第一話 異世界転生は今日も突然だ!④

「もうっ! ローズさんはいつになったらそういうの止めてくれるんですか!」


女の子は困ったように黒こげになったローズを叱っていた。

歳はまだ十歳くらいで、長い銀髪とくりくりとした青い瞳が可愛らしい。


「あの……大丈夫ですか? ウチのローズさんが失礼しました」


女の子は俺に近づくとペコリと頭を下げた。


「……かわいい」

「何言ってるんですか通報しますよ?」

「すんません……」


そんな俺の素直な感想に、女の子も実に素直に返してきた。


「というか、早くズボンを履いて下さい! 本当に通報されてもおかしくない格好をしてますから!」

「ご、ゴメン……そしてありがとう、助かったよ……で、君は?」


俺はズボンを上げ、尻を払いながら女の子に訊くと、女の子はビシッと姿勢を正して。


「は、はい! 私、魔王軍四天王のリムと言います!」


…………。


「ごめんもう一回言ってくれるかな?」

「え、ええっと……私は魔王軍四天王のリムです?」


……予想はしてた。


この流れからして多分四天王だろうな、とはどこかで思ってた。

だけどこの子が?


「ねえ、君いくつって、そうだ歳訊いたらぶっ飛ばされる……」

「流石にローズさんみたいな事はしませんよ!」


で、でも、子供に見えて実は六百歳とかいう奴も結構いるし、きっとこの子も。


「えっと、十歳です」

「…………」


ガチガチの子供じゃないか。

こんな子供が四天王やってるって、大丈夫か魔王軍?


「ねえ、何なのコイツ? 出会って五分経たずに凄いインパクト放ってきたけど……」


俺は魔王軍の心配をする原因の一つである黒こげになったローズを見ながら訊くと、リムは頬を少し赤くして言いにくそうに答えた。


「えっと、ローズさんは透視眼を使って、その……だ、男性の身体を見るのが趣味なんです。まったく、嫌な趣味ですよ!」


なぜそんな奴が四天王やってる……。

しかもサキュバスクイーンというボス級の悪魔なのに、十歳の女の子に黒こげにされるって大丈夫なのか……。


「な、なあ、一応訊くけど、サキュバスクイーンのコイツがこんな奴だったら他のサキュバス達も……?」


他のサキュバスもコイツみたいなファッションビッチって事に……!

