第1話 俺の立ち位置、それとスタンス

 あっという間に時は経ち…。俺は14歳の誕生日を迎えていた。


 ハロー、みんな。いや、長かったよ全く。使えない親をするのにはここが限界だった。


 本来なら18になるころには確か両親が死ぬ、といったストーリーだったんだが…正直覚えてない。


 つーかこのランスソード家、出てくる尺が短すぎて誰も覚えらんねえだろ設定とか。

 つまり、このゲームの世界、{討魔伝~なんちゃらかんちゃら~}はよくある剣と魔法の世界で勇者様が悪い魔王をぶっ飛ばして終了。そんなお話ね。


 んで俺のランスソード家はもう、ちょい役もちょい役。

 話の中盤ぐらいで出てくるランス領を取り仕切る悪の親玉たる俺たち一家を勇者様が成敗!


 哀れ一家の当主クロードは領民たちによって数多の暴行、拷問を受けた後にさらし首。って感じ。


 なんだこのしょーもねえ役回りはよ。

 因みに唯一のランスソード家の善性の象徴。我が妹ミシェラ・ランスソードは情けない兄が死んだあと勇者御一行の仲間になります。


 もうどう考えても俺の役いらねーだろ。完全にミシェラのために取ってつけたような悪人みてえな存在だろーが。


 なんだ、クロードが死んだことに対して

「私の兄が許されぬ悪であることは事実です。例え肉親とはいえ当然の末路です。」

 って。兄ちゃん死んだ後にそんなこと言ってんじゃねーよ。


 まあ愚痴はここまで観客オーディエンスもいるんでね。


「さすがはクロード家の若当主様!ここまでの美しきピアノ、聞いたことがありませんわ。」


 社交界の場、親を処分した後に大々的な葬儀を執り行った後、俺の次期当主として世襲(一応言っとくけど俺長男ね。)したが故の交流会を俺主催で開いてるって状況。


 美しい音色を奏でたピアノから手を放し、その場に立って結びの言葉を述べる。


「拙い演奏ではありましたが、皆さまの歓談に華の一つとして添えることができましたこと大変うれしく存じます。未だ若い身ではありますが、我が父、フロルドの名に恥じぬよう邁進しますゆえ、どうぞこれからもご支援いただけますようよろしくお願いいたします。」


 拍手喝采、皆が俺の次期当主としてのパーティで俺をほめたたえる。まあそうだろうね。


 このランスソード家は悪役をやってるだけあってまあまあ地位は高い…というか持ってる領地がでかいからまあ力がある。


 そこの新たな当主様とあれば仲良くするのは貴族としては基本になるんだろうね。

「どうも、お久しうございます。エルフォード家当主、ラッセルでございます。こちらは娘の…」


 ってかんじでパーティの最中、つぎつぎと色々な家の貴族様が面通しに来ては娘やらなにやら紹介してくる。


 まあこの14という若さ、それに優秀だと評判の次期当主様なんだから婚約させたいでしょうよ。


 評判を流させたのは俺だけど。じゃないと14でいきなり当主なんてとてもとても。


「わが父からもラッセル様のお話はかねがねお伺いしております。是非今後とも…」


 何度繰り返したかもわからないお決まりのフレーズで応対する。ああメンドクセー。


 おっと、勿論顔にも声にもそんなの一ミリも出さないぜ?所作に関しちゃ9年みっちり体に刻んだんだ。何思ったって優雅に振舞えるようにしてるよ。


 ま、正直1年もありゃ十分だったけどよ、ほら、他にも覚えることあるしね?


