第6話‐変身の大精霊・前編
※前書き
一話にまとめると少し長いので、前編と後編に分けます。
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「おお……かみ?」
契約が終わり青い光が晴れて行くと、ウィータが不思議そうに呟いた。
目を真ん丸にしてキョトンとするウィータの顔を見る限り、どうやら今回の『受肉』した姿も狼らしい。その場をクルクルと回ってみると、今回の自身の肉体となる姿がオレの目に入って来る。
「おー、なるほどなー。今回はこんな感じかー」
腹は白、背は深い藍色のグラデーションがある見事なツートンカラーの体毛が特徴的な小さな狼の姿である。先程は偉そうに『変身の大精霊シー』を名乗ったが、ハッキリ言ってちんちくりんだ。
大精霊としての威厳は、今回は諦めた方がいいかもしれない……。
人形のように可愛らしいこの姿では、いい所ただの愛玩動物である。
「……」
「あ、すまんすまん!」
一人納得してうんうん頷いていると、キョトンと固まっているウィータの姿が目に入る。オレは慌てて謝罪を口にしながら言葉を続けた。
「オレは他の精霊と違って決まった姿が無くてな~……契約者によって姿が変わっちまうんだよ」
「……わたしと“けいやく”したから、そうなった……ってこと?」
「あぁ。べオの時も狼だったけど、こんなちんちくりんじゃ無かったからつい気になってよ~! やっぱ契約者がちんちくりんだと、オレも似るのか?」
「……ち、ちんちくりん……っ!」
何だコイツは。初対面でちんちくりんは失礼だろう! と。
まるでそう言いたげに頬をぷくぅと膨らませながら不満を露わにするウィータ。コロコロ表情が変わる姿は見ていて面白いが……今は、じゃれている場合では無いだろう。
「フッフッフ……」と、オレはわざとらしく笑いながら後ろに意識を
「不満なようだな我が新たなる相棒よ! なら、まずは見せてくれ! オマエの実力ってヤツを! ……手始めに、あの
「……?」
ビシッ! と。オレはプニプニの肉球がついた前足を器用に上げた。そのまま背後を指差すと、ウィータは釣られてオレの指の先へと視線を向ける。
そこには低い唸り声を上げる
契約を終え受肉した事により、オレの姿は既に誰にでも見えるようになっている。奴からすれば、何もない場所から突然ちんちくりんの狼が現れたように見えた事だろう。
余程にオレという乱入者の事が気になるのか、奴はまだかなり警戒した様子でこちらの出方を伺っている。
「……。……ムリ、だよ……っ」
と、オレがあの
意外にもウィータはオレの提案に乗って来ず、寧ろその逆。委縮してしまったようにケモミミを伏せている。先ほど彼女の口から出た啖呵は嘘だったんじゃないかと思うくらい震える彼女の声は、消え入りそうな程に弱々しかった。
「おい! どうなってんだよこれぇ~!」
「あのぬいぐるみみてぇな狼は何なんだよ! ふざけてんのか!」
「中止だ中止! 金返しやがれ!」
よく見ると、その怯えたような視線は
まぁ、普通に考えれば今さっき自分の命を確実に奪い去るような
「……見てた、でしょ。わたしじゃ……勝てない……。ケガで、からだも動かないし……のろいで……
逃げるようにウィータはうつ伏せの体勢のまま俯く。『もう何もしたくない』——そんな逃避への感情に突き動かされたのか、怯えたような声音で口を開いた。
だが、そんな事をする必要はない。
——何故ならウィータはオレの相棒であり、そして誇り高き天狼族だからだ。
「ケガなら契約した時に治したぜ。身体、動くだろ?」
「……え?」
全身の痛みが全くない事に言われて気付いたのだろう。
キョトンとした表情で、先程までのケガが嘘のように軽く立ち上がったウィータは、手を閉じたり開いたりクルクルと回ったりピョンピョン跳んでみたり……。
と。ケガどころか戦う前よりも体が軽い位なのか、先程の沈んだ表情が徐々に明るいものへと変貌して行き、驚きのあまり目をパチクリとさせ始めた。
きっと、ウィータも感じているはずだ。
