第一話 異世界転生は今日も突然だ!③
ハイデルがこの部屋を出て数分後。
俺はこの部屋の巨大な扉と向かい合っていた。
そして俺は扉の取っ手に手を掛ける。
扉はギギギイ……と軽い軋みをあげながらゆっくりと開いていく。
そして廊下に顔だけを除かせると、キョロキョロと辺りを見渡す。
誰もいないことを確認した俺は、スルリと部屋から抜け出した。
そう、俺はここから逃げようとしているのだ。
こんな訳わかんないところになんかいつまでも居られない。
絶対ここから逃げ出してやる。
俺は早速この魔王城から出ようと廊下を歩き出し……。
………………。
俺は足を止めた。
俺の目の前には、奥が見えないほど長く暗い廊下が続いていた。
廊下には灯りが無く、人気を感じない。
流石魔王城、今にもお化けが飛び出してきそうだ。
しかも廊下の壁に窪みがあり、そこにガーゴイルのような石像が置いてある。
「……」
俺はゴクリと唾を飲み込むと、意を決して一歩踏み出した――。
「――ふう……やっぱもう少し様子を見ておこうかな。うん」
俺はまたあの部屋に戻ると玉座に座った。
……決して怖かったわけじゃない。
俺は待っているのも暇なので、ゆっくりとこの部屋の観察を始めた。
この部屋の壁には一定間隔で燭台が固定されており、ロウソクの火が辺りをボンヤリと照らしている。
俺の正面には複雑な装飾が施された巨大な扉があり、そこから俺が座っている玉座までに深紅の絨毯が敷かれていた。
「……何か、ほんとにラスボスの部屋って感じだな」
そんな独り言をぽつりと……。
「実際に、ここは魔王の間よ」
「うわあっ! ビックリした!」
俺の独り言に返答する声に驚き、その声がした方を見てみると、一人の女性が立っていた。
コイツらはテレポート的な物を使えるのだろうか。
心臓に悪いから止めてほしい。
「あら、驚かせてしまったようね。フフ……ごめんなさい」
女性は軽く笑いながら謝ると、俺に歩み寄ってきた。
歳は二十歳くらいだろうか。
ピンク色の長い髪に紫色の瞳。
そして背中にはハイデルよりも小さな羽が付いており、頭には二本の角が生えていた。
「ええっと……サキュバスですよね? 見た目的に」
「あら、よく分かったわね。私は魔王軍四天王、サキュバスクイーンのローズよ。あと、さっきあなたに背後から催眠魔法を掛けたのは私。怒らないで頂戴ね?」
「はあ……どうも……。サキュバスクイーンねえ……」
さっきハイデルが言ってた人がこの人か……。
サキュバスと言えば夜中に男の枕元に立ち、寝ている男にもの凄い夢を見せて精気を吸い取ると言われる悪魔の一種だ。
しかもこのローズはサキュバスの上位の存在であるサキュバスクイーン。
ラノベなんかでは、淫魔はよく変態キャラとして登場するが……。
…………。
「……あの、サキュバスなんだから仕方ないだろうけど……スゲえ格好してますね」
「しょうがないじゃない、サキュバスなんだもの」
そう、ローズさんは殆ど下着のような格好をしていた。
そして現実とは思えない程の巨大な胸。
その胸の大事な部分を、小さな黒い布きれが申し訳なさそうに隠している。
……一体何を食えばそんなに大きくなるのだろう。
「ちょ、ちょっと、何でそんなに躊躇なく私の胸を見てくるの……?」
ローズは少し困ったように自分の腕で胸を隠す。
しかし、胸が腕で押しつけられることによって、更に胸が強調される。
ありがとうございます……ありがとうございます。
「そんなことよりもあなた……」
俺が心の中で感謝の言葉を何度も言っていると、ローズはそう呟き俺の身体をマジマジと見始めた。
「えっ? 何?」
俺はローズの奇行に思わず身を引くが、それでもローズは俺の身体を見てくる。
アレ? 何かコイツに目が光ってるような……。
やがてローズは俺の身体を見るのを止めると、
「最ッッッ高よあなた!」
頬を赤くして叫んだ。
何コイツ怖い。
「きゅ、急にどうしたんです……? てか、何が最高なんですか……?」
俺がローズにおそるおそる訊くと、ローズは俺を指さしながら。
「あなたは太ってもいないし痩せすぎでもないのよ! しかも身長も平均的で丁度良いし!」
「……え? えっと、どうも……」
一体ソレのどこが良いのかよく分からないが、俺は素直に頭を下げた。
今までの人生で、身体の事なんで褒められたこと無かったし。
「それに、あなたの一番良いところは……!」
「い、良いところは……?」
何だろう、俺の良いところ……?
