悪徳貴族に転生した詐欺師がわる―い奴に悪いことをする。
狼と子羊
第一章 上流貴族、エルフォード家
プロローグ
目の前に銃口が突きつけられる。
「言い残すことはあるか?」
「…さっさとやってくれ。」
「そうか。」
バン!と暗い一室に鳴り響いた銃声一つで俺の命は幕を閉じた。
…はずだったんだが。
「おはようございます。佐山裕也様、」
「…ここは。」
なんで俺の本名を知ってんだ。俺ですら今言われて思い出したぐらいだぞ。
「ここは輪廻の間、貴方が繰り返す今後の道行きを示す場、とお考え下さい。」
俺の目の前にはいかにもと言わんばかりの美しい顔と声。身にまとうオーラがそうさせるのか、明らかに人ならざる者。その雰囲気をありありと写す存在は…、
「私があなたを担当する神、セーラと申します。」
「神様?ははっ面白い冗談だ。俺に対してこんな嘘。皮肉が効いてていいね。」
「説明を続けます。この度貴方は佐山裕也としての生を終えましたので次なる生の道行きをあなたに示させていただく次第です。」
「おい、相手を騙すならまずは気持ちに寄り添うのが基本だろーが。何無視しちゃってんですか。」
「貴方が次に生まれ変わるのは…、」
段々頭の調子が戻りつつある…、が。これはマジなんだろうか?目の前の美人さんはマジに神様だっていうんだろうか。
「とある話の中の人物、クロード・ランスソード。という人物です。」
「あーわかったわかったドッキリかなんかか?なんだ話の中の人って。」
「ではあなたに知識を授けます。」
「はー…、もういいってなんなの、これ。」
呆れかえる俺を余所に目の前の自称神様が俺に手をかざすと…、
とある話とやらの知識が流れ込んできた。いや流れ込まされた。
「あ…?おい、まじかよ。」
「ご理解いただけましたか?」
冷ややかな目で俺を見つめる女神サマ。
「あー、はいはい成程ね…これは俺への罰ってことね。」
「えぇ、そうです。わかりやすいよう貴方の住んでいた日本という場所に存在するゲームやマンガなる空想の中の一つを選ばせていただきました。」
「そりゃどーも。んで?クロード君みてえに惨たらしく死ぬのが今回の俺の生で積み上げた罪の清算ってわけ?」
「簡単に言えばそうなるでしょう。しかし全ての生にはまた贖罪の機会を与えるべし。貴方がその悪の巣窟たるランスソード家を貴方の代で再建させる。つまりは全ての悪を断じ、善行を積めばその話の中のような哀れな死を避けうることもできましょう。」
なるほどね。つまり悪人一家に転生して周りの悪を全て正して、俺が真人間として生きていけば苦しい思いをせずに済みますねってことかい。
「案ずることは無い。貴方の記憶は引き継がれます。つまりは何もわからぬままむこうで死ぬようなことはありません。来る24歳、裁きの時まで善を行う事を期待します。」
「なるほど、了解した。ならさっさと転生?させてくれ。早く善行を積みたくて仕方ないんだ。」
「わかりました。では、目を閉じて。」
彼女に言われるままに俺は目を閉じる。するとだんだん意識は遠のき…、
気が付くと若干5歳のクロード・ランスソードに転生していた。
正確に言うと5歳まで生きたクロードとしての生に俺の記憶が植え付けられたような感じ。ただそれまでのクロードとしての自我のようなものが存在しない。というか消失したか?まあ話の中の人物らしい。気にするほどでもないか。
「おや、クロード様、お目覚めでございますか。」
「ん?ああ…。」
はいはい今の名前はクロードだね。ま、名前変えてんのはいつものことだがカタカナの名前名乗るのは初めてだからな。ちょっとむず痒い。
「ノルド、今日はなにをするんだっけ。」
「本日はランスソード家が持つ領地についての現状及びそれに伴う諸侯達の関係性についての勉強に加えピアノ、バイオリン、社交界でのマナーについて講師をお呼びしておりますので…。」
「わかった。準備しよう。」
成程ね、いわゆる悪徳貴族様の身分に生まれ変わったはいいものの、お勉強はしっかりしないとってことね。まあ丁度良い。
中世貴族のマナーねえ、つってもここ魔法とかあるゲームみてえな話の中だからオリジナルのマナーとかありそうだが、キチンと全部覚えねえとな。
振る舞い、所作、完璧にできなきゃあ上手くやってけねえからなあ?
あーでもピアノとかバイオリンとか昨日までの俺ぐらいの腕前に調整しねえとな。いきなり上手くなってたら怪しまれる。
こうして前世は詐欺師で通った男のクロードとしての善行を積む人生が幕を開けたのであった…。
ハハッ笑える。誰が善行なんか積むかよ。
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