第12話 下手な嘘、学園長
必死に弁明をする彼女を何とか落ち着かせたところ、ようやっとマトモに話ができるレベルにまで漕ぎついた。
「もう大丈夫かな。そして…ソレについてなんだけど、率直に聞くけどそれは教授からのものかな?」
「…いえ、違います。これは私が自分でコケちゃった時のもので…。」
彼女の口ぶりからして嘘はない。前半部分は、という前置きがつくが。
「…いじめ、ということか。」
「…違います。」
「嘘が下手だね君は。それは美徳でもあるけれど。」
ホント、嘘が上手くていい事なんて何ひとつありゃしないんだから。
「思うに、この学園では無能、すなわち出来の悪い生徒のカースト、つまり立ち位置が低いんじゃないか?それが理由になっていじめられるし、それを学園も黙認している節がある。」
「…。」
サリアは何も答えない。思いつめたような表情からは何を読み取るべきだろうか。
「私はね、サリア。確かにこのランスソード領の当代領主だし、無理を利かせれば君を此処から救うことはできるかもしれない。ただ君自身がそれを望まない。そうだね。」
「…。」
沈黙。しかしそれ以上に彼女の姿勢、スタンスを表明しているともいえる。
この学園、確かに卒業できれば優秀という評価でどこかに所属して働けるのは確かだが裏を返せば退学者は今後無能のレッテルを張られて生きるかもしれないという恐怖が付きまとう。
しかも表向きは退学者はゼロときた。これで学園唯一の退学者なんてことになったらどうなるやら。
たかだか数年のいじめごときで今後の人生を棒に触れないと考えてしまっても仕方ない。
それを耐えてしまえば成功が約束されるのならその選択ですら正解になるのかもしれない。
「そうだね…。君のクラスで一番力のありそうな人物、つまり優秀な人を教えてくれるかい?」
「え…?でも…。」
「大丈夫、悪いようにはしないよ。少なくとも君にとっては、ね。」
「…アクセル君。アクセル君が
アクセル?ああ昨日この子が起こられてた時に引き合いに出てきた子か。顔まではわからんが。
「ありがとう。じゃあ屋上に行ってくるとするよ。それじゃあ、頑張って。」
今はこんな言葉しか投げかけてあげることはできない。確かに俺は悪人のクズだし自己中心的だ。そもそも資格はない。
ただ自己中心的なんだから誰をどう救おうと俺の勝手。気に入ったやつだけ助けるのが俺の生き方なんでね。
サリアちゃんにお別れした後そそくさと速足で屋上まで駆け抜けた。飯を食べ終わってどこか行かれても困るしな。
ガタンと屋上に通じるドアを開けるとそこには一人でサンドイッチを食べながら難しそうな本を読んでいる男の子が一人。まあ十中八九アクセルとやらだろう。
「少しいいかな、少年。」
「あぁ、領主様ですか。これはお見苦しいところを。」
「気にしないで、どうかそのままで。」
領主って立場はめんどくせえな。話しかけてもすぐに畏まりやがる。当たり前だが警戒されてると話聞きだすのだりいんだよ。
「君に話を聞きたくてね。」
「俺…私のつまらない話でよければいくらでも。」
「ホント自然体でいいから。年も変わんねえんだしよ。」
「…そうか。」
こっちが崩してやらねえと固くていけねえ。
「君のいる回復研ってところにサリアっていう女の子居るだろ?ぶっちゃけあの子の事どう思ってんのかなって。ああ大丈夫、全て
「…別にどうも。特に思う事なんてないよ。」
半分嘘、ってとこか?
「嘘はよくないなアクセル。いじめについて何も思うことが無いってわけじゃないだろう。」
「…確かに目の前でされれば不快ではあるよ。ただ、止める理由もない。」
視線が泳ぎ、声はほんのわずかだけ震える。皆して嘘が下手だよな全く。隠そうとし過ぎなんだよ。
まあこれだけの会話でもいい収穫になったな。ある程度はつかめてきた。
「そうかい、ありがとよ。別にお前をどうこうしたりはしない…つーか出来ねーしな。ただ…自分に嘘をつき続けるのは辛いぜ、少年。」
「領主様も俺と年変わらないだろ。少年はやめてくれ。」
「悪かったな、じゃ。」
ほんの一瞬だけとも呼べるほどの少ないやり取り、本当ならもっと情報を得たいが…近づきすぎると不味い。それに大体、学園長の狙いも読めてきた。
ただ…
「コイツは稼げねえなあ…。」
屋上から離れて飛び出た愚痴は誰の耳にも届くことはなかった。
そして夕刻、結局屋上でアクセルと話してからは大したことをするでもなく、ぶらぶらと学園を隅まで見回って終わった。
今は学園長室。何も言わずに帰るってのは領主としても失礼…というか人として失礼か。
「どうでしたか。クロード様。学園の様子は。」
「ああ素晴らしいことに変わりないよ。昨日と同じく。ただ今はそれよりも貴女に興味がある。学園長。」
「はて、私などつまらぬ人間ですよ、クロード様。」
「そのようなことはない。貴女はなぜそこまで優秀ということにこだわるのです?」
「言うまでもありません。優秀でなければ損をする。無能はいつだって奪われる。それだけです。」
予想が確信に変わりつつある、といった感じかな?
「成程、面白い意見だ。そうだな…出身はどこだ?貴女ともあればさぞ子供のころから有名だったのでは?」
「…私の出身はラヴィニア。幼少のころなど、たいしたことはしてませんが。」
ラヴィニア?意外だな、学園からは結構遠いが。ただ大きな都市ではある。多少名が知れてそうなもんだが。
「そうか…私も何度か訪れたが、あの街はいい。風の都、というのは名ばかりのものではないと思い知らされるよ。」
「そうですか。私などは…あそこの海からくる潮風のにおいが…とても嫌いでしたが。」
地雷踏んだか?
「…失礼した。それでは最後に聞きたいのだが…
貴女はいつから止まれなくなったんだ?」
―最初からですよ領主様―
彼女の返事はそれだけだった。
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