第4話 貴族ラッセルの苦悩、そして商談

 王国一の愚かな少女?んなわけねーだろ。一番愚かなのは俺に決まってんだから…って思ったが俺は女じゃねーや。


「ふーん面白い肩書じゃん。なんか掴めてるのか?」


「いやーそれがさあ?メイドの皆とーっても口が堅いんだよそのローズって子に関してだけ。まあもうちょっと時間あればどうにかなるかもだけど。」


「んー、じゃあもうちょっとだけ潜入してくれ。どうせあれだろ?休暇かなんかで実家に帰ってる設定でとんずらしたんだろ?」


「オッケー、もう一回ね。すーぐにローズちゃんの情報抜いてきてあげるからさ。でも報酬は弾んでよ?」


 なんだよ現金なやつだな。


「わかってるって、好きな服でも何でも買ってやるよ。よし!そんじゃあ仕込みを始めるか。今回はリンネと…あとノルドにも手伝ってもらうか。」


「私もですか最近のクロード様は人使いが荒いですね。」


「フロルドおとーさま(笑)の時よりましだろ?しっかり報酬も払うし、相手も悪人に絞る。付き合いきれなきゃ辞めてもらっても結構。そう言っただろ?」


「…やりますけど。」


 不服そうなリンネだが実際一度も仕事を拒否したことがない。なんだかんだ人を騙すの好きだろ、お前。


「リンネは何だっけ。あーネックレスとかだっけ。まあなんでもいいさ。なんてったってエルフォードは総資産1千万ゼニーは稼いでるはずだ。ぜーんぶかっぱらっちまおうぜ!」


 正直に言おう、俺の家に住むやつから働くやつまで何から何まで全員ロクデナシのクズばかりだ。真実、誠実な心の持ち主は妹のミシェラのみ。ごめんな、こんな兄さまで。


 当然、ゲームの本筋では滅ぼされて当たり前の悪役貴族様ってわけよ。こんなのやりたい放題だ。


「そうだな…アイツから金を抜くなら…やっぱか?まあでも高い画を売りつけるってだけじゃあツマラナイな。おそらくアイツの趣味が高じた結果の悪稼ぎってとこだろ。よくわからんローズって子は…計画に組み込めそうなら入れるか。」


「じゃあボク戻るねー!お仕事張り切っていこー‼」


「あいよー。んじゃあちょっと頑張って考えますかねえ。」


 嘆願書なんて後回しだ。だってそんなことよりもっとが転がってきたんだ。こんなの、誰だって我慢できねえよな?


「そうだなあ…リンネとノルドには…。」


 こうしてまるっと一晩エルフォード家の1億ゼニーを頂くための作戦会議に費やしてしまいましたとさ。結果は見てのお楽しみってね。めでたいかどうかはみんなが決めてくれ。


 そんじゃ、少しの間お別れだ。皆さまどうかラッセル君の健闘を祈っててくれよ?







 side ラッセル・エルフォード

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「チッ!クソが‼あの下流貴族が‼この私がわざわざ応じて画の取引をしてやったというのに。クソ!あの男なかなか目が利きやがった!」


 この前、どこからか噂を耳にした下流貴族の男が私に画を売ってほしいなどと持ち掛けてきたのを受けたのが間違いだった。


 …いやそれ自体は珍しくない。下流貴族が私の画を高く買うことで羽振りの良さやら何やらを高く見せること自体は時々ある。そういった馬鹿には適当に描かせた低品質の画を売ってしまえばいいのだ。


 最初こそいい腕の画家を雇っていたががかかる。ある程度私お抱えの画家の評判がついてきたらクビを切ってやったさ。後は成りたての画家の卵を安くこき使って馬鹿に売る。それだけでぼろ儲け。だったというのに…!


「あのクズが…!私の画を見るなり、塗りが荒いだの、細部が雑だのと…!挙句、それを吹聴して回ってやがる!クソ…クソ!」


 ただでさえで落とした評判を何とか回復させたというのに…。


 が要る。


 噂が落ち着くまででいい。最初の頃のように評判が戻るまでは腕利きを雇わなくては…。だが名のある画家連中は既に私の事を知っている奴が多い…。


 貴族に逆らうやつはいない。あいつ等が私の評判を落とすことはなくとも二度と雇われることもない…。どうする…。どうすれば…。


「ラッセル様、以前約束を取り付けたお客人が見えております。」


「…。通せ。準備は出来ている。」


 全く、この大変な時に客人だのと相手をしている暇はないが…。いったい誰だというのだ…。


 コンコンコンというノック音と共にメイドが扉を開き客人とやらを私の部屋に入れる。入ってきたのは…羽振りのよさそうな女。見たところ商人か?


