最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女インフルエンサーを助けてバズりたおしてしまう～でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします！～

第22話 VSベヒーモス

「と、突然のSランクモンスター襲来ですっ！あれは、ベヒーモス！？に、逃げた方がいいのかな？」

　水無瀬さんが慌てて実況する中、地面をひとかきしたベヒーモスが大地を蹴ってこちらに突っ込んで来る。

　あっという間に最高速に達し、弾丸のように襲い来るベヒーモスの正面にまひろさんが素早く躍り出た。

「『人体改変（セルリビルド）・硬化（プロテクション）』！」

　瞬きする間に両者は激しく衝突。ベヒーモスの突進を真正面から受け止め、まひろさんは足を地面に突き立てるように踏ん張って抵抗した。

　大地に足をめり込ませながらまひろさんの身体が一気に押し戻される。しかし、その途中でベヒーモスの突進がピタリと止まった。

　ベヒーモスは尚も突き進もうとするが、まひろさんはそれを許さない。

　彼女は禍々しい形をしたベヒーモスの角を素手でしっかりと握りしめ、足をつっかえ棒にして全身でその巨体を抑え込んでいた。

「な、なんとっ！圧倒的な質量で圧し潰しに来たベヒーモスを生身で食い止めてしまいましたっ！まひろちゃん、すごい！」

　水無瀬さんは驚きに目を丸くしながらも、相変わらず見事な実況を披露している。

　ただ、今のまひろさんは完全に生身というわけではない。彼女の『人体改変（セルリビルド）』は肉体を自由自在に変質させる異能。先ほど発動した硬化によって、鋼のような強度を得た彼女の皮膚は簡単には傷つかない。

　とりあえず、まひろさんがベヒーモスの動きを止めてくれた。ここは『束縛の雷撃（バインドブリッツ）』を打ち込んで援護したい。

　でも今打つと接触しているまひろさんを巻き込んでしまう。私が右手を構えて様子を伺っていると状況が動いた。

「こらっ、暴れんな！って、うわあっ！」

　押し込めないことを悟ったベヒーモスが、突然首を大きく振り始めた。まひろさんの手を振りほどくつもりだ。

　彼女の力はあくまで人体の構成要素を再編成しているだけだから、質量までは変わっていない。まひろさんは軽々と持ち上げられて、振り回されてしまう。　

「くそっ、仕方ないか！」

　まひろさんは角から手を離し、クルクルと回転しながら宙を舞って着地した。

「荒木田！後ろは任せるよ！『人体改変（セルリビルド）・筋力強化（パワーブースト）』！」

　すると、まひろさんの姿が横ブレに消えた。

　眼にも止まらない速度でベヒーモスの側面に回り込み、胴体に拳が叩き込まれる。

　たまらずベヒーモスは一瞬よろめくが、すぐさま前足で薙ぎ払いを仕掛けた。地面が裂け、衝撃波がまひろさんを襲ったように見えたがそこにはすでに誰もいない。

　強化された脚力で地を蹴り、まひろさんは瞬時に距離を取っていた。そこからさらにジグザグに駆け回り、ベヒーモスを翻弄しにかかる。

「ここは彼女に任せましょう。ベヒーモスのスピードとパワーは侮れません。灰戸さんには特に相性が悪いでしょうからね」

　荒木田さんが私たちの前に立って『亜空障壁（ハイパーバリア）』を展開しながらそう告げる。

　たしかにその通りだ。ベヒーモスはその巨体に似つかわしくない機敏さで、まひろさんの移動速度にも対応している。

　正直『風精霊の加護（シルフブレス）』では、あの高速戦闘にはついて行けない。まひろさんが隙を作ってくれたところで、止めを刺すのが私の役目になるだろう。

「先ほどからまひろちゃんがベヒーモスと激しい戦いを繰り広げています！早すぎてカメラでは捉えきれないほどのスピードですっ！こっちの目が回りそう！」

　水無瀬さんは必死にまひろさんの姿をカメラに収めようと奮闘している。

“まひろちゃん速い”

“すごい脳筋な戦法だな”

“ベヒーモスもタジタジって感じだ”

“いいぞ！ぶっとばせー！”

　コメントはまひろさんの肉弾戦で大いに盛り上がっている。

「『武器創出（アームズクリエイション）』！」

　そんな中で、まひろさんがスキルを使用した。彼女の右手に光の粒子が集まり、細身の剣が現れる。状況に応じた使い捨ての武器を作りだせるということで、彼女が愛用しているスキルだ。

　武器自体に特別な機能は一切ないけれど、筋力を増強したまひろさんが振るうのでその威力はバカにならない。

「覚悟しなっ！」

　まひろさんは左右に大きくステップを踏んだ。残像が見えるほどの速度でフェイントを挟み、ベヒーモスに肉薄する。

　ベヒーモスは前足を振り上げて、まひろさんを叩き潰しにかかった。その一撃を紙一重で交わしたと思った次の瞬間、ベヒーモスの前足が剣で切り裂かれた。

　ベヒーモスは低い唸り声を上げて後退る。まひろさんは一旦距離を取って様子見に回った。

「まひろちゃんの攻撃でベヒーモスが脚を負傷しましたっ！機動力を奪ったのは大きな一歩です！これならあともう一押しでなんとかなりそうっ！」

“よしよし、いい感じ！”

“ワイバーンよりはだいぶ楽そうだな”

“一気に倒しちゃおうぜ！”

“さすがまひろちゃんも強いなー”

　ベヒーモスにダメージが入ってコメントもなんだか楽勝ムードになっている。

　でも、私たちは知っていた。ベヒーモスとの戦いはここからが面倒なのよね。

　見るとベヒーモスの前脚に深々と刻まれた切傷の周りから、白い湯気が立ち上っている。

　そして、大きく開いていた傷口の肉が盛り上がり、みるみる塞がり始めた。