第12話 生配信企画始動?
翌日、午後のホームルームが終わって私はすぐに教室を飛び出した。
水無瀬さんのクラスに急いで向かい、彼女の姿を探す。
「あれ、灰戸さん?」
こちらに気づいた水無瀬さんが小さく手を振り、声を掛けてきてくれた。
「どうしたの?お礼の品はまだ用意できてないから、もう少しだけ待っていて欲しいな。それとも、他になにか用事?」
「う、うん。実はお願いしたいことがあって。この後少し時間いいですか?」
すると、水無瀬さんはキラキラと目を輝かせた。
「お願い!?それならもちろんオッケーだよ!待ってて、今準備するから!」
まもなく帰宅準備をしてきた水無瀬さんを伴って校門に向かう。すると、そこには荒木田さんが待っていた。
「水無瀬さん、紹介します。この方はダンジョン管理局の荒木田さん」
「えっ、あ、初めまして。……灰戸さんのお知り合いの方ですか?」
水無瀬さんは私に一歩近寄って耳打ちするように尋ねてきた。遠慮なく言うと荒木田さんは第一印象がいい方ではない。そのせいか、ちょっと警戒されてるみたい。
「うん。以前一緒にダンジョン探索してた仲間なの。怪しい人じゃないから安心して」
私の紹介に合わせて、荒木田さんは一礼してから名刺を取り出した。
「ご紹介いただきました荒木田です。この度はダンジョン管理局として水無瀬さんに依頼したいことがありまして。この依頼には灰戸さんにも協力してもらっています。少しお話を聞いてもらえますか?」
水無瀬さんは訝しげな顔をしていたが、名刺を受け取ると少し表情を和らげた。
「ダンジョン管理局の職員さんなんだ……。分かりました。灰戸さんの知り合いみたいですし、とりあえず話は聞きます」
「ありがとうございます。少し長くなるので、場所を変えましょうか」
荒木田さんの先導に従って、私たちはダンジョン、サイト21に向かった。
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歩くこと十数分。私たちはダンジョンに辿り着いた。
バリケードが張られているサイト21には、ダンジョン管理局の事務所が併設されている。私たちはその建物の一室に案内された。
「どうぞ、かけてください。では、早速本題に入りましょうか」
荒木田さんの口から、ダンジョンの異常や注意喚起動画の内容などが一通り語られる。
水無瀬さんは話の途中からかなり真剣な表情になり、ときおりコクリコクリと相槌を打っていた。
「……というわけで、動画配信の方法について技術的なアドバイスをいただきたいのです。引き受けていただけますか?」
荒木田さんの問いに、水無瀬さんはゆっくりと口を開いた。
「話は分かりました。わたしもダンジョン探索を
「ただし?」
「その配信内容はボツですっ!」
「「え?」」
私と荒木田さんの声が重なった。ポカンとしている私たちに向けて、水無瀬さんはさらに畳み掛ける。
「Sランクモンスターの映像と事情説明を繋げただけの動画で拡散を狙うだなんて!あまい。砂糖菓子よりもあまいですよっ!」
どうやら、私たちの考えた配信内容が水無瀬さん的にはお気に召さなかったらしい。まあ、素人が出した案だしそうなるのも当然か。
「たとえ注意喚起の動画であっても、エンターテインメントの精神を込めなければ話題になんてなりっこないのです。でも、安心してください。人気ダンジョン配信者であるわたし。水無瀬しずくが、全力で監修して差し上げます!」
大げさな身振りで水無瀬さんが高らかに宣言する。すると荒木田さんがパチパチと軽く手を打った。
「いやぁ、正直我々も手探り状態だったのでとても助かりますよ。ぜひ改善点のご指摘をいただきたいですね」
言葉の割に感情の乗ってない反応だったけど、それでも気を良くしたのか水無瀬さんは腕を組んでふんぞり返る。
「ふふっ、いいでしょう!まず、録画ではなく生配信にするべきかな。視聴者のみなさんは、生の臨場感や驚きを求めてます。灰戸さんがSランクモンスターと実際に戦っている場面をリアルタイムで配信すれば、注目度アップは確実です!」
「な、生配信!?それはちょっとハードル高くない?」
サラマンドラの動画も生配信だったから物議を醸していたわけだし、そっちの方が注目されやすそうなのは理解できる。でも、意図的に実行するとなるとそう簡単にはいかないような気がした。
「あれ?サラマンドラを一瞬で倒せる灰戸さんならそんなに難しくないのかと思ったけど、ダメだったかな?」
水無瀬さんは意外だと言わんばかりに首を傾げた。まあ、サラマンドラ瞬殺の様子を見ちゃってるしそう思ってもしょうがないか。実際Sランクモンスターを1体倒すだけなら難しいことじゃないのは合ってるんだけど……。
「撮影者を守りながらSランクモンスターを倒すとなると勝手が違いそうだし。それに、生配信なら一発勝負でしょ?上手く撮れなかったら放送事故になっちゃうじゃない」
カメラの前で喋るよりはマシだけど、戦ってるところを見られるのもやっぱ恥ずかしいし。生放送の緊張感の中で戦闘なんてやったことないから、普段ならしないポカとかやらかしちゃいそう。さすがに不安すぎるって!
「まあまあ、頭ごなしに否定しなくてもいいでしょう。それに、今の話を聞いて思いついたことがあります」
そこで割って入ってきたのは、なんと荒木田さんだ。
「撮影スタッフを別に用意して、自分も戦闘に回るという方法です。特級探索者2人がかりなら、Sランク1体を相手取るのもかなり楽になるでしょう。それに、自分の能力は防御特化型なので撮影者を守りながら戦うことも可能です」
むむ、荒木田さんと2人で戦うならお互いにフォローし合える。それなら結構安心感はあるかも。それに、私が画面に映る時間も相対的に減りそうだ。
「でも、結局撮影に慣れてないスタッフが一発撮りするんでしょ?そこはやっぱりリスキーじゃない?」
すると、水無瀬さんが横から身を乗り出して自分の顔を指さした。
「でしたらその撮影、わたしに任せてください。生配信には慣れっこだから撮影ミスはしないし。今までに培った実況力で配信を盛り上げながら、危ないってこともアピールできます!」
突拍子もなくそう言い放った水無瀬さんの顔は、これでもかというくらいやる気に満ち満ちていた。
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