第一話 異世界転生は今日も突然だ!②
気が付くと、俺は妙に広く薄暗い所にいた。
そして、俺は自分の二倍デカい玉座のような椅子に座っていた。
……どこだここ?
ええっと……確か俺は書店で本棚に押しつぶされて死んで転生して、変な宝石拾って追いかけられて黒い雷に打たれてそれで……。
あれ? もしかして俺……拉致られた?
「お目覚めになられましたか?」
俺が腕を組んで考えていると、いつの間にか目の前にあのタキシードの男が立っていた。
「丁度近くに居た私の仲間に、貴方に催眠魔法を掛けて貰ったのですよ」
「さ、催眠魔法!? お、おい! テメエここはどこなんだよ!?」
「落ち着いてください。貴方はちゃんと用が済んだらお返し致しますよ……多分」
「今お前多分っつったろ!?」
「…………」
サッと目を逸らした男に、俺は身体の震えが止まらなくなった。
マズい、絶対さっきの宝石の件だ。
そんで絶対俺何かやっちゃいけないことしたんだ!
こ、殺される!? まさか殺されるのか!?
「突然ですが、申し訳ありません」
俺がガクブル震えていると、男はコホンと咳払いをし、何の前触れもなく言ってきた。
「貴方にはこの国の魔王になって貰います」
「…………は?」
……何言ってんだコイツ?
「だから、貴方にはこの世界の魔王に」
「ちょっとまてちょっとまてちょっとまて」
俺は男の話を遮った。
魔王? 魔王ってあの魔王?
えっ、でも何で本当に魔王……?
だってここは始まりの街みたいな……。
「……一つ確認したいんだけど、ここってどこ?」
俺がそう訊くと、男は不思議そうな面持ちで言った。
「はい? ここは魔界にあるバルファスト魔王国の魔王城ですよ?」
「ま、魔界いいいぃ!?」
魔界って、血のように真っ赤な空にひび割れた大地、そして悪魔や魔族がわんさかいるイメージのあの魔界か!?
「おかしくね!? こういうのって始まりの街とかじゃいの!? 普通そこからスタートだろ!?」
「あの、言ってることがよく分からないのですが……」
「は!? 魔王!? 勇者とか賢者とかじゃなくて!?」
「は、はい……」
男の返事のに俺は絶句する。
「ま、魔界って……! でも空青かったじゃん!」
「空は普通青いですが……?」
「そういう問題じゃなくて! え!? 待って!? どういう事!?」
俺が訳が分からず混乱していると、男は深く溜め息をついた。
「……どうやら貴方は他所の国の方のようですね。そして、知らぬ間にこの国へ辿り着いた」
「あ、ああ、まあ……うん」
「ならばここが魔界であるという証拠を見せる必要がありそうですね」
「は? 証拠?」
すると、男は上に手を突き上げるとパチンと指を鳴らした。
何だ? 急に何をして……。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
俺は目を疑った。
突然、男の足下から黒い炎が燃え上がり、男を包んだのだ。
黒い炎はすぐに消えたが、補脳の中から現れた男は人間に近くも遠い姿をしていた。
「私は魔王軍四天王が一人にして地獄の公爵、悪魔族のハイデルと申します」
その姿はまさに悪魔だった。
背中にはコウモリのような大きな羽が生え、鋭い爪と牙をしていた。
そして血のような紅の瞳が怪しく、静かに俺を見つめている。
「な、ななななななな!」
「これでおわかりになりましたか?」
男は……いや、悪魔ハイデルはそう言って微笑んだ。
「普段は先程の姿で生活しているんです。この羽も飛行能力の無い飾りのようなものですし、正直寝る際大変邪魔ですので」
そう言ってハイデルはもう一度指を鳴らすと、今度はあの謎の黒い炎無しで、パッと先程の人間の姿に戻った。
「さっきの変身、いかがでした? 普段あの姿になる機会など殆ど無いので、ちょっと格好付けてみました」
「あ……あが……」
何だ、何で急にバカっぽくドヤ顔しだしたんだコイツ!?
いやそれより、俺の頭がいかれたのか!?
それともやっぱり俺は異世界転生なんてしてなくて、今頃病院のベッドの上に……!
俺は試しに自分のほっぺたを抓るという古典的だが手っ取り早い方法を試した。
結果・痛い。
結論・現実。
「すうううぅぅ……はああああぁぁ……」
俺は心を落ち着かせるために、深く、深く呼吸した。
そして、玉座から立ち上がると、ハイデルに歩み寄り、大きく、大きく息を吸い込むと――!
