第25話 VSグレーターデーモン

「おおっと!あれはグレーターデーモン!人型のSランクモンスターが現れましたっ!なんだか手強そう!」


“あんまでかくないし心配し過ぎでは?”

“なんか不気味な感じ”

“他のSランクモンスターと雰囲気違うな”

“まあなんとかなるでしょ”


 水無瀬さんとコメントの反応はそれぞれバラバラだ。でも、水無瀬さんの直感が一番的を得ている。


 このモンスターは強い。


 グレーターデーモンが虚空に右手を差し出すと、足元の影の中から三又の刃先を持った黒い槍が現れた。


「『武器創出アームズクリエイション』!」


 まひろさんがすぐさま長剣を生成し、両手で構える。さらに『人体改変セルリビルド』で肉体を強化つつ、大地を蹴った。


 瞬きする間に両者の距離がなくなり、まひろさんの渾身の剣閃が繰り出される。しかし、グレーターデーモンは槍の柄の部分で軽々とその一撃を受け止めた。


「まだまだっ!」


 まひろさんは前蹴りで牽制。後ろに下がったグレーターデーモンに再度肉薄し、続けざまに斬撃を叩き込んでいく。その連撃をグレーターデーモンは巧みな槍捌きで弾いている。


「こっ、これは!?まひろちゃんの連続攻撃が届かないっ!グレーターデーモンの戦闘技術の高さがうかがえます!まひろちゃん、頑張って!」


“コイツ武器を使うのか”

“やばそう”

“まひろちゃんが軽くあしらわれてるって相当なのでは”

“負けるなー頑張れ!”


 水無瀬さんの実況にもコメントにも緊迫感が走っている。それを聞きながら、私は『風精霊の加護シルフブレス』を起動する。


 グレーターデーモンを遠巻きに見ながら、極力気配を消して側面に回り込んでいく。


 グレーターデーモンと対峙して格闘戦を繰り広げているまひろさんに視線を送り、アイコンタクトを試みる。彼女が私の目線に気づいて、軽く首肯した。


 私はそこで一気に加速し、地上すれすれを低空飛行しながら、右手を構える。


 『束縛の雷撃バインドブリッツ』を私が放った瞬間、まひろさんがバックステップでグレーターデーモンから離れた。しかし、お見通しとでも言わんばかりにグレーターデーモンは半歩引いて最小限の動きで雷撃を躱す。


「うっ、気づかれちゃったか」


 それでも、私は背後に回り込むように高速移動しながら『束縛の雷撃バインドブリッツ』を連射する。


 こちらに意識を割いたグレーターデーモンは、それらをことごとく回避。最後の一撃を打ち終えたタイミングに合わせて、まひろさんがグレーターデーモンの死角に飛び込んだ。


 高く跳躍し、両手で握りしめた長剣を上段に掲げて全力で振り下ろす。


 グレーターデーモンは槍を水平に構えてその一撃を正面から受け止めた。激しく金属がぶつかり合う音が響く。


 グレーターデーモンの両足が地面にめり込み、大地に亀裂が入るほどの衝撃が走る。だが、そこでまひろさんの攻撃は完全に受け切られてしまった。


「くっそ、これも効かないのかよっ!」


 まひろさんは槍の柄を蹴って、大きく後ろに飛び下がる。それを見て、グレーターデーモンは右手をまひろさんに向けた。


 すると掌を中心に魔法陣が展開され、そこから突如爆炎が巻き起こり、たちまち中空に炎の渦が形成された。業火の塊は今にも爆発しそうなほどにぶくぶくと膨れ上がる。


 そして、宙に浮かんだ紅蓮の球体が揺らめき、轟音と共に圧縮されたエネルギーが打ち出された。灼熱の球が恐ろしい速度でまひろさんの下へ押し寄せる。


「うわっ、あぶなっ!」


 まひろさんは横っ飛びでなんとかそれを避けたが、その射線上には水無瀬さんたちがいた。


 巨大な火球は荒木田さんが展開した『亜空障壁ハイパーバリア』に激突すると、四方八方に飛び散り辺り一帯を焼き払ってしまった。


「ひいいぃっ!凄まじい威力の火炎系スキルです!なんと多彩なのでしょうかっ!」


“遠距離攻撃もできるとかヤバイな”

“隙なしじゃん”

“器用なヤツだな”

“こいつ今までで一番強いのでは?”


 水無瀬さんとコメントが評した通り、グレーターデーモンは近接格闘も遠距離攻撃もこなせるバランスの取れた戦闘力を持っている。


 しかも、速いから足止め系のスキルすら当てるのは至難の業だ。まずはまひろさんと連携して、体力を削らないと話にならない。


「とにかく、手数で押して行かないと」


 私は近くにあった岩場から大きな岩石を選んで右手で触れた。『瞬間移動テレポーテーション』でグレーターデーモンの頭上に転移させる。出現した影で気づかれたか、直撃は避けられた。でも、姿勢を崩した所にまひろさんが素早く回り込む。


 まひろさんはさっきのタイミングで武器を槍に持ち替えていた。鋭い刺突がグレーターデーモンの脇腹を掠める。


 武器の変更で対応に遅れが生じたか、グレーターデーモンはまひろさんの乱れ突きに若干押されている。


「よしっ!このまま押し込む!」


 敵の槍を紙一重で躱し、まひろさんがグレーターデーモンの懐に飛び込んだ。槍の切っ先がグレーターデーモンの胴体に迫った。その時、不意に足元から何本もの黒い刃が現れた。


「なっ!?」


 一瞬でまひろさんの右肩と左の太腿を貫いたその刃は、実体化した悪魔の影だった。

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