第2話 旅の仲間

旅は順調に進んだ。


トラブルが起こったのは旅に出て10日程たった時の事。

荒くれ者の集団に囲まれてしまった。

角のついた兜をかぶってるやつがボスだろう。


「なに俺達の縄張りを素通りしてくれてんだコラ!」


しまった、変なのに目をつけられたと思っていると、茂みから一匹のモンスターが飛び出してきた。


青いプルプルのボディ、スライムだ。


スライムはひらりひらりと舞うように動き、俺と盗賊達との間に割って入った。

俺が驚いて身構えると、


「僕は悪いスライムじゃないよ。弱きを叩き、強きも叩く、公平のスライム。その名をスラみっち。勇者様のピンチと見て参上しました!」


そして、続けて何か唱えると、白い球がいくつか飛び出してきて、バチバチっと閃光しながら破裂し、あたりはモクモクと煙に包まれた。

煙幕だ。

盗賊達はひるんでいる。


「さあ、今のうちに逃げましょう。」


盗賊達の間を抜けて逃げ出そうとしたが、むんずっと手をつかまれた。


「逃がさねえぞこの野郎!」


盗賊のボスが剣を振り上げたところに、スラみっちがまた呪文を唱える。

すると、降りおろされた剣と俺との間に、透明のプニプニした層ができて、剣先から守ってくれた。

つかまれた腕にもなにかヌルヌルする液体が現れて、にゅるんと腕が抜けた。


「なんだよこれヌルヌルじゃねえか!」


ボスが喚いている間に、俺たちは逃げ出すことに成功した。




「スライムバリアーとスライムローションです。便利でしょう。ぷるん。」


スラみっちは自慢げにプルプルしている。



「改めまして勇者様、僕は”静かなる森”のスライム一族、スラみっちといいます。ぜひ僕も旅の仲間に加えてください。必ず役に立ちますから。」


この喋るスライムが仲間になってくれるという。

悪い魔物じゃなさそうだし、【青くてプニプニした魔物と心を通わす能力】も案外悪くないのかもしれない。


「助けてくれてありがとう。じゃあ、これからよろしく。」


「こちらこそよろしくお願いします。こう見えても僕、スライム卍会の頭領やらせてもらってます。ぷるん。」




『スライムのスラみっちが仲間になった』




こうしてスラみっちが仲間になり、旅をともにすることになった。

旅路を進みながら、俺はこの旅の目的を話した。


スラみっちの方も、俺が盗賊に襲われた時、偶然通りかかった訳ではなく、ロムルスの街を出た直後から後ろを着いてきていたのだ、と教えてくれた。


スライム一族には昔から伝わる伝承があり、いついつにそこを勇者が通るから、その時はお供して助けるように、と言われていたそうだ。


スライム族はそんなに強い種族ではないが、スラみっちは「素早さ」が高く、サポート系の魔法を数多く習得していた。



一人と一匹の旅は順調に進んだ。

途中、何度か野党や魔物に襲われたりもしたが、スラみっちのおかげでやり過ごすことができた。




街道の町ヴィンドボナでのこと。

俺たちは街に着いて宿をとると、その足で冒険者ギルドへと向かった。

ここから先は街道を外れるので、周辺の地図が欲しかったからだ。


受付で頼むと、銀貨3枚で買うことができた。

俺たちの用事はそれで終わりだったが、隣でうんうん困っている若者がいた。


彼は、ここから北東に行った「山麓の村」から来たという。

最近、近くの山にゴブリンが巣を作って、作物を荒らしたり村人に悪さをするので、冒険者ギルドに討伐依頼に来たらしい。


しかし、経験豊かな冒険者を雇うにはそれなりの金額が必要で、懐事情的に困っていたのだ。


「助けてあげましょう! 勇者様。」


スラみっちが飛び上がる。

簡単に言うけど、俺は剣も魔法も使えないんだから、ゴブリンはおろかスライムだって倒せない。

無理だよ、と答えようとしところ、


「あなたが勇者様! 復活なさったという噂は聞いていましたが。どうか我が村をお救いください。」


村の若者は目をキラキラさせて俺を見ていた。


「大丈夫です。ゴブリンの群れくらい僕たちで一捻りです!」


スラみっちは胸を張って言った。

そして、「山麓の村」は俺たちの目的地の途中だったこともあり、なし崩し的に同行することになった。




