第11話 もう一人の協力者

「なるほど。36階層に5体もSランクモンスターが出現したと。確かに、それは一刻を争いそうですね」


 スマホ越しに、荒木田さんが深刻そうに呟く。


「うん。注意喚起するなら急がなきゃ。それで、配信って具体的にどんなことをするの?」


 私が一番聞きたいのはそこだ。やると決めたとはいえ、元々配信系の動画をあまり見ないから、なにをすればいいのか正直まったく分からなかった。


「それはこれから決めます」


「えっ、まだ決まってないの?」


 驚いて声を上げてしまう。依頼してくるくらいだから、てっきりもう決まっているものかと思ってた。


「恥ずかしながら自分含め管理局の人間には、配信という文化に詳しい者がいなくてですね。一応下調べはして大まかな案はありますが、正直つけ焼き刃であることは否めません。なので、灰戸さんに意見を聞きながら動画の内容を決めようと思っていたんですよ」


 そんな見切り発車みたいな感じでいいんだ。って、もしかして動画の内容作りも私の仕事なの!?


「いやいや、そんなこと言われても困りますって!私ダンジョンに潜ってばかりだから、動画とか見ないし。配信内容の良し悪しなんて分かんないよ?」


 部屋の中をグルグル回りながらアワアワと手を振ってしまう。


「この際それでも構いません。若者の視点はぜひ参考にしたいので、気楽に思ったことを言ってもらえれば大丈夫です。灰戸さんがダンジョン大好きな生粋のバトルジャンキーなのは知っているので、そんなに気負わなくていいですよ」


「まあそれならできるだけ頑張るけど……。って、誰がバトルジャンキーですかっ!」


 荒木田さんの急なレッテル張りに、反射的にツッコミを入れる。


「おや、違いましたか?てっきり戦うのが好きでダンジョンに潜っているのかと思っていましたが」


 あながち間違いでもないけど別にそれだけが理由じゃないし、なんだかムッとしてしまう。


「そんな単純な理由でダンジョンが好きなわけじゃないから!まあ、全く外れってこともないけどさ」


 私の声色で機嫌が悪くなったと気づいたのか、荒木田さんはすぐに訂正した。


「失礼。ちょっとからかい過ぎましたね。冗談ですから気にしないでください」


「荒木田さんの冗談分かりにくいよ。声のトーン変わらないんだもん」


「よく言われます。もっと研究が必要ですね」


 戦場を共に駆けたという割と濃い付き合いだし、遠慮なく話せる間柄ではあるけど、たまにノーモーションで剛速球が来るからビックリする。


 コミュ障の私が言うのもなんだけど、荒木田さん職場での人間関係とか大丈夫なんだろうか。


「それはさておき、動画の内容を決めていきましょうか。まず灰戸さんがサラマンドラを倒した探索者として名乗り出る。これは必須ですね。そして、Sランクモンスターが浅い階層で出やすくなっていることを説明して注意を促します。この流れ、灰戸さんはどう思いますか?」


 うっ、やっぱ自己紹介しなきゃだよね。もうネットでは顔も名前もバレちゃってるとはいえ、改めて自分の素性を明かすのはやっぱりめちゃめちゃ恥ずかしい。


 なにより、喋らないといけないのが無理!絶対なんかやらかしちゃうよぉ。


「灰戸さん?どうかしましたか?」


「いやっ、ちょっと緊張で震えてただけ。気にしないで」


「ああ、やはりカメラの前で喋るのは抵抗がありますか。ちゃんと台本は用意します。アドリブは求めませんよ。それでも不安なら、説明用の画像などを使ってセリフを削ることも考えましょう」


 うっかり本番を想像して悶えてたら、荒木田さんがテキパキと対策を提示してくれた。あ、ありがたい。せっかくだしちょっとわがまま言ってみようかな。


「それならついでに、荒木田さんが説明してくれたらもっと嬉しいなー。なんて……」


「そこまでいくと灰戸さんにお願いしている意味がないので却下です」


「あはは……、ですよねー」


 ダメもとではあったけど、思いのほかバッサリ断られてちょっとしょんぼりしてしまう。なによ、少しくらい考えてくれたっていいじゃん!


「それで、内容について思う所はありましたか?」


 聞きながら書いていたメモを眺めて少し考える。うーん。どこがとは言わないけど、なんか物足りないような……。とりあえず、気づいたことだけでも言語化してみる。


「動画を見た人には探索を止めて欲しいんだから、もっと視覚的に危ないってことが伝わるようにした方がいいと思う。Sランクモンスターの画像か映像を見せるとかさ」


「なるほど。一理ありますね。では、Sランクモンスターが暴れている様子を撮影して動画内で流すというのはどうでしょう。それなら、危険性は一目で分かります」


 荒木田さんの名案に私は大きく頷いた。


「おぉ!いいんじゃない?」


「では、この案で行きましょうか。あとは、撮影の準備をするだけです。少し時間がかかるので、灰戸さんはしばらく待機をお願いします」


「あれ、私は待ってていいの?」


「ええ。灰戸さんも動画の撮り方とか配信の方法とかは分からないでしょう?我々もそうなので、今まさに動画配信のノウハウを持っている協力者を探しているんです。まあ、なかなか見つからなくて苦労してるところなんですが」


 それも今からやるんかい!と、心の中でツッコんだところでふとある人物の顔が思い浮かんだ。


「そうだ。サラマンドラの動画を撮ってた配信者がウチの学校にいるんだけど、彼女に聞けばアドバイスもらえるかも」


「本当ですか。それはありがたい。配信者の方に話を聞けるのは実に助かります。直接会って話がしたいですね。灰戸さん、紹介してもらってもいいですか?」


 思い付きで言ってしまってから気づいた。この流れだと水無瀬さんとまた関わることになっちゃう。あ、でもこの情報提供をお礼ってことにすれば、水無瀬さんのお返しも同時に受け取れて一石二鳥なのでは?うむ、これは案外ありかもしれない。


「分かった。じゃあ、明日放課後に待ち合わせしよう。その人を連れていくから」


 こうして、配信計画がついに動き出したのだった。

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