アーシャと謎の男
朝日が昇り始めたのでリックを閉じ込めていた部屋に向かった。
あの部屋は2階の一番奥の部屋で、元は鍵なんてついていなかったけど外付けの鍵をつけて貰ったのだ。
警戒心の心配はされるけど、きちんと自衛の手段だって持っている。他にも自衛の手段はあるけど、どうやら今回は使わなくても大丈夫そうだった。
(物音がしない? もしかしてまだ寝てるの? )
もしそうだとしたら、私より警戒心がないのではと思ってしまう。だって、経緯はどうであれ一晩部屋に閉じ込めたんだし。覚悟を決めてドアをノックするが返事はない。
「入りますよ~」
そう言って入るとやっぱり彼はすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。寝顔もとても美しいけど、朝ご飯も準備しているので早く起きてもらいたい。
「リック、ご飯できたから起きてください。話すことがあるんでしょう? 」
リックの体を揺さぶると若干うめきながらも目を覚ました。
「こんなことを私が言うのも変な話ですが、よくこんな状態で眠れますね。」
良く見ると昨日よりも顔色は良くなっているし、顔も強張っていない。
リックは伸びをしながらおはようと挨拶してきたのでこちらも挨拶を返した。
「密室という事は監視する君以外に警戒する対象がいないし、その君は俺を不審者だって近づかない。つまりこの部屋は俺にとっては一番安全って事だろう?」
ふんふんと鼻歌なんて歌いだすのでもういいかと思っているとリックはジッとこちらを見つめていた。
「俺の着替えがそんなに見たい? 」
そう言ってボタンを3つほど外しており胸板が露わになっていた。しかも質が悪いことに少し動きが止まったかと思うとまた着替えを始めてしまっている。
「失礼しました!!」
そう言って出ていくと愉快そうに笑う声が聞こえてきて更にムカムカした。
(いや、勝手に着替える方が悪くない!? )
こっちが男性に耐性がないことを面白がっているに違いない。美形を見てときめいてしまうのは生理現象と思わせてほしい。
*
用意した朝ご飯を二人で食べながら、前々から思っていたことを口にした。
「倒れていたのって自作自演ですよね? 」
そう言ったら食べていた手を止めてこちらをじっと見ていた。
「何でそう思うんだ? 君は事件に巻き込まれた可能性があるから家に入れてくれたんだろう? 」
「最初はそう思いました。でも、そう思われることこそが貴方の目的だったのでは? 」
そう言うと、目を細めて黙ってしまった。その姿が様になってしまっていて思わず見とれてしまった。私の視線に気づいたのかにっこりと笑ってこちらを見てきた。
話がずれてしまうと思い、咳ばらいをして話を戻した。
「貴方の服が破けていたので簡単に縫ってしまおうと思って着ていた物を取りに行ったんです。」
上着がズタズタに切られていたので、その格好で行くのは恥ずかしいだろうと思っての行動だった。
「よく見ると裂け目が全て同じ方向で切られてました。裂け方を見た感じでは右利きの人だと思われます。」
「俺を襲った人が右手が利き手だったんだろうね。」
「言い方が悪かったですね。裂け目は貴方から見ての方向です。真正面から襲ってきたのなら逆側の裂け方をしている筈ですが? 」
その言葉を聞いて憂いているかのように目を伏せた。
「羽交い絞めされたんだ。そして服を……。」
(まぁ、そういう話になるわよね)
道端で襲われかけて逃げてきたと言われれば話の筋は通るかもしれないが、物的証拠が私にそれを許してはくれない。
「それでは筋が通りません。私が驚いて駆け寄った理由は背中にあった沢山の服の裂け目を見てしまったからなんですから。」
私が倒れている彼を見て思ったのが『背中を切りつけられて転びながらも私の家に着いた男性』というのが印象だった。そう思って彼に接すると違和感がどんどんと出てきた。
「最初は手当てが先だと思って家に入れました。傷が全くないことに違和感を覚えましたが、貴方はお綺麗でしたのでいつも防具でも捲かれているのかと思い口に出しませんでした。」
この麗人には我を忘れさせるようなそんな魅力を感じる。それが男女問わずだとしたら身を守る術くらいはと思ったけど、昨日の事と言いさっきの発言と言い矛盾した事ばかりだ。
「羽交い絞めされて背中に傷はつくのでしょうか?逃げた時についたものだとしてもあまりにも多すぎるのですが、これは何と説明をされますか? 」
そう言うと黙ってからため息をついた。表情を見て思うに言い分を言えなくなったというよりは考えるのが面倒くさいという感じに見えた。
恐らくこの人は私の家に入ることが出来れば良かった。そう考えると色々とつじつまが合う。
「私を誘惑でもして言うこと聞かそうと思ったのでしょう。」
そう言うと顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
「一夜は共にしようと思っていたんだ。」
(最低じゃない!!出会って早々に体を許す女だと思われてたって事でしょ!?)
彼と話す度に好感度は下がっていく一方ではあるけど、逆に言ってしまったらここまでしないといけない『何か』があるのだろう。
「私を訪ねるって事は余程の暇人か、藁にも縋る思いの人かのどちらかです。貴方は後者だと思いますが良く私を探し出せましたね。」
そう言うと彼はぽつぽつと話し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます