第8話‐指名手配犯ウィータと二人の追手(?)②

 「——じゃしんを倒すのも悪くないね!」


 数十分後。所変わって現在位置はラッセル西区の六番街。


 飲食関連の露店が多く立ち並ぶ大通りの一角にシー達はいた。


 昨日の一件がある為、フード付きの外套に変身したオレの分身体を羽織りながら、ウィータは尋常では無い量のエビの素揚げを両手に抱きかかえ、そして口いっぱいに頬張り、満足気な表情を浮かべている。


 「まぁ、(はむはむ)……天狼族はえいゆうの民族だし、(はむはむ)……たすけてって言われたら、(はむはむ)……たすけなきゃ、(はむはむ、ごくんっ!)……ダメだよね!」

 『『……』』


 まるで自身に言い聞かせるようにブツブツと呟くウィータの言葉を聞いて、シーとテメラリアは何も言えずにいた。せめて、食べてから言って欲しい……。


 『……ケケッ。まさかエビで邪神討伐をOKするとはな。おい、シー……今さらなんだがこの嬢ちゃん本当に大丈夫か? ……スゲェ心配なんだが』

 『ははは……だ、大丈夫だって……昨日見ただろ? ウィータの戦いっぷりを』


 昨晩の件でウィータが目立つ可能性もある為、身体を透明化して会話をするシー達。テメラリアの不安そうな言動にシーは虚勢を張って、何とか新たなる相棒をフォローする——が、正直言って超不安である……。


 そんなシー達の内心を知ってか知らずか、ウィータは「あれもおいしそうっ……あっ! これもおいしそう! あぁぁ~! それもおいしそぉぉぉ~~!?」と、興奮した足取りで露店を巡って行く。


 『……おいおい、あの小せェ身体のどこにあの量が入ってんだ?』

 『……天狼族は昔から大食いなんだ。多分、運動能力が高い分エネルギーが必要なんだと思う』


 それにしたって食い過ぎでは……? と、二人はウィータの驚異的な食べっぷりを見ながら半眼を作った。


 『しっかし、これからどうしたもんかな……。ウィータと契約したはいいけど、まぁ、正直言って……力不足なのは事実だし……。——なぁ、テメラリア? 何か手っ取り早く強くなれる手段とか無いのか?』

 『……簡単に言うんじゃねェよ。ある訳ねェだろ、そんなもん……』

 『だよなー……』

 『——まァ、でも。手っ取り早く強くなれる手段は思いつかないにしても、手っ取り早く邪神討伐の戦力を揃える手段ならあるぜ?』

 『……戦力を揃える手段? どうするんだよ?』

 『簡単だ。仲間集め・・・・だよ。千年前もそうだったろ? テメェやベオウルフだけじゃねェ……邪神との戦いの場には、ボグやアベル、それにトポスだっていたじゃねェか?』

 『……! 言われてみれば確かに!』


 確かにテメラリアの言う通りだ。別にシーとウィータだけで邪神ウルを討伐する必要はないのである。起きたら千年経ってたり、いきなり契約者が出来たりと、色々あり過ぎて、どうやら知らず知らずの内に視野が狭まっていたらしい。


 『ケケッ……幸い俺様に戦力になりそうな人物に何人か心当たりがある』

 『……心当たり?』

 『あァ……千年前と同じだよ。テメェの相棒として俺様がベオウルフを見出した時と同じように、今回もテメェの契約者候補として何人か大英雄の資質を持った現代に生きている人間を見繕っていたんだ』

 『マジかよ!』


 テメラリアは歴史に名を遺した英雄達の名が忘れられないように、後世に語り継ぐという伝承を持つ精霊である。それ故に詩人精霊とも称される精霊だが、そんな伝承を持つが故に、多くの英雄の名を知る精霊だ。


