第3話 竜王の宴
ロンド・エルロンの館を出た俺たちは渓谷沿いに東に向かった。
黒猫魔王オルロフス様はスラみっちの上で座っているか、ほとんど寝て移動している。
モンスターと戦闘になれば、前衛をドワーフのドゥリンが、その後ろを弓と回復魔法と剣も使えるガラド、後衛を魔法使いのガン・ド・ウルフとサポートのスラみっち。
俺は、できることがないので黒猫を抱えて待機だ!
ガラドは見た目は可愛いエルフの少女だが、中身は戦士で剣術もかなりの腕だった。
それに比べて俺は・・・。
「お前は勇者のくせに役に立たんの!」
と猫に言われてしまった。
1週間程で竜王国との国境にたどり着いた。
話を通してくれていたのだろう、検問もすんなりと通してくれた。
そこから竜王国の首都ヌマータまではさらに10日程だ。
竜王国は竜族の住む国で、ロムルス共和国とは同盟関係にある。
竜王国の兵士は数は少ないが精強で、特にフジー竜王直下の竜騎士団はドラゴンに乗って空を飛び回り、一騎当千と言われている。
300年前の魔王との戦争でも、首都ヌマータは魔王軍に10万の兵で包囲されたが、これをわずか3千の兵で撃退した。
フジー竜王は当代一の戦術家だと評判されていた。
首都ヌマータは河岸段丘の街だ。
川と段丘と城壁に囲まれた町はまさに難攻不落。
そんな街の門をくぐり、川沿いから城のある段丘の上へと登っていく。
城に着くと竜王への謁見を求めた。
謁見の間に通されると、竜王は一段高くなった上段の間にあぐらをかいて座っていた。
座布団をしいてひじ掛けにもたれ、だるげに座っている中年の男は、黒髪、和装で手には扇子を持っている。
扇子には漢字で「竜王」と書いてあった。
日本人・・・?
「よく来たな。お前たちのことは聞いている。言うものは揃えさせるからなんでもそいつらに言うといい。」
フジー竜王はパタパタと仰いでいた扇子をパタンと閉じると前に並ぶ部下たちを指した。竜騎士団の人たちだろう。
「俺に任せてくれ、タケシ。」
そのうちの一人が前に出た。
「タケシって呼ぶなって言ってんだろ。」とフジー竜王はむすっとして言う。
竜騎士団の面々は皆フジー竜王のことをタケシ、タケシと呼んでいた。
やはり日本人?
俺は思い切って聞いてみた。「もしかして竜王陛下は日本をご存じですか?」と。
フジー竜王は驚いて俺の顔を見た。
「お前! いや、日本人か? まじで? は~久しぶりだ。今日は一席もうけよう。」
そう言って宴となった。
彼は俺を隣に座らせてこれまでの話を聞きたがり、また自分の話も語ってくれた。
フジー竜王がこの世界に転生したのは300年前。
魔王オルロフスの侵攻で滅びかけていた竜王国に現れた。
混乱のさ中にある竜族達をまとめ上げ、独自の防衛陣”フジー・システム”を構築して魔王軍の猛攻を防ぎきった。
その功績に竜族の王は、一人娘と竜王の位を与えたのだった。
「ところで、将棋はできるか?」
フジー竜王は嬉しそうに聞いてきた。
ルールや駒の動かし方くらいは知っていたがその程度だ。そう言うと、それでも嬉しそうにして、
「よし、じゃあ1局やろう。」
と将棋盤を出してきた。
「ここの竜族の連中は脳筋ばっかりで、いろいろ教えようとしたんだけどからっきしでな。」
竜騎士たちはガバガバと酒を空けながら、「お、タケシ、ショーギか。」とか「タケシはつえーぞ旅人よ。」と騒いでいた。
持ってこられた将棋盤を見てあれっと思った。
俺の知っているものより盤が大きく、13×13マスあって、駒の種類も2種類多い。
どうやらビミョーに違う世界の日本から転生していたのかもしれない。
その後、知らない駒の動きを教えて貰ってから俺たちは数局打った。
「飛車・角・香・桂」落ちでやってもらったが全部負けた。
途中、黒猫魔王様やスラみっちが、ああしろこうしろと横槍をいれるので従ってみたがすべて読まれていた。
最後に「歩」と「王」の駒以外全部落ちでやってもらって一勝した。
王様はほぼ丸裸だ。
俺の力では遊びにもならなかったろうと思ったが、フジー竜王は満足そうに笑っていた。
「今日は久しぶりに将棋をさせて楽しかったよ。ありがとう。」
ガラドやドゥリンは竜王に勝つなんて凄い、とはしゃいでいたが、中身はプロと幼稚園児の試合だ。
そう言ってみても彼らにとっては、超一流の戦術家の竜王とやりあえているだけで凄い、ということなのだそうだ。
そうして宴はお開きとなった。
竜騎士団の手伝いもあって、竜王国での旅の準備は順調に終わった。
一週間程滞在して、俺たちは次の目的地へと旅立つことになった。
次の目的地は”冷泉の森”、ガラドの故郷で、女王イスラ・アリエル・アスラの治めるエルフの国だ。
別れの挨拶とお礼に行った時、フジー竜王にある魔法アイテムを貰った。
「これは俺が転生してきたときに、ポケットに入ってたものなんだが。」
そう言って”歩”の駒をさし出した。
「これを君に上げよう、竜王に勝った褒美だ。ただの木の駒に見えるかもしれないけど、魔法アイテムだよ。いつか君の役に立つかもしれない。」
フジー竜王のくれた駒
魔法アイテム”一歩竜王” は、「勝利にあと一駒が必要な時、それを手に入れることができる」能力。
そう説明してくれた。
俺たちはお礼を言って竜王国を後にした。
しかし、この数日後には、竜王国にも勇者パーティの手配書が配られることになる…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます