第10話 学園の実態、それと些細な事件
「こちらが基本的な授業の風景になります。」
「ふむ…。」
まず紹介されるのは当然っちゃあ当然だが普段の授業の様子だった。学園である以上、ここが最も重要視されることは想像に難くない。
学園長オリーブの話によればランスソード領内、いや王国内でも最高クラスの教師を集めているとのこと。
教える範囲も幅広く教養から様々な職種の知識、果ては芸術的な内容まで網羅しているとのこと。
曰くいかなる知識をも蓄えることができれば、どこに所属しようとも使える人間になる、だそうだ。
実際問題教室の後ろで授業を聞かせてもらっている最中だが中々内容はハードだ。スピードが速く、理解の難しい内容でもお構いなし、無論わかりやすいよう極限まで無駄を省いたまさしく高質な授業だが…
普通の奴がついていくのは難しいだろう。実際俺も置いて行かれそうになる。
専門外の内容の授業とはいえ驚きだ、優秀なやつのための授業に相応しいとでもいえばいいのだろうか。
「―というのがアストラ学園の基本的な授業になります。では次の場所へ向かいましょうか。」
「ああ素晴らしいの一言に尽きるな、ウチも家庭教師を雇っていたが…さすがにここまでではなかった。」
「お褒め頂きありがとうございます。次は魔法研究がメインを据える場所で―。」
まずは一段落、授業風景は特に異常は無さそうか。次は魔法ねえ…俺は使えないんだよな、あればかりは生まれ持った才能が物を言う。
このゲームが元の世界は魔力を持って生まれなければ一生涯使うことができない、まさしく残酷な壁がある。妹は天才的な才を持っているが俺はからっきし。
とはいえ魔法の才能は
巨大な学園を長々歩きながら魔法研究室に案内されながら向かう。しかしでけぇな。
掃除も行き届いているようだし…莫大な資金を投じて改革を行った話は本当らしいな。
「ここです。こちらが魔法研究室、入学当初から秀でた魔法の才能を持つ者のみが入る特別なクラスであり―」
紹介されたのは教室、というよりは最早書庫といっても過言ではない研究室。
中央の巨大な錬金釜が目を引くがそれよりも周囲の余りある本棚が研究室という名を指し示しているようだった。
「生徒数は研究室によって異なりますが…ここ回復魔法研究室では15人。普通の教室が40人を一クラスとして扱いますから比較的少数での研究になります。」
「なるほど…私は魔法については残念ながら才がなくてな、正直な所あまり深い理解を持ち合わせて居ないのだが…。」
「滅相もありません。ただ魔物の脅威の事もあります。平和のためとあらばいかなる分野の魔法であろうと研究し尽くすのは才ある者の義務ともいえるでしょう。」
おっとそうだった。王国からあまり出ないもんで忘れていたがこの世界、ちゃんと魔物も魔王もいるんだよな。
俺ってば内政と貴族相手のごっこ遊びばかりやってるからあんまりそっち方面とは関わり薄いんだよな。ミシェラは邪竜とか倒してたけど。
そんな風に研究室を見ていると生徒の一人であろう少女が教授らしき人物に名指しされる。
「申し訳ありません…。教授。」
「お前はいつもこうだな、サリア。成功率は未だ50%といった所。少しはアクセル君を見習ったらどうだね。このままでいられるとは思わないこと。」
「申し訳ありません…。」
「オリーブ女史、アレは?」
「失礼お目汚しを。魔法というのは宙に描く魔法陣と発動するための呪文で成功率が決まります。今しがた怒られているサリアは些か成功率の低い所謂無能、でして。」
「成程。」
「我がアストラ学園は優を尊び愚を廃するがモットー。行き過ぎた教育と思われるかもしれませんが此処に居る以上優秀であることは最早義務、ですから。」
ふむ、つまりは出来ないやつには厳しい教育が施される。ということでいいのだろう。委縮して怯えるように教授の顔色を伺うのは無能にとっての日常そのもの。厳しいことで。
「委細承知した。教育というのはさじ加減が難しいものだからな。私がどうこう言う事ではない。それにこの程度は問題と認識しない。」
「領主様もご理解いただけたようで。」
実際、これぐらいの教育はどこでもあるものだろう。視察の問題点には出来ないというのが現実だ。
「では次の場所へ…。」
言われるままに魔法研究室を出て次なる場所へと案内は続く。廊下に出ていざ次なる場所へといった矢先、
「もう無理だ‼僕には出来ない‼耐えられない‼」
一人の少年が引き攣った顔で教室から飛び出して悲鳴のごとき叫びをあげて走り去っていく。
「はあ…申し訳ありません。よりにもよってクロード様のおられる今日、コレが起ころうとは…。まあいい機会でしょう。逃げだした無能の扱いもお見せいたしましょう。」
走り去っていく少年を横目にやれやれと言わんばかりの表情で説明を続ける彼女。コレが日常だとしたら流石に視察という都合、問題点として対処する必要があったがさすがにこの学園でも稀な出来事らしい。
言われるままに連れられたのは指導室と銘打たれた小部屋。中には拷問器具が…。ということはなくただソファーが二つあるだけだ。
「何故このようなことを?」
「…だ、だって僕は…無能で…要領も悪くて…。」
先ほど逃げ出した少年が捕まったのだろう。俺達が指導室に歩いて着くころには彼と指導員が話を聞いていた。
「確かに君は今、上手くいっていないのだろう。だがね、我々は君の努力を知っている。例えば―」
指導員が彼の泣き言を一通り聞いた後、まるで幼子をあやすように彼に話しかける。
それは彼が日々授業に振り落とされないように夜遅くまで勉強し続けていること。
彼が友人に教えを請い、何度も頭を下げてわからない点を聞いていること。果ては授業の細やかな態度まで。
彼の行ってきた努力を認め、肯定し、踏みとどまらせる。退学という二文字を頭から解消させる。これまでの努力を無駄にしていいのかというある種の脅しで。
どうやら説得は終わったらしい。少しだけ晴れやかになった彼の顔は誰が見ても明らかで、明日からの辛い日々を乗り越える覚悟を決めたと言わんばかりだった。
はあ…全く、キモチワルイね。
「どうでしょう。クロード様。ウチでは確かに無能に対する風当たりは強い。ただしクビを切り、見捨てるのは教師だけ。生徒として入学したのなら諦めるということはあり得ない。たとえ今は無能であろうと努力を認め、それを継続させることこそが私たちの使命。実際、結果として退学者が出たことはありません。」
確かに表向きにはこのアストラ学園から退学者が出たという話は聞かない。間違いなくスパルタのような実態ではあるが、教育機関としてはこれ以上ないのも確か。優秀な人材を育てる上では必要な教育なのだろう。
「…わかった。今回の視察でこのような事件が起こるのは…不幸というほかないのだろうが悪いようにはしないよオリーブ学園長。」
「その言葉を頂けただけでも幸いです。」
指導室から出た後は食堂やらなにやら学園としてのよくある設備を見せてもらったが特に言う事は無かった。強いて言うならどこもかしこも金がかかっているのは一目瞭然だということぐらいか。
「本日は案内をどうも。あと二日あるが…正直な所、形式的なものだ。そう肩肘を張らずとも安心していただいて構わない。」
「そうですか。でしたら明日は好きな所を見ていただいて結構です。事前に生徒と教師には話を通してありますので気になった人物に話しかけていただくのもご自由にどうぞ。」
「ではそのように。」
当たり障りない内容で(あの事件を当たり障りないというのかは疑問だが。)初日の視察は終わった。
しかし…
やられた、な。
やりにくい相手だ。
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