第9話 マガト王国侵攻
魔王様の行動は迅速だった。
まず拘束したバドラシーラ王を人質に、王宮の兵達を武装解除し、王宮の外へと退去させた。
同時に、スライム卍会を使い王宮にいた他の王族達も拘束。
バドラシーラ王と共に地下牢に幽閉した。
そして、ナンダ国に招待されていた、魔族の国の大使のもとを訪れた。
勇者の首を差し出して、それを土産に同盟締結という予定だった魔族の大使は王宮にいた。
俺たちが現れると驚いたが、黒猫魔王オルロフス様が正体を明かすと平伏した。
300年封印されていたとは言え、魔王様の威光はまだまだ健在のようだ。
「苦しうない。ここに我輩の復活を宣言し、魔王軍の招集を命じる。貴様の王に伝えて参れ。」
魔王様が命じると大使は頭をあげた。
「ははッ大魔王様。首都タリーの外に500、国境付近に5千の兵が待機しておりますゆえ、お使いくださいませ。私は、我が王と亜大陸中に使いを出しまする。すぐに魔族の大軍が集まりましょう。」
魔族の部隊は速やかに王宮に入り、守りを固めた。
ガラドもマルクルもドゥリンもまだ目を覚まさない中、今攻められるわけにはいかない。
国境で待機していた兵5千も、10日程で首都タリーに着き、街を占拠した。
王を人質にとっているため、ナンダ国の兵は大きな抵抗を見せることなく首都タリーを明け渡した。
そして、首都タリーの占拠が完了すると、バドラシーラ王以下王族は全て処刑された。
「バドラシーラ王は、卑劣にも勇者のパーティの闇討ちを企てたので誅殺した。ナンダ国は今後、魔王オルロフスの支配下となる。」
そういった旨の布告が国中に張り出された。
「勇者を殺そうとして、魔王の支配下に?」と民衆の頭は?マークだったが、バドラシーラ王が処刑されたという話は広まり、魔王の支配というものに恐怖した。
その頃、さらに南方のリザードマンの国の国王リザードン王が、魔王様の招集に応じ、兵を率いやってきた。
3千人の部隊は文字通り”飛んで”来たのだ。
リザードマンは竜王国にもいた竜族の傍系で、ドラゴンの血を引いている。
背中に羽を持っているため、飛んで移動できるのだ。
そして、俺の前に来るや跪いた。
「勇者殿。この度は、出陣が遅くなり誠に申し訳ありません。竜王様にもよく言われておりましたのに。」
竜族というのは、竜王を頂点に世界中で繋がっているようで、”竜族世界”というネットワークがあるそうだ。
「勇者が聖地イヴァシュカへ旅しているので、困ってたら助けてやって。」とフジー竜王が世界の竜族に向けて言ってくれていたのだ。
リザードマン達も、まさか辺境の亜大陸で勇者がピンチになっているとは思わなかっただろうが、責任を感じているようだった。
それで国王自ら、一番乗りで飛んで来たということだ。
「勇者様の配下に加えていただきましたからには、ぜひ武功を立てたく存じます。マガト国侵攻では、ぜひ先鋒をお命じください。」
リザードン王はやる気十分といった感じだ。
率いてきた兵達も精鋭なのだろう。
「その心意気ぞ良し! では勇者よ、この者達を率いてマガト国境へと進軍せよ。我輩は、本軍が整い次第後を追う。我輩を待たず、攻め滅ぼしてしまってもよいがの。」
魔王様の命令のもと、俺はリザードマンの軍とともにマガト国境へと進軍した。
今回の遠征は、ガラド達のかたき討ちでもある。
攻め滅ぼすまで行くかは分からないが、相応の報いは受けてもらおう。
マガト国とナンダ国の国境は、ガイール川という大きな川が流れている。
川幅は数百メートルくらいだろうか。
俺たちがガイール川に到着すると、対岸にはすでにマガト国の大軍が布陣していた。
斥候によると兵数は3万以上。
森の中にいる部隊の数が分からないが、見える範囲でもそれくらいいるということだ。
対する俺たちは3千、十倍以上の差がある。
しかし、俺たちにもアドバンテージはある。
リザードマンの兵は、まず人間よりも力が強いし、飛ぶことができるので機動力は抜群だ。
斥候だって空から眺められるので、早くて正確だった。
川を挟んで対峙する両軍。
俺たちが来る時に通った橋は落とされている。
そこに、向こう岸のマガト軍から船を漕いでやってくる者があった。
「マガト国の使者のようです。」
リザードマンの兵が川岸から走って伝えに来た。
一戦交える前に、もう和睦の使者を送ってきたのか?
こちらも引く気はないが、話くらいは聞いてみるか。
「通してくれ。」
俺が隣にいたリザードン王に頷くと、竜族の言葉で兵に命じた。
リザードマンの兵は再び川岸に走って行くと、剣を抜いて使者の首を刎ねた。
え!?
俺、通してって言ったよな・・・。
「使者の首を敵方に送り返しましょう。これが我々の返事だと知らしめてやるのです!」
リザードン王は鼻息荒く言った。
返事も何も相手の要件も聞いてないのに・・・。
使者の遺体を対岸に送り返すと、マガト軍の陣営はざわついた。
話も聞かず使者の首を刎ねるなんて、とんだ蛮族だ。
これが亜大陸の流儀なのだろうか。
~次の日~
マガト軍は、再び使者を送ってきた。
今度はいきなり殺してしまわないように、丁寧に命令することにした。
「あそこにいる使者の話を聞きたいので、殺さずに連れてきてください。」
「分かりました」と言ってリザードン王は頷くと、また竜族の言葉で命じた。
すると、リザードマンの兵は川岸へと走って行き、剣を抜いて使者の首を刎ねた。
昨日と同じだ!?
こいつら話が通じていないのか。
じろりとリザードン王の方を睨む。
「殺さないでって言いましたよね。」
リザードン王は頬に汗をたらしながら目を逸らす。
「そう言われましても。ここでマガト軍が降伏してしまっては、我々が武功をたてられないではありませんか。それでは私も竜王様にあわせる顔がなく・・・。」
なるほど、名誉挽回の機会がなくなるのを心配していたという訳だ。
そうそう降伏してくることはないと思うが。
「とにかく使者は殺さないこと。次があればだけど。」
はたして、午後になると再び使者がやってきた。
可哀想に、見るからに怯えていた。
先輩たち二人の末路を見ていれば当たり前だろう。
リザードマンに手を出されないよう、俺が川岸へと迎えに言った。
マガト軍の使者は和平交渉の条件を携えていた。
その条件とは、
1、魔王軍とマガト軍の停戦。
2、マガト国から勇者への謝罪と賠償。
3、両軍の国境からの撤退。
「なめていますな。首を刎ねましょう!」
リザードン王は鼻息荒く剣に手をかける。
使者の男はひいっと声をあげて後ずさった。
リザードマンは血の気が多すぎるが、たしかにのめる内容ではなかった。
これは仲間達の弔い合戦でもあるのだ。
死んではいないが。
「この和平案はのめませんね。魔王様はマガト国を攻め滅ぼせとのご命令です。降伏するのならば、武器を捨てこちらの岸へ渡ってください。ちなみに我らは先鋒にすぎません。いずれ魔王様が大軍を率いてやって来られるでしょう。」
そう言って使者を返した。
無事に帰れることにほっとしつつ、国の未来に絶望感を抱いているようななんともいえない顔をしていた。
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