第11話 魔大陸
クシナガラの町でマガト軍を下し、メナンドロスの軍を吸収した俺たちは、進路を一転、南下して王都パープトラへと進軍した。
兵力はメナンドロス軍の歩兵が1万、リザードンマンの兵が3千。
マガト王国軍がどれほどの兵を動員してくるかは分からないが、魔王軍もそろそろ本隊がやって来てもおかしくない。
これまで声をかけてきた反国王派の諸侯達も軍を送ってくれるだろう。
王都パープトラまでは10日程の距離だったが、諸侯達に援軍の要請を送ったりしながら、1か月程かけてユルユルと進軍した。
そして、王都まで3日というところで俺たちは進軍を止めた。
ここで動向を見ながら、援軍を待つ。
どうやら魔王様はまだ動いていないようだったが、諸侯達は続々と軍を率いてやって来ていた。
あと5日もあれば集結できるだろう。
王都包囲をどのように進めるべきか、リザードン王やメナンドロス達と軍議を開いていると、マガト王国から使者が送られてきた。
数人の護衛を引き連れて現れたのは、マガト王国の大臣で、王都パープトラを開城する旨を伝えてきた。
リザードン王は激怒した。
「戦わずして降伏するなど武人の恥ぞ。たわ言を言っておらんと、早く帰って戦支度をせよ。正々堂々戦って散れ!」
リザードン王が唾を吐き散らしながら喚くのを正面で受けていた大臣は、ハンカチで顔を拭きながら答えた。
「それが、王も王国軍も今や王都にはおらず、軍を編成しようがありません。残った諸侯達もほとんどが勇者様に下っておりますので、私どもに出来るのは開城することくらいでして。」
王も軍もいない?
どこかに逃げてしまったのだろうか。
大臣によると、俺たちが侵攻を開始し、ガイール川をはさんで対峙した時から、マガト王国軍は真っ二つに割れてしまったのだという。
王や中央の重臣達は王国存亡の戦いに徹底抗戦を主張したが、諸侯達は和睦を望んだ。
魔王軍の目的がマガト王国を攻め滅ぼす事なのだから、王や貴族達とは交渉の余地はないだろう。
しかし、地方の諸侯達にしてみれば、恐ろしい魔王軍などと好んで戦いたいとは思わない。
降伏すれば、領地は安堵されるかもしれない。
それに加えて、俺たちがリザード軍を引き連れて諸侯の調略に回っていたものだから、だんだんと和睦派が優勢になっていった。
決定打は、クシナガラの町での攻防でマガト軍が敗れたことで、徹底抗戦派は完全に勢いを失った。
マガト王国内にいて、和平派に捕縛されることを恐れたグプタ王は、側近と中央軍を引き連れて東部の山岳地帯の拠点へと逃亡してしまった。
残された王都パープトラは、主を失って空っぽになっていたのを、年寄の大臣と文官達だけが残って政務をこなしていたというわけだ。
王も軍もいなくなった王都は、急激に治安が悪化していて、大臣達は勇者の到着を待ち侘びていたらしい。
俺たちは急かされるように陣を引き払うと、王都パープトラへと進んだ。
罠の可能性も考えたが、王都には老兵や負傷兵を残してほとんど兵がいなくなっていた。
俺たちが王都に入ると、まるで凱旋式の時のように住民達から歓迎された。
町中の鐘が打ち鳴らされ、花びらが雪のように撒かれ降り注ぐ中、俺たちは入城した。
先頭をメナンドロスの軍、そして俺、リザードン王と続いてリザード軍が後に続いた。
さんさんと陽に照らされながら、花びらや兵士の持つ槍の先端がキラキラと輝いていた。
栄光の時に兵達は酔いしれ、住民達もまた勇者の到着に熱狂していた。
町の大通りを進み王宮に入ると、兵達を解散した。
兵達の宿営は、勝手知ったる大臣とメナンドロスに任せる。
思えば、メナンドロスも変な縁で、つい先頃俺たちと敵対していたかと思えば、今や凱旋軍の先頭にいるのだからおかしなものだ。
その後、大臣からの提案で、諸侯達が王都に着き次第、戴冠式を執り行いたいと言われた。
諸侯や民衆に新しい統治者を知らしめるためだという。
この件では少し揉めた。
俺としては魔王様の支配下に入るものだと考えていたのだが、大臣達は勇者に新国王に就いてほしいと言う。
俺は魔王様の配下なのだから結局同じ事だと説明したが、微妙にニュアンスが違うのだとかで譲らなかった。
どちらにせよ、俺の一存では決められないので、魔王様の到着を待って判断をあおぐことにした。
それと、ナンダ王国に残してきた仲間たちが気がかりなので、一度帰国できないか聞いてみたが、「絶対ダメ!」とのことだった。
