第20話 調査チーム結成
「ちょうど良かった。こちらは火野坂さん。灰戸さんからすると懐かしい顔でしょう。彼女が今回声をかけていた特級探索者です」
荒木田さんに紹介され、そこではたと気づく。
「火野坂って。もしかしてまひろさん?」
私が名前を呼ぶと、彼女は驚いたように声を上げた。
「えっ!アッキー、ひさしぶりじゃん。アンタも荒木田に呼ばれたんだ?」
私より3つ年上だから、高校を卒業して普通に進学してるんじゃなかったかな。
それにしても、最後に会った時と比べてだいぶ印象が変わってしまっている。前はこんなチャラそうな感じじゃなかったんだけどな。
「うん、そうだよ。……それにしても、まひろさんはかなり雰囲気変わったね」
彼女はニカっと快活な笑みを浮かべた。
「分かる?大学デビューからこっち、ファッションに凝っててさー。なんならアッキーにもレクチャーしよっか?」
久々の再会でかなりテンションが上がったらしい。彼女は明るく雑談を開始しようとする。しかし、荒木田さんがそこに待ったをかける。
「盛り上がっているところ悪いですが、依頼のお話をしてもいいですか?」
まひろさんは面白くなさそうにジト目で荒木田さんを凝視した。
「アンタたち2人がいるなら聞かなくても大体想像つくわよ。どうせまたダンジョン探索しろって言うんでしょ?」
「まあ、そんな感じではありますね。サイト21でSランクモンスターが上層に向かって侵攻してきていまして。その原因の調査に協力して欲しいんです」
荒木田さんの依頼に、まひろさんはふくれっ面を作って返事をする。
「お断りよ。こっちは貴重な大学生活を楽しむので忙しいの。先に言っとくけど、報酬の問題じゃないから。いくらお金積んだって無駄だからね」
荒木田さんは困り顔で頬を指でかいた。
「まあそう言わずに、もう少し話を聞いてくれませんか」
「やだ。こっちは変な力に目覚めたせいで高校時代に命がけの労働させられてるのよ?これ以上アタシの青春を捧げてなんかやるもんですか!」
まひろさんは腕組みをしてそっぽを向いてしまった。まさに取り付く島もないって感じね。
でも、下層を目指す今回の調査では特に彼女の能力は重宝する。全員が無事に探索から帰還するためにも、ぜひ力を借りたいところだ。嫌がってるところ悪いけど、私からも説得してみよう。
「今ダンジョンにはSランクモンスターがたくさんいるから、まひろさんがいてくれると助かるの。私からもお願い。力を貸してくれないかな?」
まひろさんはこっちを見て、悩まし気に顔を歪めた。
「うっ、アッキーまでそっち側なの?まあ、頼りにしてくれてるのは悪い気はしないけどさ。そんなこと言われても、やりたくないのは変わんないよ。そっちの子みたいに、他の特級探索者を当たった方がいいって」
まひろさんは申し訳なさそうにしながら、水無瀬さんの方を見てそう言った。
すると、彼女の勘違いに気づいたのか、傍観していた水無瀬さんがここで声を上げた。
「えっと、わたしは特級探索者じゃないですよ?」
「あれ、そうなの?じゃあなんでここに?」
荒木田さんが小さく溜息をついて、割って入ってきた。
「少々話が前後しましたが、今回の探索はカメラを入れて生配信するんです。彼女はダンジョン配信者として活動している水無瀬しずくさん。撮影スタッフとして協力をお願いしてるんですよ」
すると、まひろさんは驚いて目を見開いた。
「えっ、水無瀬しずく!?あっ、よく見たらたしかに顔まんまじゃん!本物?ヤバ!っていうか、なんで生配信?どういうことかよく分かんないんですけど?」
まひろさんは興奮しながらマシンガンのように疑問を連射する。荒木田さんは頭を抱えて、諭すように言葉を続けた。
「あなたがこちらの依頼内容を詳しく聞こうとしないからですよ。ちょっと落ち着いてください。分かるように説明するので、大人しく話を聞いてもらえますか?」
まひろさんはコクコクと頷く。
「ゴメンゴメン!なんか俄然興味湧いて来ちゃった。座っていい?ちゃんと聞くからさ!」
そうして、荒木田さんは今回の依頼内容を改めて一通り説明した。
話を聞き終わったまひろさんは真っ先に口を開いた。
「やる!アタシにもその配信手伝わせて!」
急に手のひらを返されて、思わず拍子抜けしてしまう。
荒木田さんも同じ心境らしく、困惑気味の表情をしている。
「そう言ってもらえると助かるんですが、随分簡単に言い分を変えるんですね」
「だって、あの水無瀬しずくとのコラボ配信に出られるって聞いたらやるしかないでしょ!そんな機会普通に生きてたら絶対巡ってこないし!友達に自慢できるネタが増えるなら、ダンジョン探索くらい安いもんだよ」
まひろさんは熱っぽくそう言って目を輝かせている。荒木田さんは諦めたように
「まあ、理由はどうあれ協力ありがとうございます。ちょうど明日は土曜日ですし、昼過ぎから集合して早速調査に行きたいところですね。みなさん、予定は大丈夫そうですか?」
「明日ね。ちょっと待って。すぐ予定キャンセルするから!」
まひろさんはもう完全に乗り気になって、スマホをいじり始めた。
私は特に予定なかったし、水無瀬さんもスケジュールを調整して、調査はあっさりと翌日に決定した。
こうして賑やかなメンバーが加入し、ダンジョン調査チームが結成されたのであった。
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