第24話 ダンジョンの異変
「す、すごいっ!怒涛の連続攻撃!3人のコンビネーションで見事ベヒーモスが倒されましたっ!」
“終わってみたらあっという間だったな”
“3人の連携すごい!”
“これはバランスのいいパーティ”
“敵も強いのに大したもんだ”
水無瀬さんの実況とコメントの称賛を聞きながら、ベヒーモスの身体から降りる。
「この感じ懐かしー。2人とも相変わらずの対応力で助かるわ~」
まひろさんが返り血のついた剣をその辺に放りながら口角を上げた。
「いやいや、まひろさんもブランクがあるとは思えない動きですごかったよ」
「へへっ、褒めてもなんも出ないよ?ま、嬉しいからいーけど!」
お世辞ではなく、彼女の動きは昔3人でダンジョンに潜っていた時と遜色なかった。これなら、この先に進むのもさほど苦労はしなくてすむかも。
そんなことを考えていると、まひろさんはこちらに向かって大きく右手を上げた。このやりとりも随分久しぶりな気がする。私がその手にタッチすると、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「それでは、安否確認をするので一旦マイクを切りまーす。みんなまた後でね!」
私たちがそうして息を整えていると、水無瀬さんが不意に実況を中断した。かと思うと、パタパタとこちらに駆け寄って来た。
「まひろちゃん、怪我は大丈夫?か、回復用のアイテム使った方がいいよね?」
水無瀬さんはバックパックから回復薬を取り出してオロオロしている。
「あー、ありがと!でも大丈夫だよ。あれくらいなら、傷とかつかないから」
本当になんでもなさそうに言うまひろさんの姿を見て、水無瀬さんはあっけに取られてしまう。
「えっ、だってさっきベヒーモスに吹き飛ばされちゃって……。あれ、でもたしかに傷が見当たらないね」
まひろさんは土埃で全身汚れてはいるけど、傷はほとんど受けていなかった。
「そういば、水無瀬さんには彼女の能力を説明してませんでしたね。火野坂さんの『
荒木田さんの説明を受けてようやく状況を理解したのか、水無瀬さんはホッと胸をなでおろした。
「そ、そうなんだ。よかったぁ」
「心配してくれてありがとね。しずくっち!」
「し、しずくっち……」
水無瀬さんは再び別の意味で目を丸くした。まひろさんは水無瀬さんの反応を見て、慌てたように問いかける。
「あっ。もう命を預け合う仲なんだし、あだ名でもいっかなって思ったんだけど。嫌だった?」
「いえっ、結構遠慮されてあだ名で呼んでくれる人多くないから、嬉しいです!」
まひろさんは「よかった~」と軽く返して、2人は笑い合っている。まひろさんのぐいぐい行くコミュ力はとても真似できないけど、ちょっと羨ましいな。
水無瀬さんとは少し打ち解けたかと思ったけど、まひろさんの方が今のでグッと距離を縮めてしまった。それで私が困るわけじゃないけれど、なんだか複雑な気分。
「怪我とかはないけど、汚れたからちょっと休憩したいな~。荒木田。いいでしょ?」
「そうですね。一度腰を落ち着けて態勢を立て直しましょうか」
まひろさんの提案を荒木田さんが受け入れて、そのまま近くの岩陰で休息を取ることになった。
「現在地は47階層です。下層までもう少しですが、50階層を越えたらなにが起こるか分かりません。油断せずに行きましょう」
携行食を口に運びながら、荒木田さんが状況の再確認をする。
「あと3階層で下層なんですね。ちょっと緊張してきたかも」
水無瀬さんは座って両手で水筒を包み込むように持ちながら、落ち着かない様子で足をバタつかせている。
「そうだね。下層に入って異常の原因がすぐに見つかればいいんだけど」
私がそうつぶやくと、装備についた埃を払っていたまひろさんが反応した。
「異常といえばさ。今気づいたんだけど、ここなんか肌寒くない?」
彼女の言葉でハッとする。動いてたから気づかなかったけど、腰を下ろして休んでいる今ならよく分かった。たしかに上層と比べて気温が下がっているような気がする。荒木田さんも同じことを感じたようで、少し思案してから口を開いた。
「火野坂さんの言う通りですね。ダンジョン内の気候が少し変わってきている。まだはっきりとしたことは分かりませんが、このことは留意しておくべきかもしれません」
荒木田さんの言葉を胸に止めて、私たちはしばらくしっかりと体を休めた。
そこからさらに5階層進み、状況はさらに変化した。下に降りるごとに確実に気温が下がってきてる。これは明らかに気のせいじゃない。
「さ、さみー。もう決まりじゃないの?これだけ寒かったら、Sランクモンスターが上に逃げるのもそりゃそうだろって感じでしょ」
まひろさんが肩を震わせて同意を求める。
「その可能性は高そうですね。だとすれば、この気候変化の原因がなにかあるはずです。ここから先はそれを探して行きましょう」
それを受けて荒木田さんが冷静に方針を示してくれた。この気候なら以前より下層のSランクモンスターは少なくなっていることも十分考えられる。だとすれば、探索も思ったより簡単かもしれない。そう思ったその時だった。
私たちの目の前に立ち塞がるように、大きな人影のようなものが現れた。
それは人型ではあるけど、もちろん人間ではない。
青黒い肌をした筋骨隆々の肉体。額からは角が生えており、背中には翼、そして尻尾を持った魔物。
Sランクモンスター、グレーターデーモンがそこにいた。
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