「勇者様が招集された軍なのに、集結するのも待たずにどこかへ行ってしまったら、諸侯達が怒りますよ。」
とたしなめられた。
それもそうか。
「それよりもこちらで、戦の疲れを癒やしながら魔王様をお待ちしてましょう。」
袖を引っ張られ、大臣は俺を後宮へと案内した。
香が焚かれたきらびやかな空間で、俺は美女達からめくるめく歓待を受けた。
これが、マハラジャのハーレムか…
夢心地で快楽に身を任せていると、大臣が耳元で囁いた。
「新国王になっていただければ、ここも全て勇者様のほしいままですよ。」
そう言い残して、退室して行った。
なるほど、王になるというのも悪くないかもしれない…。
しかし、マガト王国の後宮は素晴らしい所だった。
俺は必要な時以外は、一歩も外に出ず、お誘いを受けるまま、美女達の中を渡り歩いた。
完全に桃色の園の虜になってしまっていたのだ。
王都パープトラに続々と集結する諸侯達と面会した後は、公務は全て大臣に任せて、夢のハーレムで過ごした。
そうして、めくるめく時間を過ごすこと一ヶ月。
俺が女達とあられもない姿でソファに横になっているところに突然、黒猫魔王様が入ってきた。
扉がバンっと開けられた。
「何をしてるのニャ! 全然、報告も寄こさにゃいで。なんニャその堕落した姿は!」
魔王様はひどくお怒りだった。
だが俺にも事情があるのだ。
「すみません、魔王様。この娘達が放してくれなくって。」
そう言って、前髪をかきあげながら流し目を送ると、周りからキャーと黄色い声があがった
すみません、モテすぎて。
それを見ると魔王様は目を細めた。
「お前、"誘惑の魔法"にかけられておるニャ。シャンとせい!」
そう言って黒い尻尾でバシンとビンタされた。
すると、
「あれ、あれれ。俺は勇者のハーレムでバインバインの娘達がモテモテの花園の・・・。」
視界がクルクル回ってふらついたが、やがて意識がしっかりしてきた。
「あれ、俺はなにを…。」
意識がはっきりする程に、それまでの記憶が霧の中に薄れていくように失われていった。
なんかモテモテだったのは憶えているのだが…。
「お前は女達の"誘惑の魔法"にかけられて虜にされていたのニャ。まったく、『勇者を堕落させるのはいつも美女の誘惑』、とは言ったものニャが。」
魔王様は冷たい目をしていた。
まさかこんな失態を見られることになるとは思わなかった。
俺が謝ると、
「それより早く服を着ろニャ。これから戴冠式ニャ。」
素っ裸の俺に女達が急いで服を持ってきてくれた。
湯浴みや、髪をとかしてくれたり、服を着せてくれたり全てやってくれる。
まさか、この娘達に魔法をかけられていたとは…。
魔王様と後宮を出ると、大臣が待っていた。
全てこの大臣の計画だったのだろう。
俺はジロっと見たが、涼しい顔をしていた。
「戴冠式の用意はできております。諸侯達が勇者様をお待ちです。」
そう言えば戴冠式や何かについて魔王様と話すことがあったような。
俺が説明しようとすると、魔王様が遮った。
「いいニャ。詳細は、お前が腑ぬけている間に、そこの大臣と詰めておったのニャ。」
魔王様は嫌味を言いながら、説明してくれた。
ナンダ王国と、マガト王国を合わせて新国王には勇者、つまり俺が就くことにしたらしい。
人族の国はその方がまとまると。
玉座の間に出ていくと、既に諸侯達が集まっていた。
俺が、魔王様を抱え、大臣を引き連れて出ていくと諸侯達の視線が集まった。
玉座につき、膝に魔王様を乗せると、魔王様が口を開いた。
「諸君! マガト王国の諸侯のみなみな。この度は我らが遠征によくぞ参加してくれた。我々はここに裏切りの王を倒し、マガト王国は我輩の支配下となった。新しき王にはこの者、我が配下の勇者がつく。」
そう言うと、控えていた神官が王冠を持って現れ、俺の頭に載せた。
『新しき国王陛下、万歳! 勇者様、万歳! 我らが王よ!』
諸侯達は叫ぶと、膝をついて頭を垂れた。
魔王様はそれを満足そうに眺めると続けた。
「人族に魔族に魔物ども、亜大陸のことごとくが我輩の軍門にくだった。これよりは、亜大陸の呼称を改め【魔大陸】とする!」
クソザコ転生 〜猫様は魔王様〜 ハラシン @harashinichiro
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