 千年前も今も、それは変わらないという事なのだろう。


 どうやらシーの契約者候補として見繕っていた大英雄の卵たちを、邪神討伐の仲間としてスカウトしに行こうという腹積もりのようだ。


 『一人目は、正義と民衆の騎士にして、歴史上で唯一『黄金』に達した冒険者たち——聖アストレア修道騎士会の長……テミス・アストレア。二人目は、強さを是とするデネ帝国の中において一度も代変わりせずデネ帝国皇帝の座に君臨する原獣種ベオルヘジン……ベルナンド・デル・リオ。三人目は、二〇年戦争で最も活躍した傭兵隊長にして、傭兵王の異名を冠する戦士……ヴァルトシュタイン卿』


 そして——と。一度、言葉を区切るテメラリア。


 滔々と契約者候補の名を語って行く彼は、一拍の間を空けて最後の契約者候補の名を口にした。


 『俺様が見出した契約者候補たちの筆頭にして、まず間違いなくこの時代が生んだ最強の大傑物——二〇年戦争をたった一人で終わらせた……ウィーラーフ王』


 しん……、と。鬼気迫るテメラリアの表情にシーは思わず息を呑んだ。


 『テメェには悪いが、最後のウィーラーフ王に関しては多分ベオウルフよりも強いぜ? なにせ俺様が今まで見て来た英雄たちの中で番目に強い正真正銘の怪物だからな……何としてでも仲間にした方がいい』

 『……おいおい。オマエがそこまで言うレベルかよ。相当ヤバいな……でも! ベオより強いっていうのはいただけないな! 絶対ベオの方が強い! 絶対な!』


 得意気になって話すテメラリアにシーはぷんすかと抗議する。彼がそこまで言うという事はその通りなのだろうが、素直にうんと頷けないのが元相棒心というものである。……やはり、シーの中での最強はベオウルフなのだ。


 『ケケッ……まァ、誰が最強かはどうでもいいさ? とりあえず、今後の方針は決まったんだ。長居する理由もねェ事だし、早いとこ旅の身支度を整えてラッセルを出ようぜ? ……何か、嫌な予感がすんだよ』

 『……むっ? んー……まぁ、それもそうか』


 上手いこと言いくるめられている気もするが、確かに一理あるだろう。昨日のやらかしようを見れば、少しでも早く姿をくらませた方が得策だ。


 もう一つの問題であるウィータ自身が強くなるという事の方の解決策は有耶無耶になってしまったが……そっちの方も、契約者候補たちを仲間にする旅の中で、少しづつ解決して行く糸口を見つけて行けばいいだろう。


 ……正直まだまだ不安要素があるが、何とかしていくしかない。時間も、そして邪神ウルも、待っていてくれるほど優しくはないのだから。


 「——ね、ねぇねぇ……テラちゃん、シーちゃん……」

 『ケッ?』『っ……何かあったのか?』


 会話に一段落がついた頃、オドオドしたウィータが話し掛けて来た。


 明らかに何かあった様子を見て、シー達は少し驚いた表情で彼女を迎える。


 すると、「こ、これ……」と。差し出して来たウィータの手には、先程まで手に持っていた食事の代わりに、一枚の紙が握られていた。


 差し出されたその紙を見ると、そこには『捕まえた者には金貨五〇枚』という文字と共に……やたらと凶悪そうに誇張された天狼族の女の子の似顔絵——ナイフを舐めるウィータの姿——と、その特徴が事細やかに書かれていた。


 『これ……もしかして手配書か?』

 『……ケケケッ、おいおい……さっそく嫌な予感が的中しやがった——』

 「——号外っ、号外~~っ! 議会から直々のおたっしだ~! 貧乏人はよぉく見ておけ~! 捕まえた奴には賞金が出るぞ~!!」


 テメラリアが冷や汗を流しながらボヤくと同時、鞄に手配書と同じビラを周囲にバラまく少年が横切って行った。


 宙を舞ったビラをキャッチした周囲の人々が、「おいおい、ガキ一人で金貨五〇枚ってマジか?」「ぼーっとしてる暇ないぞ! 探せ探せー!」と、金に眼が眩みどんどん豹変してゆく。


