第9話 作戦会議、そして潜入開始

「よし、じゃあ作戦会議を始めるぞー。」


 俺のいつもの気の抜けた挨拶で今回の獲物について情報共有と作戦を考えていく。


 因みに今はミシェラはバーバラと街へお買い物中だ。でないとこんな話できないしな。此処の広間にいるのは俺とリンネ、ノルドとローズの4人だ。


「それでこの学園についてちょろっと下調べしてみたんだが…特に悪い噂に確証は得られなかったな。」


「簡単に出てくるようでは今の状況を保っていられないでしょう。」


「いや、そりゃあそうなんだけどさ…。なんつーか所詮学園だろ?教育機関があんまり金持ってるように思えないんだよな。」


「クロード様、実はわたくしの知り合いの娘が一人アストラに入っているようなのですが…」


 ノルドの知り合い…正直使用人やメイドの交友関係にはあんまり口出ししたくないからよくわからないんだよな。


「どうにも全寮制の学園ゆえにあまり連絡が取れない…というのは事前に分かっていたのですが入学から3年、未だに一度も顔を合わせていないとのことで。時々来る手紙だけが唯一の頼みの綱だそうでございます。」


「うーん…聞けばおかしいようにも思えるが…、別に良くある話じゃないか?お前らも別に生みの親と最近会ってないだろ。特にローズなんて数年幽閉されてたんだし。」


「いえ、それが面会を拒絶されている。ということで。」


「成程、逢おうとしても逢えないからおかしいってわけか。」


「左様で。」


 確かに学園から面会を断られるのは少しやりすぎ、というより傲慢にも近い。つかそんな状況ならすぐにクレーム入るだろ普通。どういう状況ならこのままを維持できるんだよ。


「手紙などいくらでも捏造できるでしょうし少々臭さが出てきましたね。」


「さすがに偽造の得意なリンネがいうと重みが違うな。」


「殺しますよ?」


「スイマセン…。」


「それにアストラは学費も高いと噂です。まあ領内どころか王国内でも最大級の学園ですから仕方ないと言われればそこまでですが。」


 学費、ね。そもそもこの世界における学園なんて家庭教師を個人で雇えない程度の貴族が通わせるか少し余裕のある平民の物だ。学費の高い学園、というのはそれだけで存在が矛盾しているようにも思えるが…。


 ただ高い学費を徴収しているのなら資金を貯めこんでいる可能性は高くなるか。


「そういえばローズの場合はどうなんだ?エルフォード家も家庭教師っていうよりは学園利用派だろ。」


「ええ、父から打診を受けたこともありますが、に囲まれて暮らすぐらいならあの家で幽閉されている方が幾分マシですわ。」


「それは…そうだろうな。」


 猿どもって…。もう少し言い方ってもんをだな…。


「まあ、なんとなく怪しい要素は揃ってきたな、となるとどうやって深く入り込んで情報を取るか、って話になるが…。」


 問題はここだ、この前みたくバーバラを送り込んで…とはいかない。まあこの場にいないのもそうだが、アイツは今年で18だ。フランクさゆえに忘れてしまうが俺より4つも上の十全な大人なのだ。


 今から学園に入学するにも学生は難しいし、教師は若すぎる。そもそも教えられる技術も無かろうから長期間の潜入は不可能だ。


 ノルドは…教師としてワンチャン行けるがそもそもノルドは潜入が不向きだ。いつかボロが出ないとは限らない。前回の貴族役は言っても少しの間だからな。だから上手くやれた側面がある。