「どうもお初にお目にかかります。私貴族の方々相手に商売をさせていただいておりますと名乗る者でございます。どうぞ、よろしく。」


「そうか、私はエルフォード家当主ラッセルだ。まあ堅苦しい挨拶はやめよう。私も時間がない身でね。そこにかけなさい。」


「では失礼します。」


 さてこの女リーネと名乗ったが…何の取引を持ち掛けてくるやら。


「私、商人とは申しましたが、少々取り扱っているものが特殊でしてね。その価値をどう受け取るかはその人次第、といった具合でして。」


「御託はいい。何を売りたいんだ。」


「ラッセル様が今一番欲しいものでございます。」


「ふん、成程私に娘からの愛情でも売ってくれるとでもいうのかな?」


「いえ、貴方様はそんなもの既にたくさん受け取っておられるかと。そうですね…例えば…画描き、とか欲しいんじゃないですか?」


「おい、貴様どこでそれを知った。事と場合によっては…」


「あぁ、ご心配なく。私が取り扱うのは情報と仲介。こういった商売は耳の速さと想像力で稼ぐものです。勿論、口外などいたしません。でなければ買う人はいませんから。」


 多少の脅しをちらつかせてもこの余裕。成程場数は踏んでいるらしい。


「それで?言っておくが私はそんじょそこらの画家なら…。」


「それも心配される必要はございません。そうですねえ…。」


 女は何やら持ち込んだ鞄から帳簿を取り出してめくり始める。


「こちら、なんていかがでしょう。」


 女が見せた紙には一人の画家の情報が細部に至るまで書かれていた。


「新進気鋭の天才画家、でございます。」


「ああここ一月で頭角を現した天才かね。残念だが私も彼には声をかけた。結果は見ての通りだがね。」


「ふふ、私は情報屋であり仲介役ですよ?そこをどうにかするからこそ私がいるのです。」


「…?なにがいいたい。」


「彼には秘密がある、そうでしょう?おかしいと思いませんでしたか?いくら連絡をよこしても貴族であるあなた相手に一目会う事すらしない、なんて。」


 たしかに妙な男だった。普通貴族からのがあれば顔を合わせるのが基本。例え相手が誰であろうとも、だ。


「彼には裏がある。人に会うことを極端に恐れる理由。できる限り人と会わなくなった理由が。」


「もったいぶらずにそれを早く言え!」


「それを売るのが私の仕事。そうですねえ…。1000といった所ですか。」


「ふざけるな!たかが男一人に会うだけで1000万だと⁉馬鹿にするのもたいがいにしろ‼」


「勘違いしないでください。さすがの私もこれだけで1000万はいただきません。彼とあなたを仲介して、貴方とクラウドがお抱え画家として契約する。それが認められればお支払い、という形で結構ですので。」


「それでもありえるか‼1000万なぞ、画家一人のために払うなど…。」


「はあ…いけませんねえ、そのクラウドという男の情報をよく読んでいただきたい。」


「ああ⁉」


「ほら、ここですよ、ここ。」


 女が指示した場所には…。



 天才画家クラウド 時代を先取りした天才であると一部の上流階級たちからもっぱ

          らの噂。そのセンスは歴代トップと名高く既に何名かが目をつ

          けており、彼の描いた画には高額の値がつけられている。あの

          美術にうるさいランスソード家も数点画を買っており、さらに

          別の貴族は彼の画に300万ゼニー支払っている者まで。



「さ、300万だと⁉」


「彼の情報、今は私が先取りしていますがすぐに王国、宮廷に広がる事でしょう。」


「し、しかし。このような話…。」


「私があなたを嗅ぎつけてここに居ること。それ自体が情報の確度の証明。そうではありませんか?」


「だが…。1000万ゼニーとなると…。」


「なに、心配いりません。既に彼の画を300万で買った貴族。アレ、あなたが先日もめた下流貴族の男なんですよ。あの男最近自慢していませんでしたか?」


「ああそうだ、何やら良いモノが買えたと自慢して回っているらしい。メイドからの噂話だがな。まさか300万で画を買っていようとは…。」


 下流貴族のくせに随分と貯めこんでいたらしい。最近稼ぎが増えて顔を出し始めたとは聞いたが…。


「アイツに売れば1000万なんてすぐです。それにアイツでなくとも名声はすぐに広まりますよ。1000万なんて目じゃない額が手に入る。貴方が最初に雇ったちょっと腕がいいだけの奴らとは格が違うんですよ。それにこちら…」


 女が取り出したのは一枚の画。確かに出来が違う。私は正直ある程度までしか画の価値は判断できんが相当の腕でなければ描けないことはわかる。


「…わかった。わかったとも。契約しよう。ただし!私がその画家と専属契約を結ぶまでだ。いいな‼」


「勿論ですとも!ではこちらの契約書にサインを。」


 ペンをひったくるように女から奪い取り、サラサラとエルフォード・ラッセルの名を書き上げ家紋の印を押す。


「では教えましょう。クラウドの裏、それはつまり…」








 ―両親を殺している―




 これが彼と契約を結ぶための弱みです。


 美しい笑顔で商人の女は嗤っていた。

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