第23話 特級探索者の真価

「こ、これはっ!ベヒーモスの傷が治り始めちゃった!?一体なにが起きているのでしょうかっ!」


“再生能力持ち!?”

“ここまで来て振り出しかよ”

“これはめんどくさそうだな”

“Sランクモンスターヤバすぎ”


 水無瀬さんとコメントがベヒーモスの能力に気づいてどよめいている。


 ベヒーモスが持つ厄介な特性。それは驚異的な自己治癒能力だ。

 多少傷をつけたくらいでは数分も経たずに完治してしまう。だから、弱らせてから止めを刺すという私たちの戦法が通用しにくい。


 それでも、こちらのやることは変わらない。


「『束縛の雷撃バインドブリッツ』!」


 私はベヒーモスが動き出す前に、構えていた右手から電撃を放つ。まひろさんが脚を傷つけてくれたおかげで、楽に『束縛の雷撃バインドブリッツ』を当てることができた。


 傷はもう治りかけているけど、これでまだしばらくはまともに動けないはず。このまま、傷を癒すだけの猶予を与えずに削り切るのが正攻法だ。


「アッキー、ナイス!よっしゃあ、畳み掛けるよっ!」


 まひろさんが力強く大地を蹴り、爆発的な加速でベヒーモスに接近する。すれ違いざまに、今度は後ろ脚へと一太刀を浴びせた。


 ベヒーモスは猛々しい雄叫びと共に暴れまわり、まひろさんを退けようとする。


「うわっ、危ない危ない」


 鋭い角を激しく振りまわしての牽制に、たまらずまひろさんは後退した。それでもベヒーモスは暴れるのをやめない。


 身体は麻痺しているはずだけど、可能な限り動くことで回復する時間を稼ごうとしているみたいだ。このまま長期戦に持ち込まれるとかなりしんどい。


 ここは、連携して一気にダメージを与えて行こう。


「まひろさん、ベヒーモスの背中を狙おう!こっちに来てっ!」


「オッケー!」


 私の呼びかけで意図を察してくれたらしく、まひろさんはすぐに駆け寄ってきてくれた。彼女が差し出した左手を取って、ベヒーモスの上空に座標を指定する。


「カウントダウン行くよ。3、2、1!」


 次の瞬間、まひろさんの身体が中空に転移した。ベヒーモスはまひろさんが距離を取ったのを見て油断している。背後には意識が回っていない。


 まひろさんは落下しながら剣を両手で握りしめた。全体重を上乗せして、剣の切っ先がベヒーモスの背中に突き立てられる。


 突然の死角からの攻撃に、ベヒーモスは唸り声を上げながら再び暴れ始めた。


「くうっ!動くなって、このっ!」


 まひろさんはベヒーモスの背に深々と突き刺さった剣をさらに押し込もうと力を込めている。


 しかし、ベヒーモスが激しく身をよじったことでその剣がぽっきりと折れてしまった。


「うわあっ!」


 まひろさんは勢いよく投げ出されて、地面に叩きつけられた。そのまま土煙を上げて転がり、かなりの距離吹き飛ばされてしまう。


「ああっ!背後を取っての一撃は入ったものの手痛い反撃!?苦しい展開ですっ!」


“うわあ、これは痛そう”

“まひろちゃん、大丈夫?”

“攻撃が途切れたら回復されるのキツイって”

“頑張れ負けるなー”


 水無瀬さんもコメントも劣勢ムードだ。でも、まひろさんの攻撃でベヒーモスが怯んだ隙を見逃さず、荒木田さんが動いた。


「『亜空障壁ハイパーバリア突貫圧縮オーバークラッシュ』」


 荒木田さんは味方を巻き込まないタイミングを狙っていたのだろう。迅速に『亜空障壁ハイパーバリア』が打ち出され、ベヒーモスの脇腹辺りに直撃する。


 そのまま、ベヒーモスは後方にあった岩に体を挟まれた。そして、そこで『亜空障壁ハイパーバリア』の座標移動がストップする。


「拘束しました。灰戸さん、今が好機です」


 あえて押し込まず岩との間に挟み込むという荒木田さんの機転で、ベヒーモスの動きが制限された。


 だけど、『亜空障壁ハイパーバリア』に挟まれていない前脚と頭は動かせるみたい。ベヒーモスはまだ激しくもがいている。急所の頭を狙いたいけど、その時は今じゃない。


 私はさっきまひろさんが斬りつけた後ろ脚の方に転移した。傷口が塞がりかけで動かせていない。チャンスだ。私はその屈強な太腿に触れた。


 後ろ足が根元から吹き飛んで、ベヒーモスが悲痛な鳴き声を上げる。それとほぼ同時に『亜空障壁ハイパーバリア』が消滅して拘束が解かれた。


 しかし、ベヒーモスは左後ろ足を失ったことでバランスを崩して立ち上がれない。前脚も体を支えるのに使ってしまって振り回すこともままならない様子だ。


「あと一押しっ!『武器創出アームズクリエイション』!」


 見るとまひろさんが両手に突剣を生成しながら、一直線にベヒーモスの喉元へと迫っていた。次の瞬間、2方向からベヒーモスの首筋を剣が貫いた。そのまま両足も使ってベヒーモスの首を固定し、まひろさんが叫ぶ。


「アッキー!止めお願いっ!」


 首の動きを封じられてベヒーモスの最後の武器である角ももう使えない。今しかない!


 私はベヒーモスの頭上に転移し、無防備な額に右手を置いた。


「『瞬間移動テレポーテーション』!」


 頭部を失って、ベヒーモスの身体がゆっくりと弛緩し、ついに動きを完全に停止した。



 

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