身体の奥底。魂の奥の奥にずっと根を下ろしていたはずの嫌な感覚が見事に取れ、本当に
「……そういえば、たしかに……なおっ、てる……?」
「それだけじゃないぜ!」
「?」
にっしっし、と。いたずらが成功した子供のみたいな表情でオレは笑った。
「契約した時に分かったんだが……邪神の呪いはオレたち精霊の契約と似たような類のもんだ。だから——
「……え?」
今度こそ、本当に大きな衝撃がウィータを駆け抜けたのだろう。
伸び切った長髪を両手で掴み、彼女はそれをその
先程まで邪神の呪いで老いさらばえた老人のようになっていた白髪は、天狼族の誇り高き魂をそのまま反映したような、雄々しい
そう。それの意味するところとは、つまり——。
「……
天狼族の全てを蝕み続けた全ての元凶から解放された事の何よりもの証だった。
『オォォォォォォォォォォオオオオ————ッッッ!!』
「「……っ!」」
喜びも束の間。空気をビリビリと震わせる咆哮が轟き渡った。
興奮で脚の痛みも忘れたのか、
「おっと……喜んでいるところ申し訳ねぇが、どうやらアイツも痺れを切らしたみたいだぜ? ——構えろウィータ……来るぞっ!!」
「……う、うん! わかった!!」
数秒で十数メートル高さにまで浮いた巨体が、次の瞬間——凄まじい勢いで滑空しながらオレ達向けて一直線に突進して来た。更には、大口を開けて追撃の
オレとウィータは、咄嗟に横っ飛びに地面を転がり炎の奔流を躱した。
『オォォォォオオオオ……ッ!!』
「おいっ、鉄柵が壊れたぞ……!?」
「安全なんじゃなかったのか……!!」
いとも簡単に拉げた鉄柵からその巨体が飛び出し、鉄柵に挟まってしまう。
目の前に現れた怪物がジタバタと暴れる姿を前にして、一瞬でパニックに追い散る観客席。観客席へと侵入して来る怪物を恐れて、半狂乱になりながら観客たちが逃げ惑い始めた。
「なんか、からだが軽い……羽みたい。今ならなんでもできる気がする!」
しかし、そんな事も気にならないほど今のウィータは興奮しているようだった。
思わずといった様子で尻尾をブンブン振って喜びを露わにしている。
「
「れくちゃー……?」
「あぁ。レクチャーその一——『契約者と契約精霊は、
プニプニの前足を上げて、そう口を開いたオレは頭の中で
(——こんな感じでな?)
(っ! ……頭のなかになんか声がきこえる!)
いわゆる念話というヤツである。
精霊契約は精霊の魂を契約者の魂へと融合現象の名称だ。それにより、契約を行った契約者と契約精霊の間では、このように
「オレは『変身の大精霊』の肩書通り——
「自由に……さいきょー……イメージ……」
瞬時にその意味を理解したのだろう。
徐々に状況が呑み込めてきた事で余裕が出て来たのか、オレの言葉を反芻した作ったウィータは、「……わかった!」と。
力強く笑みを作りオレの名を呼んだ。
(じゃあ、こんな感じでお願い!
(……! ははっ、シーちゃんか! 気に入った!)
お互いの呼び名。成り行きとはいえ、どこか悪くない感覚である。
心地よいその高揚感に身を委ねていると、ウィータが強く、強く、地面を蹴った。
まるでその一歩一歩に呼応するように——オレの身体が青く輝き出す。
「さぁ、初お披露目だ……全力で行くぜ!!」
流れて来たイメージは、トカゲに似た頭と胴体。全長は約五メートル。
皮膚は赤く、牙と爪を持ち、背中には巨大な両翼がついている。このイメージの正体は……そう。いま現在この瞳の先にいる——
「へんっ、し~~~~ん!!」
高らかに叫んだオレは空中へ浮かび上がった。
徐々にその形が変貌し、青い光が晴れた次の瞬間——今まさに相対している
「おぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉお……っ!!」
『……ッ!?』
自身と全く同じ姿をした存在が現れた事に驚きを隠せないのか、鉄柵を無理やりに破壊して脱出した
その弾幕の中を掻い潜りながらオレはウィータの元へと近付いて行く。
「おぉぉ~! ホントにへんしんしちゃったー!?」
(掴まれっ、ウィータ!!)
