第21話 ダンジョン調査開始

 翌日の昼過ぎ。サイト21に集合した私たちは早速配信のオープニング撮影を開始した。


 水無瀬さんが前回と同様に挨拶し、今回の配信の趣旨を説明する。


「ということで、今日は管理局さんのダンジョン調査に同行させてもらうことになりましたっ!Sランクモンスターが大量発生している原因をこれからリアルタイムで調べていくよ!気になったポイントは切り抜きでどんどん拡散してオッケーだからねっ!」


 水無瀬さんのスムーズな語り口を見て、まひろさんが私に耳打ちする。


「やっぱり本物の水無瀬しずくだわ。すげーっ。テンション上がる~」


「まひろさん、そろそろ出番だよ。用意しないと」


「あ、そうだっけ。いや~、ワクワクするなっ」


 興奮しっぱなしのまひろさんは、終始ソワソワしている。あがり症の私が言えたことじゃないけど、大丈夫なのかな。


 ここで、水無瀬さんが満を持してまひろさんにカメラを向けた。


「ではでは、今日は新しいメンバーを紹介するよっ!実力未知数の特級探索者!その正体は女子大生!?火野坂真優ちゃんですっ!」


「ヤッホー!見えてる?水無瀬しずくとのツーショットとかヤバいでしょ?」


 カメラに向かって手を振りながら、まひろさんは自己紹介をほっぽってはしゃいでいる。


“なんだこの子”

“ハイテンション黒髪長身ギャルとかすごいの来たな”

“ホントに戦えるのか?”

“ツーショットが羨ましいのは間違いないわ”


 コメントがざわつく中、荒木田さんがスッと隣に立って肘で彼女の脇腹を小突いた。


「いった!荒木田なにすんの。え、自己紹介?あーえっと、火野坂真優でーす。前衛でビシバシ活躍するから、みんなよーく見ててな~!」


“なんか面白い子だな”

“前衛なのか”

“どんな風に戦うのか気になるな”

“もう好きかもしれん”


 まひろさんの自由な振る舞いにコメントはもう大注目している。もしかして、まひろさん配信に向いてたりして。


「はい!まひろちゃんありがとうございました~。みんな、彼女の活躍にご期待くださいねっ!では、早速ダンジョンに潜って行きたいと思いま~す!」


 ここで水無瀬さんがささっとオープニングを切り上げて、ついに調査が開始される。


 35階層まではSランクモンスターは一切現れず、水無瀬さんが実況でそのことを強調してくれた。地上にSランクモンスターがでるんじゃないかという問い合わせが多かったらしいから、これは1つ成果として大きいんじゃないかな。

 

 そして、36階層でついにSランクモンスターを見かけたけど、当然ここはスルーを選択。距離を取ったところで、荒木田さんがバックパックを下ろし始めた。


「そろそろ危険な領域に突入してきましたっ。では、ここで重要アイテム。魔物除けのお香を焚いて、モンスターとの遭遇率を下げますっ。Sランクモンスター相手でもそれなりに効くらしいので、しっかりと活用していきましょう」


 水無瀬さんが小声で丁寧に実況しながら、荒木田さんが魔物除けのお香を使う様子を撮影している。


 アイテムの効果によりしばらくSランクモンスターの姿は鳴りを潜めた。それでも、45階層を越えてきたあたりから見かける確率がグッと上がり始める。


「わたし、こんな深い所まで来たの初めて。やっぱりここまで来ると、モンスターはみんな強そうだね」


 水無瀬さんが不意にマイクの電源を切って、私に近寄り話しかけてきた。さすがに緊張感が増してきて心細くなったのかもしれない。ここはなにか気の利いたことを言って勇気づけてあげないと。


「そうだね。でも、私たちがついてるから大丈夫だよ」


 しかし、色々考えた結果シンプルなセリフしか出てこなかった。自分のボキャブラリーの無さが恨めしい。


「ありがとう。そうだよね。戦っているアキちゃんがそう言ってくれるんだもん。わたしはわたしにできることを頑張らないとね」


 それでも、水無瀬さんの眼つきが少し変わった。その瞳には凛とした力強さを感じる。口下手な私でもちょっとは役に立てたかな。


「みなさん、止まってください」


 そこで、荒木田さんの鋭い声が聞こえてきた。


 ハッとして、足を止め周囲の気配を探る。


 遠くから地鳴りが徐々に近づいてきているみたいだ。


 魔物除けのお香も使っているし、まだ居場所はバレていないはず。ここはじっとしてやり過ごせばいい。そう思っていると、どんどん地響きが大きくなりこちらに近づいて来た。


「『亜空障壁ハイパーバリア』」


 そこで荒木田さんが動いた。『亜空障壁ハイパーバリア』が展開されるとほぼ同時。透明な壁の向こうから、巨大な四足歩行の怪物が猛烈な勢いで飛び込んで来た。


 そのモンスターが『亜空障壁ハイパーバリア』にぶつかった瞬間、衝撃波が発生し辺りに土煙が立ち込める。


 黒い影がその煙幕を横切り、私たちの背後へと回り込んだ。


 煙が晴れ、その魔物の姿が露わになる。


 巨大な角と牙を持った獣のような姿。

 そいつはSランクモンスター、ベヒーモスだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る