 ローズ…そもそもやってくれないだろうな。普通に入学するより幽閉されることを選ぶような奴が潜入してくれそうもねえ。となると…。


「うーし、今回は潜入と調査は俺の役目になりそうだな。」


「はあ…クロード、貴方って領主でしょう。顔が認知されているなんてものじゃないでしょうに。」


「わかっているともローズ。潜入っつっても身分を偽るわけじゃない。堂々と領主クロードとして学園に入る。」


「名目はいかがいたしましょう。」


「ん?普通に視察とかなんかでっちあげればいいだろ。」


 まあ結構こういうのも手続き面倒なんだけどな。


「ですがクロード様、そのように潜入しては深いところの情報は確実に隠されてしまいますが…。」


「だからいいんだよ。隠す動きを見たいってのが本音だな。何かを隠そうとするってのはどうしたってボロが出る。」


「ですが貴方はそれを見抜けるとでも?私とのやり取りですらヒヤヒヤ綱渡りをしていたが。」


 俺の内心はバレバレだったわけね…まあどうせそんなとこだろうとは思ったけど。


「いやそれを言われたら何も言えねえんだけどよ…俺の本懐は潜入なんだぜ?」


「疑わしいですわね。」


「マジで信用無いのな…まあどのみち俺が行くのが今回は一番丸いしな。ローズが行ってくれるっていうなら話は変わるんだけど…。」


「あり得ませんわね。」


 だろうな。だから俺が行くんだし。


「それじゃあ俺が数日中に入って色々調査してくるとするかね。」


 色々としっかり調べないとな、人を騙すなら基本は調査、準備こそがものを言うのがこの世界さ。最悪俺一人で足りなかったらまた頭捻って中に入る手段を考えるさ。


 その後は料理長クラウディの料理に舌鼓を打ちつつああでもないこうでもないと細やかな潜入の名目やら学園の噂がどうだのという話をして終わった。


 そして数日後、領主の視察として俺はアストラ学園の前に立っていた。これから数日ここに入る。本来なら一日で終えるところなのだが色々と理由をでっちあげて3日間入ることになる。


 加えて俺が気に入ったとか何とか言って定期的に来れるような地盤を作る。そうすれば多少は無理をきかせることもできるだろう


 前回のラッセルの時はバーバラがおおよそ1か月は入った。それを思うと3日間というのはあまりにも短いが…。まあなんとかなるだろ。


「ようこそおいでくださいました。我がアストラ学園へ。」


 学園の中その応接室、客人を迎え入れる所であろう場所で学園長と対面していた。


「いや急な視察で申し訳ないな、オリーブ学園長」


 オリーブ・ストレンジャー


 女、年齢は35。この年にして名門アストラ学園の学園長をやっているだけはあり、その能力はホンモノ。指導から経営まですべての面においてその才を発揮しており、特に無能に厳しいのが特徴。使えないとあれば雇った教師もすぐに切り捨てるため学園の授業の質は高いともっぱらの評判。黒い噂こそあるが学園卒業者はほとんどといっていいほど、という評価を与えられ活躍するものが多く、入学希望者は後を絶たない。


 軽い前評判はこんなところか。ま、実際オリーブさんがどんな人間なのかっていうのはこれから確かめていけばいい。


「本来は1日で終えたい所なのだが少々事情があってな…。3日間世話になる。」


「いえ、問題ありません。それに噂はかねがね伺っておりますよ、クロード新領主殿。歴代のランスソード家でも随一の手腕。最近ではとよばれているとか。」


「はは…。身に余る光栄だ。自分などまだまだ未熟ものだよ。」


 おい誰だそんなイタイ名前で呼んでる奴。いやと比べたら遥かにマシだがなんだって、何が激烈なんだよ。まさか学園が呼び名の出どころなんてことないよな…?


「まあ挨拶もほどほどにしましょうか。あまり領主様のお時間を無駄にしても仕方ありません。早速案内させていただきますがよろしいですか?」


「ああ是非よろしく頼む。」


 こうして俺の潜入作戦が開始する。上手い事見抜いてみましょうってね。


 黒い噂と切れ者の学園長、愚人の毒などと称される学園の実態とはいかなるものやら。


 学園の闇の幕は未だ降りたまま、だ。


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