第11話 ローズの関係、二日目のこと
一日目の視察という
「クロード、貴方に僅かでも期待したのが間違いだったみたいですわね。」
「まだ早いだろ!一日目だっての…これから挽回すんだよ。」
いつだってローズは辛辣だが今日のは効くぞまったく…。
「しかし…中々面倒な相手ですわね。」
「あぁ、ホントにな。やりにくいよ。」
「…?ボクが聞いてる感じだとそんなに難しそうな相手って感じじゃないけど…。そりゃ確かに学園の闇を探すのは大変そうだけど。」
俺とローズの紅茶を注ぎながらバーバラが口を挟む。今回の問題はそこじゃないんだよな。
「あー、バーバラ。俺たちが今問題としてるのはどうやって今後も学園に入る地盤を作るかだ。最初から3日間で裏をとれるとは思ってねーのさ。ただその地盤づくりに問題が出てきてるんだよな…。」
「どういうこと?」
「俺が最初に考えてたのは3日じゃあ正しく評価できないって理由で今後も来る約束を取り付けるって作戦だった。」
実際問題3日あれば視察など完了してもおかしくないが領民からの疑いが…、とか黒い噂が…、とか難癖付けて入ることはできたはずだ。ただ…。
「おそらく、あの学園長もこちらの思惑をある程度読んでいたのでしょう。つまり今後長きにわたって監視されることを嫌った。」
ローズが補足してくれる。俺からの話を聞いただけで状況、思考を読んでいるあたりにコイツの異常性が出てるような気がするね。
「ふむふむ、それで?」
「そこで学園長は手を打った。先の話に出てきた逃げ出した生徒というのはサクラ、つまりは演技だということでしょうね。」
そう、今日逃げ出して指導された彼。おそらくアイツは今回の視察のためのパフォーマンス要員。まあ本当に逃げ出すような生徒も時々出ること自体は事実なのだろうが俺の視察一日目に都合よく重なるはずもない。
「それに何の意味があるの?」
「ここで重要なのは最低の事件が起きてかつ、最高の対応を生徒に行っていると示したことですわね。実態は知りませんがこの対応なら学園に非があると言うのは領主の立場としては難しいでしょう。」
「その通り、今後俺がさらに監視するために視察を続けるにはきっちりとした理由が必要になった。噂がどうとかの曖昧な理由じゃあなく確実な悪の証拠を握らないと厳しいってコト。」
「なるほどねー大変じゃん、クロード様。」
「そ、だからやりにくいんだよなあ…。」
これからどうするかは頑張って考えねえとなー…。あー、めんどくせえ。
悪人を騙すのは大好きだが調査の段階でこうも難航するのは前世含めても久しぶりだな。腕が鳴るよ、ホント。
「ところでよ、ローズは俺の妹ミシェラと上手くやれそうか?なんか顔合わせした時変な感じだったろ。」
「ふん、問題ありませんわ。私があの娘に家を追い出されることはなさそうですわ。」
「それは上手くやれてるって言えんのかよ…。というかローズとの婚約には最初バーバラとリンネもなんか否定的だったよな。」
「ボクは今でも否定的だけどね。でもまあローズ様の言う事にも一理あったからね。ボクもリンネも渋々認めてるんだよ。」
最初俺の家に連れてきたとき二人ともなんかスゲー嫌がったんだよな婚約すること。
途中でローズが何かに気づいたのか俺をハブって3人でお話、した後は態度変わってたけど。
「理想と現実、メイドと領主という立場の違い、それと少しのお目こぼしを上げるというだけの事ですわ。私、そんなに器の小さい女ではありませんので。」
「まあ仲良くなれたってことでいいのか…?」
「ミシェラ様の説得は骨が折れそうですが…まあ時間の問題でしょう。」
そういうと悠々と紅茶を飲むローズ。綺麗な顔も相まって様になっている。まさしくお嬢様だな。
「まあいい、上手くやってくれよ。目の前であんまりギスギスされても困るからよ。ったく疲れたな…今日はもう寝るよ。」
席を立ちぐぐっと伸びをしながら自室に戻る。明日からが本番だしな。英気を養うのも大事だ。
「お休みなさいませクロード。」
「ああ、お休み、ローズ。それにバーバラもな。」
「うん、お休みなさい。」
挨拶もそこそこに広間を出て廊下の使用人やらに手を振りながら自室でベッドに潜る。明日からどう動こうかねえ…。
取り留めもないことを思いながら夢の世界へと旅立った。
翌日、晴天なり。今日も今日とて俺は学園にいた。
「今日もよろしく頼むよ学園長。」
「ええ、昨日も言いましたが今日からはご自由にしていただいて構いませんので。」
その後お決まりの形式的なやり取りを終えて俺は学園を自由に散策し始める。さあ、ここからどうするかだが…。
「とはいえ、あまりいい考えは浮かんでいないんだがな…。」
結局、昨日から今に至るまで碌なアイデアは出てこなかった。
「行き当たりばったりも嫌いじゃあないがこれだとな…。」
特に見たいものも昨日見終えているので今はない。とりあえず昨日紹介の無かった職員室に行ってみたりしたが…。特に何もない。
傍から見て異常性がありそうなところはわからない。所詮いきなり飛び込んだぐらいでは理解できない裏というのがあるのだろう。長く見ていけば小さなボロが出てくるだろうが時間がないしな…。
うんうんと冴えない頭を捻りながら歩いていくと段々生徒の活気ある声が増えていく。どうやら授業が終わったらしい、今は昼休みといった所か。
皆が皆優秀とはいえ一介の生徒、子供であることには変わりない。いや俺も14歳なんだけどね?前世の記憶を足すと流石に一歩引いた視線になっちゃうワケ。
ここは聞き込みで情報を…と考えた矢先。
「おや、確かあの子は…。」
廊下をトボトボ歩いているのは昨日魔法研究室で教授サマに怒られていた少女。名はサリアだったか?丁度いい。
「失礼、お嬢さん。少しお時間貰うことはできるかな。」
「え…?ああっ‼領主様ですか⁉御免なさい、気づかなくって…。」
「そう固くならなくていい、ここは一人の友人と話すような感じでお願いできるかな。」
「わ、わかりました…。」
緊張が全くほぐれていないサリアを連れて中庭のベンチに移動して話を聞く。
「昨日はお恥ずかしいところお見せしました…。」
「はは…いつもあんな感じなの?」
「ええ、まあ…。私が悪いんです。何やっても上手くいかなくって…。」
焦燥した彼女の必死な言い訳は目を背けたくなるような気持ちにさせる。
「さっきも教授に怒られちゃって…。えへへダメですねこんなんじゃ。」
「まあまあ、ここに居ること自体が十分凄い事なんだから…。」
彼女を上手く慰める言葉を持ち合わせていない。所詮昨日今日あったばかりの人間が何を言っても同情を超えられないだろう。
「しかし、改めて凄い場所だねここは。まるで閉じた檻だな。」
「あはは…、初めて見た人はそう思っても仕方ないかもしれません。でもここを卒業できれば…親を安心させられるんです。」
確かにここを卒業したというのはある種のステータスにはなるだろうがね。
「成程、だからそんな傷を隠してまで此処に居るんだね?」
「…ッ⁉」
ガッと急いで左腕を隠す彼女。
「あれ、適当言ったんだけど…アタリ、かな。」
「ち、違うんです!これはっ!その…えっと自分で…。」
「ちょっと失礼。」
ただ何よりも痛々しいのは、
「違うんです…。これは私が無能だから…。」
自分に言い聞かせるように訴え続ける彼女の姿そのものだった。
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