俺は少しだけ淡い期待をしていると、ローズはなぜか俺の股間を見ながら言った。
「あなたのそのイチモツよっ!」
「何言ってんだ!?」
俺の期待がぶち壊された。
「あなたのは形、大きさ、全てがベストなモノを神様から貰って生まれてきた神の子よ!」
「お前何口走ってんの!? ってかなんでそんな堂々と人のチンコ褒められるの!? 俺会ったばかりの人にそんなとこ褒められて素直に喜んでいいかわかんねえよ!!」
やっぱりコイツは変態キャラだった!
俺は股間を自分の手で隠しながら叫んだ。
「大体、俺服着てるんだぞ! 何で俺の身体のこと分かるんだよ!?」
するとローズは自分の目を指さしながら答えた。
「私ね、魔眼の持ち主なの。《透視眼》って言って、壁とかの障害物とか、何でもすり抜けて見ることが出来るのよ」
「それ絶対お前みたいなのが持ってちゃ行けない力だよな!? むしろお前のその目の方が神様から貰ったとしか思えねえよ!」
神様、どうしてこのような者にこのような力を授けたのですか……?
「フフ、いい……いいわ……」
ローズはそう呟くと、まるで俺を誘惑するようなポーズを取った。
「ねえ? これから私と良いことしない? 女の子の身体について手取り足取り教えてあげるわ。なんだったら、私の胸もちょっとだけ触っていいわよ?」
そう言って、自分の豊満な胸を突き出してきた。
「もの凄く触りた…………大丈夫です」
「今触りたいって言った?」
しまったつい本音が!
確かに、コイツのようなおっぱいも大きくてスタイルの良い美女に誘惑されたら、普通の男ならホイホイ付いていくだろう。
だけど……何だか嫌な気がする。
さっきだって俺が胸を凝視していたのを嫌がってたのに、自分から胸を突き出すって……。
何というか、無理してる感というか、地雷臭がするというか……。
…………。
よし、ちょっと試してみよう。
「あら、遠慮してるの?大丈夫よ、無理なんかしなくても……」
「そうか、じゃあ早速色々として貰おうかな」
「…………え?」
俺の何の躊躇も無い言葉に、ローズは固まった。
「だから色々として貰おうかなって言ったんだよ。何固まってんだよ自分から誘っておいてさ」
「え……? あ、あの、ちょっと……!?」
俺は玉座から立ち上がるとゆっくりとローズに迫っていく。
するとローズは俺か近づくにつれ後ずさる。
「まずはその見事ななおっぱいからだな。さあって、後でどんな目に遭わせてやるかな……へっへっへ……!」
俺はそう言いながら手をワキワキさせ、ローズの胸を舐め回すように見ると、ローズは涙目になりながら叫んだ。
「う、嘘ですごめんなさいっ! 冗談だったんです! ほんとにごめんなさいッ! だ、だから、だから見逃してえええええええええ!」
「…………やっぱりお前ってファッションビッチだったんだな」
俺は立ち止まると、頭を抱えてしゃがみ込んだローズを見下ろした。
「ファ、ファッションビッチ!? この私が!?」
ローズは俺の言葉に反応して顔を上げる。
「いやだって、自分から誘っておいてこっちが攻めたらヘタレたじゃねえか……サキュバスクイーンだよな?」
「グフッ!」
俺のそんな素朴な疑問に、ローズは地面に突っ伏した。
まったく、とんだ地雷女だった。
コレがサキュバスクイーン……何か、思ってたんと違う。
……だけどおっぱい触りたかったな。
そんな事を思いながら、俺は再び玉座に座ろうと後ろを向くと。
「そもそもあんた、歳いくつだよ? 見た感じ――」
二十代前半辺りか?