「わかった!」
快活な返事をしたウィータは数メートル程の高さを、ほいっと、軽く跳び上がる。驚異的な身体能力だが別に驚きはない。これが
そのままオレの脚に掴まったウィータは、軽い身のこなしで背中へと登って行くと、そのまま長い首に跨り、ビシィッ! と。
「いっちゃえシーちゃん! とつげきぃぃぃぃ~~~~!!」
「よっしゃぁぁぁぁぁ——っっ!!」
号令に合わせオレは高く舞い上がり、そのまま天井の鉄柵を突き破る。両翼を大きく開き、そのまま急降下。凄まじい滑空速度で
『ルォォォォォォォ~~~ン……!』
轟音、そして絶叫。
衝突によって観客席に舞い上がった土埃の中から、
(さて、さっそくだがレクチャーその二——
(っ、……なにこれ……っ?)
突如、ウィータの手元に青い光が漂い始め
(
(数にげんかいはあるの?)
(お前の成長次第かな?)
ニヤリ、と。少し揶揄うように笑みを浮かべてやると、ウィータは自身の右手に握られた
『オォォォオオオ!!』
「おぉっと!?」
その瞬間だった。力任せにオレの後ろ脚の拘束を解いた
よろめいたオレは数歩後ろに下がり、鉄柵にぶつかって倒れ込んでしまう。
マズいっ! と視線を遣ると、やはり
その鋭い眼光に気付いていたのだろう。
ウィータは受けて立つとばかりに、
「でやぁぁ!」と気合の乗った彼女の掛け声が響き渡る——
『ォォォォ——ッッ!!』
「……っ!!」
——
その攻撃を狙い澄ましたかのように、二度もウィータを襲った尻尾を鞭のようにしならせて放つ一撃……先の二度とは違い、上から振り下ろされるようにして放たれた尻尾の一撃が、三度、今度こそ彼女を仕留めんと迫って来る。
周囲は身動きの難しい狭い観客席。
先ほどと同じように尻尾の一撃が幼い少女の身体を砕くイメージがオレの脳裏を過った一瞬——。勝利を確信したようにギラついた
「三回も同じこうげきうけるほど——」
フっ、と——。不敵な笑みを浮かべたウィータの言葉に、
「——わたしバカじゃないよ!」
ウィータから
次の瞬間、ウィータの左手に握られていたのは古代の戦士が愛用した
そして、地面に打ちつけられた尻尾へ向けて、
『ルォォッ!』と。
「——
しかし、そこでウィータの追撃は終わらなかった。
ウィータが大きく跳躍すると同時に、再び
「うぉぉぉぉぉぉぉ……っ!!」
まるで散々やられた鬱憤を解放するように跳躍したウィータは、その
『ルォォォォォ~~!』と、苦痛に喘ぐ怪物の悲鳴と共に血飛沫が舞う。
「——~っ」
——大した奴だ、と。オレは素直に感心した。
まだ四半世紀の半分すら生きていない子供。しかも、オレと契約してからまだ三〇分すら経っていないというのに、変身の大精霊を拙いながらも
天狼族の戦闘本能が故か、それとも純粋な才能か、はたまた——。
「——っ……離れろ!」
「っ!」
一瞬、戦闘中という事を忘れてたオレは咄嗟に叫んだ。
弾かれたように
『ルオォォオオン……ッ!』
周囲が炎に覆われる。
溶岩地帯を生息域にしている
炎の高熱を嫌った
「シーちゃんっ!」
「あぁ、分かってる! 乗れ! 追うぞ!」
オレの背中に跳び乗ったウィータを確認し、逃げた
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※後書き
ようやくバトル回です……が、やっぱりバトルって描写が難しいですね……。ちゃんと書けているのかどうかいつも不安になります。もし、よろしければ感想を頂けると嬉しいです!
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