体が難しそうなんだけど。」


「あー気にしなくていい。最低限の身分を作っておけば多分大丈夫だ。」


「…?クロード様がそういうならいいけど。」


 都合よく進むはずだぜ?俺の読みが当たってるならば、だが。


「そんじゃあ今日は此処で解散、遅くに悪かったな。ゆっくり寝ようぜ。」


 俺の一言で作戦会議はお開き、さっさと席を立って皆明日に備えて自室に戻る。明日も頑張らねえと…って俺はあんまり頑張らねえんだけど。


 やや気楽に構えたまま俺はベッドに入りさっさと眠ってしまった。




 翌日、視察最終日。俺は、夕刻、つまりは学園長との最後の挨拶をしていた。


「いかがでしたでしょうか。この3日間。我が学園に問題はありましたか?クロード様。」


 思ってもないことをいうね、学園長様は。


「ああ、。視察結果もいい内容をかけるだろう。」


「…そうですか。」


 そう残念がるなよ学園長。


「ところで学園長。少し提案なんだが…私を教師として少しの間雇ってみないか?なーに領主としての仕事は当分問題ないよう予定は開けてある。数日でいい。」


「…構いませんが何を教えますか?内容によっては領主様とは言えども雇うことはできませんが…。」


 心配せずとも貴女が子供の頃に欲しかったであろう物を教えるつもりですよ。


「安心してください、内容は――――――」


「わかりました。数日であれば問題ありません。明日からよろしくお願いいたします。」


「感謝する。では明日からよろしく頼むよ学園長。」


 こうして明日からは教師クロードとして学園に足を運ぶことに成功。といってもこれ自体はそんなに心配してなかったんだが。


 とはいえ成功は成功。浮ついた心でランスソード家の屋敷に戻るとそこにはミシェラが立っていた。


「おおミシェラか、どうしたんだ?私は今日はをしてきたから少し疲れてるんだが…。」


 勿論嘘だ。ま、サリアやアクセルとは違って俺は完璧にばれない完全な嘘だが。


「散歩に行きましょう、お兄様。」


「今から?もう日も落ちると思うが…。」


「今から、です。」


 なんだ今日のミシェラはえらく押しが強いな。別に散歩が嫌なわけじゃないんだけどな。


「わかったじゃあいこうか。久しぶりだな、こうして二人で歩くのは。」


「ええ、。」


 実際久しぶりだ。昔…もっと幼いころはよく近くの湖まで二人で遊びに行ったものだが。


 見慣れた道を二人で歩いているとミシェラが何か思いつめた様に話を切り出してくる。


「お兄様。私に何か隠していることがあるんじゃありませんか?」


 …ごめんな、クズな兄で。


「ははっミシェラにはかなわないな、実は最近肩を痛めてな…連日の机作業が体に響いてるんだろうな…。」


「そうでありません。もっと…大きなことです。とても、。」


「ん?大きなこと?さて…ああ!ミシェラの誕生日の事か?こればっかりは教えられないな、とびきりのサプライズを用意してあるから楽しみにしててくれ。」


「…まあ、いいです。お兄様が言いたくないというなら今はそれでいいです。でも忘れないでください。私は何があろうとお兄様の味方ですよ。」


「嬉しいよ、ミシェラ。」


 悪いなミシェラ、お前に本当の事は言えないよ。本当の…こんな中身の俺を知ったらきっとお前は俺を許せなくなるだろうさ。


 誠実で優しい、生まれる場所を間違えた君は、ゲームの筋書き通りに裏切るしか道がなくなるんだろうさ。


 きっとそれは優しいお前には辛いことだ。例え人を騙すことにしか快楽を得られないようなゴミを切り捨てることですら、な。


 それに俺もまだ死にたくねーし。だから俺はお前の前では優秀な兄を演じるしかないんだよ。どこまでいっても我儘だな俺は。


 当たり障りのない作られた笑顔でミシェラとの散歩を続けた。ホント嘘が上手くていい事なんて何ひとつないよな全く。


 散歩から戻り、自室にていつもの机仕事をしているとノックと共にリンネが部屋に入ってきた。


「失礼します。早速ですが情報がとれましたので取り急ぎご報告を。」


「ん?昨日の今日でもう取れたのか?」


「たまたまです。丁度幼少のオリーブを知る人物。実家があった場所の隣家、呉服仕立て屋の老婆から話を聞けました。」


 まじでラッキーだった感じか。


「話によればオリーブは幼少はどこにでもいる普通の子供だったようです。ただ親が詐欺に逢い財産を失い借金にまみれた。」


 耳が痛いね、同業者としては。


「生きるに困った一家は心中を図るも…オリーブ一人だけが僅か10歳で生き残ってしまった。」


「…まあそんなところだろうな、思った以上に最低だったが。」


 良くある話なのだろうかね。この世界では。


「以降の消息は掴めません。街を離れただろうことは確実ですがさすがの借金取りも子供一人捕らえたところで金にはなりませんから。追うことはなかったようです。」


「ありがとなリンネ。この情報を加味したら…3,40%ぐらいに成功率が上がったよ。引き続き情報を探ってくれ、ノルドにもそう伝えておくように頼む。」


「了解しました、ところで…。」


「ん?」


「そろそろミシェラ様にこれを隠すのも限界かと、どこかのタイミングで―」


「前も言ったろ。これはミシェラには隠し通さなくちゃいけない。アイツはに来ちゃいけないんだよ。死ぬ気で隠し通せ。」


「…メイドでありながら差し出がましいことを…申し訳ありません。」


「気にするな、これは俺の我儘エゴだからな。迷惑をかける。」


「そのようなことはありません、では失礼します。」


 そういってリンネはさっさと部屋から出て行ってしまう。まあ土台無理なのは分かってる。それでもうまくやらなきゃいけないんだよ、俺たちは。


 この日はなんだかうまく寝付けなかった。



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