と、俺が言おうとしたその時だった。
「あなた……今なんて言った……?」
「え?」
ローズが顔を伏せて、ゆっくりと立ち上がりながらそう聞き返した。
それに対し、俺は普通に。
「いやだから、歳いくつかなって……」
「ぶっ殺してやるッ!!」
「何故に!?」
バッと顔を上げたローズはいきなりそう叫ぶと、鬼の形相で飛びかかってきた。
何でえええええええええ!?
何で歳訊いただけでこの人殺しに掛かってるのおおおおおお!?
ってかヤバい、後ろから急に飛びかかれたら躱すことが出来ない!
躱すことが……!
躱す……。
……。
「ブッ!?」
「っぶねえ!?」
俺が咄嗟にしゃがみ込むと、ローズは俺の真上を飛び越え顔面から玉座にぶつかった。
「い、今……!」
ローズがまるでスローモーションを見てるかのようにゆっくりに見えた!
な、何だったんだ今の!?
もしかして、今のが魔王の力だったりするのか?
「何をボーとしているのかしらっ!」
「うおっ!?」
俺が今の現象について考えていると、再びローズが飛びかかってきた。
不意を突かれ、流石に躱すことが出来なかった俺は、地面に押し倒された。
「流石デーモンアイに認められただけあるわね。まさか躱されるとは思ってなかったわ!」
「ちょっ、待てって! 何で歳訊いただけで殺しに掛かって来てるの!?」
「私はね、レディの歳なんか訊く配慮の欠片も無い男が許せないのよ! そんな男には、お仕置きが必要ね!」
「ぼ、暴力反対、暴力反対!」
オイオイオイ、何だよその理不尽な理由は!
まさかコイツ……ババアなのか!?
だから歳訊いただけで殺しに掛かってくるのか!
「痛いのは嫌なの? ならしょうがないわね。それじゃあ、私に二度とファッションビッチなんて言えないようにしてあげるわ!」
「な、なぬっ!?」
興奮のせいなのか、はたまた顔面から玉座に激突したからか、俺に馬乗りになったローズは鼻血を垂らしながらズボンを脱がしにかかった。
「ま、マジかよ、こんなエロゲーでしか見たことない光景が……じゃないッ! な、何しようとしてんだテメエ!」
俺は慌ててローズを振り払おうとしたが、一体その身体のどこからそんな力が出るのか、まったく身体を動かすことが出来ない。
畜生、俺って魔王の力が宿ってるんじゃないのか!?
「な、何だよ……!? アンタ一体どんな筋肉してんだよ!?」
「レディーに対してなんてこというのよ!?」
ヤバいコイツ目がヤバい!
「話をしよう話をしよう! 大丈夫、例え人種が違っても俺達は会話という素晴らしいコミュニケーション能力があるんだ! お互いに話し合えば分かり合えるからああああああ!」
しかしローズは一向に手を止めない。
そして遂にズボンが!
更にローズは俺のパンツに手を掛け……!
「た、助けて! 変態に犯されるー! 確かにアンタみたいな美女に押し倒されるってシチュエーションは凄く嬉しいんだけど、ちょっと待ってくれえええええええええええええええええ!」
俺が悲痛な叫びを上げたその時だった。
「『スパーク・ボルト』ッ!」
「アアアアアアアアアアアババババババババババババッ!」
幼い声が響いたと思った瞬間、ローズが蒼白い電光に包まれた。
そして、黒こげになったローズは後ろに倒れた。
その倒れた先に居たのは――。
「……女の子?」
黒一色のローブに身を包んだ女の子だった。
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