 顔を見合わせたシー達の表情が、どんどん曇って行った。


 「……イヤなお知らせがあります」

 『『……』』

 「……さっきから何かちゅーもくされてます」


 そして、シー達の内心に広がった不安を後押しするように、ウィータがそう言う。


 周囲を見渡すと、確かに道行く人々がウィータの事をジロジロと見ている。「怪しくないか?」「金貨五〇枚のチャンスか?」と、ヒソヒソ話をしている。


 シーとテメラリアは思わずダラダラと冷や汗を流した。


 「おいっ! そこのフードを被ったお前!」

 「んなぁぁっ!?」


 正に、その時だった。土木関係の仕事でもしているのだろうか——。屈強な肉体をした太めの男が、語気を強めて怒鳴り散らして来る。その手には当然とばかりに手配書が握られており、シー達の嫌な予感は更に加速した。


 反射的に返事をしたウィータは、怯えた様子で縮こまりながら男の方へ向き直る。


 (どどどどどど、どうしよどうしよシーちゃんんん~~……!?)

 (とりあえず誤魔化すんだウィータ!)

 (……わ、わかった!)


 値踏みするようにジロジロと睨んで来る男の視線に震えながら、ウィータが念話を送って来る。苦し紛れのアドバイスを一つ送り、シー達は固唾を呑んで見守った。


 「お前、怪しいな? たしかこの手配書の子供もお前くらいの背をしているぞ。……本人なんじゃないのか? ちょっとフードを取ってみろ」

 「……ちがいます。わたし、工匠種ドワーフのなかまなので小さいだけです」

 「嘘を吐くな! こんな所に工匠種ドワーフがいる訳ないだろ! 大体、フードで盛り上がっているそれは何だ? どう見ても獣人の耳だろーが!」

 「たんこぶです。さっき転んだ時にできました」

 「無理があるだろ! そんな綺麗に二個も出来るか! 下手な嘘を吐くなっ、全く……。——じゃあ、その腰の後ろで盛り上がっているものは何だ? 尻尾なんじゃないのか?」

 「イボです。モフモフしてます。うまれた時からあります」

 「モフモフのイボなんてあるか! もうそれただの尻尾だろ! バカにしてんのか!? ——もういいっ! ついて来い! 議会に突き出してやる!」

 「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~……!!?」

 『『……』』


 わざとやっているのだろうか??


 手を引っ張られて議会とやらに連れて行かれそうになっているウィータ。独特な悲鳴を上げる彼女を助ける事も忘れ、シーとテメラリアはウィータのあまりのドジっぷりに呆れた目を向ける。


 「はなせぇぇぇぇ~~、この太っちょオヤジぃ~!!」

 「ひっひっひ……これで商会への借金もチャラだぜぇ~……っ!」


 力任せに引きずられて行くウィータは、これまた独特な罵倒を吐き捨てるが、当の太っちょオヤジは聞く耳持たない様子である。おそらくは、既に頭の中は金貨の事でいっぱいなのだろう。


 『……潮時だな。身支度は出来ねェが、強硬手段でラッセルを出るぞ。シー……鳥竜種ワイバーンに変身できるか?』

 『……あぁ、任せろ』


 仕方がない、と。溜息を吐いたシーとテメラリア。


 ここまで大々的に指名手配されてしまっては、どの道このラッセルで度に必要な物資を揃える事など出来ないだろう。シーは(ウィータ、霊力マナを借りるぞ?)と念話を送り、変身の準備をする。


 「——離してやれ」


 低い声が響いた。


 「いででででで!!?」

 「大の大人がこんな子供に見っとも無い。貴様には恥という概念がないのか?」

 「——周りのあなた方もです! 根拠も無いのに不躾な決めつけをするのが、このラッセルに住まう人々のやり方なんですか?」


 突如として現れた二人の人物に、シーは変身を中断した。


 周囲を窘めるように声を発した彼らは、事の成り行きを見ていた野次馬たちを睨みつける。フードを取った彼らの姿が露わになり、その眼光の鋭さに恐怖をなしたのか、周囲の人間たちが少しづつ散って行く。