俺が恐る恐る訊くと、リムは溜め息をつきながら答えた。


「いいえ、この人だけですよ。ここまで必死なサキュバスは」

「今すぐサキュバスクイーン取っ替えろ! 種族内で革命が起きる!」


と、その時。


「う、う~ん……」

「ヒッ……!」

「おはようございます、変態さん」

「私は……一体……」


例の変態さんが頭を抱えて起き上がった。


「あら、リムちゃんじゃない。いつからそこに?」

「さっきこの人に襲いかかっていたときですよ。まったく……」

「も~、リムちゃんったら頑固なんだから~……ところで、何であなたはリムちゃんの後ろの隠れているのかしら?」


ローズは笑いを堪えながら、リムの後ろに縮こまって隠れている俺を見た。


「う、ううう、うるせえ黙っとけクソビッチ。お前十歳の女の子に呆れられて大丈夫なのかよ。それにやっぱりババアなのか?」

「何ですって!? ぶっ殺すわよ!?」

「ローズさん落ち着いてください! あなたも、私の背中から離れてください!」


襲いかかろうとするローズを俺はリムを盾にしながら哀れみの視線を向けていた時。


「おや、ローズ、リム、来てたのですか」


後ろからハイデルの声が聞こえ振り返ってみると、ハイデルともう一人男が立っていた。


「……なあ、お前らってテレポート的なもん使ってるの? 急に現れるとビックリするから止めてくんない?」

「そうですか? それならば申し訳ありません」

「まあ別に良いんだけど……それよりも、その人が最後の四天王?」


俺が男を指さすと、男はフッ……と笑いながら前に出た。

歳は俺より一つか二つ上だろうか。

黒髪の所々に赤いメッシュが入っており、ハイデルと同じ紅い瞳。

漆黒のマントに身を包んだその男は俺と目が合うと、バッとマントをたなびかせながら。


「我は魔王軍四天王の一人にして、闇を司り影を操る夜の王! ヴァンパイアのレオン・ヴァルヴァイアであるッ!」


そうドヤ顔で言ってきた。


「……」


俺は無言でリムを見ると、見ていて恥ずかしいと言わんばかりの顔で頷いた。

……どうやらそういう事らしい。

俺はレオンに向き直ると、全く同じポーズを取り。


「俺は誰よりもラノベを愛しゲームがそこそこ上手い者、月城亮太であるッ!」

「何でわざわざ同じ自己紹介するんですか!? あと全く格好良くないですよ!」


リムはそんなことを言ってくるがレオンはパアッと顔を輝かせる。


「おお! 貴様も我と同じ宿命を持つ者だったのか! これからよろしく頼むぞ、我が同胞よ!」

「いやゴメン、ノリでやっただけ」

「なん……だと……!?」


何だか酷くショックを受けているレオンの横にハイデルが立つと、レオンの説明を始めた。


「先程言っていたように、このレオンはヴァンパイアです。しかもレオンはヴァンパイアの中でもかなり高貴な一族、ウァルヴァイア家の末裔です」

「フッフッフ……」


ハイデルの紹介を受け、自慢げに片手で顔を覆うレオン。


「しかし四天王の中でも最弱で、このようにイタい発言が多いのです」

「おいハイデル貴様。この我に喧嘩を売っているのか? よろしい、ならば我が闇に力の餌食にイテテテテ!」


ハイデルに襲いかかったレオンはハイデルに頬を抓られ涙目になる。

しかしヴァンパイアかぁ……。

ヴァンパイアと言えば、魔族の中でも高い魔力と魔力抵抗を持ち最強と呼ばれる存在。

しかし四天王全員がまったく強そうに見えない。


「ハア……! し、しかし、まさか魔族ではなく人間が魔王に選ばれるとはな……」


ハイデルから逃れたレオンは抓られた頬を抑えながら俺を物珍しそうに見る。


「そういえばちゃんとした自己紹介がまだだった。俺は月城亮太、月城が姓で亮太が名前な。実はこの国に来たばっかであまり常識が無いんだけど、まあとりあえずよろしく」

「変わった名前ね。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「うむ」


俺達全員の自己紹介が終わったところで、ハイデルがパンっと手を叩いた。


「それではリョータ様。改めてお願いしますが、貴方にはこれから魔王になって頂きます」

「ゴメンナサイ」

「「「「…………」」」」


俺の即答に静まりかえる魔王軍四天王。


「魔王に……」

「超ゴメンナサイ」

「……どうしてですか?」


二階も断った俺にリムが首を傾げて訊いてきたので、もっともな意見を述べる。


「勇者にボコられるから」

「「「「………………」」」」


これまた静まりかえる魔王軍四天王。


「いやだってそうだろ? ハイデルの話聞く限り、あんなバケモノ勇者に勝てると思う?」


俺の質問に、四人は一斉に首を横に振る。


「しかも、勇者ってのは魔族と聞いただけで容赦なく殺しにかかってくるパターンが多いし……まあ確かにさ、魔王っていう響きは格好いいなとは思うけど、やっぱりねぇ……?」

「で、でも、魔王が格好いいとおっしゃっているのでしたらどうして……?」


そんなハイデルの質問に、俺は素直に答えた。


「だって、ここに居る俺を含めたメンバー、まともなのが十歳の女の子しかいないじゃん」

「「「………………」」」

「こ、子供扱いしないでください!」


かわいい……。


「というか自分も含めてなのか貴様」

「たっはっは。まあとにかく、そういう訳で俺は魔王にはなりません。それに唐突過ぎて心の整理が付いてないし、何より責任が重すぎます。ゴメンナサイ」


俺はそう言って丁寧に頭を下げた。

すると、しばらく俯いていたハイデルがポツリと。


「……出来ません」

「は?」


俺が思わず聞き返すと、続けてリムが申し訳なさそうに。


「じ、実は……一度魔王と認められた人が現れると、その人が死ぬまで魔王になる事が決まりなんです。しかも、その人が死ぬまでデーモンアイは誰にも反応しないんです……」


つまり、俺はこれから魔王として生きていくことしか出来ないのか!?

それじゃあ、いつか俺は先代を瞬殺したあの勇者と戦わなくちゃいけないのか!?


「嫌だ! そんなの絶対嫌だあああああ!」


俺はそう叫ぶとハイデルの胸元を掴むとグッと自分に引き寄せる。


「ハイデル! 大体テメエがデーモンなんとかをカラスなんかに盗られたからこんなことになったんだろ!? どう責任取ってくれるんだ!」

「ええ!? そうだったんですか!? なんで金庫にしまってあるはずのデーモンアイが外に出たのか疑問に思ってましたが……!ちょっとハイデルさん!」

「ふ、二人とも落ち着いて! 落ち着いてください! 痛たたたッ! リョータ様止めて……!頭が潰れてしまいます!」


リムがポカポカと殴り、俺がアイアンクローを食らわせると、ハイデルが涙目になって悲鳴を上げる。

俺はハイデルから手を離すと、一番気になっていた事を訊いてみた。


「なあ、魔王って事はさ、やっぱり世界征服? しなきゃいけないのかな?」

「「「「……」」」」


しかし、その質問に四人の表情がサッと曇った。

…………。


「もしかして、お前らってさ――」


そう言い掛けた時だった。


――バアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!


「あっ! 居た! こんな所で何やってるのよ!?」


今まで意味の無かった扉が勢いよく開け放たれ、一人の少女が入ってきた。


「また何か来たよ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る