「申し訳ございませんでしたあああああああああああああああああああああああああ!」
土下座した。
あっ、これ現実だ、殺される。
「ごめんなさいいいいいい! ほんっとうにごめんなさいいいいいい! まさかあなた様が悪魔だったなんて思いもしませんでしたあああああああ!」
俺は頭をガンガン床に叩き付けながら全力で謝る。
「えええええええええ!? な、何をしているんですか!? 頭を上げてください!」
「どうか! どうか殺さないでくださいお願いしますううううううううううう!」
「殺しませんよ!? 何言ってるんですか!?」
ハイデルのその言葉に、俺は恐る恐る顔を上げる。
「ほ、ほんとに? ほんとに殺さない?」
「大丈夫ですよ。ほら、どうか落ち着いてください」
ハイデルは安心させるように微笑むと、俺を玉座に座らせた。
「……ソレデ、ハナシヲモドシマス二ナルトイウノハドウイウコトデショウカ?」
「貴方私の言うこと信じてませんよね!?」
だって悪魔だもん。
――元の姿に戻ったハイデルの話によると、前までこの国は魔王サタンと言ういかにもな名前の奴が治めていたそうな。
その魔王サタンは世界征服という野望を燃やしていたが、半年前、勇者一行によって瞬殺されたらしい。
その勇者は、ここバルファストの隣国であるフォルガント王国の第一王女らしく、なんでも凄い力を持っているとのこと。
それとは別として、なぜ俺が魔王になるということだが、なんでも俺が拾ったあの宝石はデーモンアイという国宝らしく、魔王の素質を見極めることが出来るらしい。
魔王の素質を持つ者に反応し、より強く反応した者に、黒雷と呼ばれる魔王の力を宿した雷が落とされる。
しかし、生半可の素質や力の奴が黒雷を食らうと消し炭になってしまう。
だが、その黒雷を受けてかろうじて生きていた者が、デーモンアイに秘められた魔王の力を手に入れ、次の魔王になる決まりだそうだ。
「……それで、黒雷を受けて死ななかった俺が、次の魔王って訳か」
「左様でございます」
「そんなぁ……唐突過ぎるし、よりにもよって魔王とか……」
「しかし黒雷を受けて無傷とは……一体どういうことでしょうか……」
先程の人間の姿に戻ったハイデルは、そう言いながら顎に手を当て考え出した。
……俺、何でそんなもの喰らって生きてるんだろう。
ってか、かろうじてってことは、歴代の魔王達はみんなダメージ食らってるって事か。
お気の毒に……。
それよりもハイデルの話を聞く限り、俺にはその魔王の力とやらが宿ってるのか。
だけどコレと言って変化というか、そんな凄い力を手に入れた感じがしない。
「そういえばさ、そんな国の運命握るような国宝を何でカラスが持ってたんだ?」
ふと頭を過ぎった俺の質問に、ハイデルがビクッとすると、そっと俺から目を逸らす。
……。
「……おい、何でだ?」
「……じ、実は、いつもは金庫の中にしまっているのですが……私が金庫の掃除をしようと開けた瞬間、いつの間にか部屋に侵入していたカラスに盗られてしまいまして……」
ええ……。
「そ、そんな目で見ないでください!」
「だけどお前四天王なんだろ……? その四天王がカラスに逃げられるって……」
「だ、だって……! まさか室内に居るとは思わなくて……!」
確かに普通は室内にカラスが居るなんて普通は思わない。
それでも、魔王軍四天王がカラスに逃げられるなんて威厳もあったもんじゃない。
……四天王か。
「そういえば四天王って事はあと三人居るって事だよな?」
「ああっ! そうでした! ローズ以外にこの事態を説明していませんでした!」
俺がそう訊くと、ハイデルは思い出したように手を叩いた。
……仮にも新しい魔王が来たんだから、普通他の奴らにも説明するだろ。
さっきの怖い印象は何処ヘやら、今では心配になっている。
「すぐに連れてきますので……!」
「いやまあそんな急がなくても…………アレ?」
気が付くと、いつの間にか目の前からハイデルの姿が消えていた。
「あぁぁ……意味分かんね」
俺は深い溜め息をつくと、玉座の背もたれに体重を任せる。
普通異世界転生って言ったら始まりの街とかからスタートするのがセオリーだ。
だけど俺が転生した先は普通に空が青くて国が栄えている魔界。
しかも俺は勇者ではなく、まさかのラスボスである魔王になれって言われた。
俺の異世界転生はどこかおかしい。
せっかく異世界転生したのにも関わらず、もう日本に帰りたくなった。
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