 『……何だ、アイツら?』


 太っちょオヤジの手を捻り上げているのは、原獣種ベオルヘジンの大男だ。


 身長は優に二メートルを超える巨躯と、その容姿、そして何らかの魔術式が編み込まれた手袋グローブをしているのが特徴的だ。服の上からでも分かる程に鍛え上げられた肉体は、彼が実力者である事を示している。


 もう一人は、落ち着いた空気感を放つ人間種の女だ。栗毛と青い瞳が特徴的な彼女は、その歳若い見た目からは分かり辛いが、こちらも只者ではない事が一目で分かった。


 どちらも首から天秤のエンブレムが彫られた首飾りをしている。どこかで見た事があるようなエンブレムに、シーは一瞬だけ目を眇めるが……「——ほら、貴様も行け」という、捻り上げた太っちょオヤジの手を放しながら言った大男の言葉で、現実に意識を引き戻された。


 「あだっ!? ……ちぃっ、クソが!」


 太っちょオヤジが悪態を吐きながら走り去って行った。


 「さて……」と、こちらを向いて来た彼らと視線が合い、ウィータがビク! と、小さく肩を震わせる。正体の掴めない相手を前に、彼女は少し固まっていたが「ア、アリガトゴザイマス……」と片言でお礼を言った。


 「……じゃ、そういうことで——」


 そして次の瞬間、一八〇度踵を返して反対方向へとスタスタ歩いて行く。


 せっかく助けてくれた相手には失礼だが、いい判断である。こんな得体の知れない相手と、いちいち関わってはいられないのだ。


 そのままの勢いで、ウィータはこの場を後に離脱しようとする——


 「ちょっと、待っていただけませんか!? 貴方たち・・に用事があるのです!」

 「黙って話を聞いてくれんか……指名手配犯の・・・・・・天狼族殿・・・・……それと、そっちの精霊達も・・・・・・・・、だ」

 『『「……っ!!?」』』


 ——が、そうはいかないとばかりに先回りされてしまう。行く手を阻むように立ち塞がった栗毛の女と、逃がさないとばかりにウィータの背後へ立った原獣種ベオルヘジンの大男。


 (……こいつら、ウィータの正体に気付いて……いや、それよりオレ達の姿がどうして見えてるんだ……? いやいや、それよりも……この状況を何とかしないと——!!?)


 何故か、霊体化している筈のシー達の姿が見えている様子の彼ら。


 加えて明らかにウィータの正体に気付いていると思われる言動を口にした彼らに、シー達の表情が一気に強張る。……こんがらがった思考の中で、不意に、彼らの手に手配書のビラが握られてる事に気付き、一瞬シーの脳内に嫌な思考が過った。


 ——これ……もしかして助けてくれたんじゃなくて、ウィータ捕獲の報酬を独り占めする為に、人払いをしただけじゃないか? と。


 「ひ、人ちがいです……」

 「がっはっは! そう警戒しなくていい! 取って食おうという訳ではない!」

 「安心して下さい。さっきも言いましたが……君たちに用事があるだけなのです。だから——」

 『『「……~~っ!」』』


 ウィータを安心……いや、油断・・させる為だろう。


 ——ニタァリ・・・・……、と。極悪人にしか見えないような笑みを浮かべた二人の男女を見て、シー達の警戒心が一瞬でマックスに高まる。


 「——ちょぉーっとだけ、ホントにちょぉーっとだけ自分達について来てくれますかぁ、お嬢さぁーん??」

 「大丈夫だぁ、安心しろぉ……俺たちは貴様の味方だぞぉ~?」

 (((絶対ウソだぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!?)))


 ジリジリとにじり寄って来る刺客達に、シー達の心の悲鳴が重なった。

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