「しかし、アリシアお嬢様におかれましては…また一段と綺麗になっておられる。

 以前語っていらしたバイオリンの腕前の方はどうでしょう?是非一度お聞かせいただければ…」


「まあ!覚えていらっしゃったのですか?もう7年の前のことですのに…。」


「当然です。私と同じ年でありながら当時7歳の頃からあそこまでの優雅なバイオリン。忘れる方が難しいというものでしょう。」


 アリシア・エルフォード


    エルフォード家の長女、年は俺とおなじ14で未婚。年の割には幼いころか

    ら聡明であり、活発な妹メリーをとの仲は良好。そしてバイオリンが上手

    く、そのことを自分でも誇っている節があり…。


 全て下調べしてある。俺の前世は信用詐欺師だぞ?上手く取り入るのは基本のなんだよ。何をほめれば喜ぶか、何を触れると気に障るのか?信用を得るにはまずそこから。


 今回のパーティで招待した家その数10家。うち参列者総勢27名。娘や息子、当主は当然ながら連れ立つ執事なんかの使用人の事まで頭ん中ぶち込んである。

 根回しに次ぐ根回しが俺の今後を決める、ミスなんてできやしないんでね。


 そんなこんなで全ての家にパーフェクトコミュニケーションを決めて皆様方にはこころよーく帰ってもらった。まあまあの成果だといえる。

 パーティの片づけを家の使用人に命じながら自室に戻る。


「悪いなノルド、俺はこれから自室で民衆の嘆願書に目を通す。」


「わかりました。どうぞこちらは我々にお任せください。」


 ガタン、と扉をしめて一息つく。


「ハアー…、やってらんねえよな全く。」


 さーてと、これから嘆願書を読んで領民たちを救ってあげる方法を…考えるわけねえだろ。こちとら前世は詐欺師だっつってんの。


 悪いことしたいの!人を騙して唖然としたときの顔を見たいの!それが生きがいなの!


 なんで領民たちの願い聞かなきゃいけねーんだよ。


 …まあ聞くんだけど。マジできちい。もう立場が最悪なんだよ。何もかも棄てて別人として生きていくには顔が割れすぎなんだよ。どこまで遠くの領地に行けば俺を知らないところに行けるんだよ。


 詐欺するのに大事なのは立場を変えて、様々な人間に今一番欲しい人材として近づくことが大事なんだ。なのに貴族の当主ってよ…どうやって詐欺するんだこれで。


 あ、そうそう。した親について説明しとこうか。

 我が父、偉大なるフロルドは広大な領地の領主として…民に圧政を敷き、無茶な税を取り立て、気に入らないやつは魔物のエサにするところを民草に公開しては見せしめとし…、


 ってな感じのクズそのもの。そして馬鹿。いや馬鹿じゃないんだけど馬鹿。

 多少の悪知恵ははたらくものの根が馬鹿なんだよね。大体、立場があるとはいえ悪事を堂々と行うってどうなのって話。


 普通悪いことはバレずにやるのが基本だろうが。仕返しとか怖くないんか?

 まあこんな感じの圧政敷いてら下剋上起きちゃうよねって話、俺の代でだけど。


 本来は病で俺が18になるあたりで父母両方逝くんだけどいつまでもいてもらっても邪魔なんでサクッと消しときました。方法は内緒ね?企業秘密だから。

 ちなみに母ローレンシアも似たようなクズなんで安心してね。


 まあこういうことやってて分かったんだよね。悪を騙せばいいじゃんって。つまるところこれが善行になるかは正直怪しいところはある。


 ただ普通にいい人、素晴らしき当主として名を遺す…、というのは俺のモットーが廃る。というより悪いことしたい欲がそのうち爆発する。最近やっとクズ殺してスッキリ悪い事できたなあ~って発散できたのに。


 つーわけで悪い奴、良くないやつを騙して成敗していくという形で僕の欲を満たせれば、とそういう次第でございます。


 此度のパーティでも布石をちょこちょこ、まあ芽が出るかは置いといて何度もやればそのうち食いつくだろ理論で次なる悪を行おうとしている今なのであった。


「失礼します。兄さま。忙しいところだとは思いますがどうかお話ししたいことが。」


 コンコンコンと慎ましやかなノックと共に我が妹ミシェラの声が呼びかけてくる。このミシェラってやつはなんでランスソード家に生まれたのかってぐらいの聖人君子である。


 勇者御一行になるわけなのでいい奴に決まってると言われればそうですかという感じだが。


「ああ、いいとも。入りなさい。」


「失礼します。」


 扉を開けて俺の部屋に入ってくるのは白い髪、赤と青のオッドアイ、凛とした振る舞いに違わず美しい顔立ちは成程ゲームの主役パーティの風格がある。


 因みに俺の顔はふつう…、ふつうなんだ…、決してめちゃくちゃ悪人顔してるとかそんなことないはずなんだ…。


 なおこの悪人顔は信用を得るのに若干不利に働く。どれほど爽やかな笑顔で取り繕うが悪い事しそう感が拭えない。


 そして俺の髪は金髪…二人とも、生まれたときから。両親は揃って金髪…妾の子とかいう設定だっただろうか。触れられない裏設定のような位置付けゆえによくわからんが。


「兄さま、お話というのは他でもありません。我が領地で現れたという邪竜についてなのです。」


 また厄介ごとが転がり込んできた。


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