「山麓の村」に着くと、村長が出迎えてくれ、状況を説明してくれた。

ゴブリンの群れは北の山岳地帯に洞窟を掘って、根城にしているらしい。

地図であらかたの場所を教えてくれた。


俺たちは、村の若者の先導のもと、2日程の距離を歩いて、ゴブリンの洞窟の前に辿りついた。

途中なんども「やめよう」とスラみっちに言ったが、大丈夫ですよと返すばかりだ。

いざとなったら1番に逃げよう、と腹を括った。


洞窟の入口周辺には、魔物らしき姿はなかった。

ゴブリンは夜行性なので、明るいうちは巣にこもっているのだという。


洞窟の前に立つと、スラみっちは「ちょっと失礼します。」と言って、”スライム召喚”の魔法を唱えた。

そうして現れたのは、大量のスライムだった。

100匹くらいいるだろうか。


「勇者様、こいつらはスライム卍会のメンバーです。スライム一族の武闘派で、勇者様のお役に立つかと思います。ぜひ何か言ってやってください。」


俺はずいと前に出され、スライム達の視線が集まる。


「ああ~、スラみっち君とは友達になりました。みんなもよろしくお願いします。」


そう言って頭をさげると、スライム達の体がパアッと光りはじめた。


「おお、これが勇者様の祝福・・・。」

「力が沸き上がってくるぜ!」

「なんてチートスキルだ。」


スライム達からそんな声が聞こえてきた。

なにか能力強化の効果があるようだ。



『スキル【勇者の祝福】は、勇者の仲間になった者の、”やる気”と”自信”を上昇させる効果があった。消費MP0』



続けてスラみっちが前に出た。


「お前たち! 僕はこの度、スライム一族の預言に従い、勇者様のお供となった。

 皆にも力を貸してほしい!

 これから僕たちは、ゴブリンの群れを襲撃する!

 悲しいかな、村を荒らす悪い魔物だ・・・。


 しかし、それを討伐するのは、僕らの勇者様!

 誇り高きスライム一族の者達よ、この中に勇者様のお役に立ちたくない者はいるか!」


スラみっちが問う。


「「いない!!!!!」」


スライム達が合唱で返し、武器や防具をガンガンと打ち鳴らす。


「ゴブリンどもを前にして、日和ってるやつ、ビビってるやつなんて、

 いねえよなあ!! 


 ならばどうする!?

 お前たちはなにをする!!」


「「ころせ! ころせ! ゴブリンを皆殺しだ!!」」


スライム卍会の軍勢は気勢を上げて、ゴブリンの洞窟に突撃していった。

ヤバい戦闘集団だった。


一時間程でゴブリンの巣窟を攻略し、皆殺しにし、血を滴らせながら村へと帰還した。


村では盛大な宴で祝ってくれ、後に勇者のゴブリン討伐は吟遊詩人が謡う歌になった。

俺はなにもしていないが。



「あいつら、今回ヤバい感じで気合い入っていて、びっくりしちゃいました。これも勇者様の能力ですか?」


スラみっちも少し引いていたようだ。

強化というか、凶暴化していたような気がする。



村には数日滞在した後、村人達の勇者万歳の合唱の中、俺たちは山麓の村を発った。





その後は何事もなく10日程でロンド・エルロンの館に到着した。


門の前には二人のエルフが立っていた。

来訪の目的を告げると広間に案内され、ロンド・エルロンに挨拶した。


「ようこそ参られた。パーティへの参加に感謝する。メンバーは明日紹介するので、今日は荷物を解いてゆっくり休まれよ。それと、道中のご活躍は伝わっていますよ。」


ゴブリンとの一件を聞いたのだろう。

客室に入ると、そこには先客がいた。

ソファに寝転がりテーブルの上の葡萄をつまんでいたエルフの少女。


「あら、早かったわね。あなたが来るまでに全部食べちゃおうと思ってたのに。」

エルフの少女はいたずらっぽく笑った。


「わたしは、ガラド・アリエル・アスラ。”冷泉の森”の女王イスラ・アリエル・アスラの娘。あなたのことはお母様から聞いているわ。あなたって本当に勇者なの?」


俺は首を振って、これまでのことと、旅の目的を説明した。


「そうなのね。勇者を自称するような男は信用するなってお母様に言われていたの。私もパーティに入るから、これからよろしくね。ところで何で魔物と一緒にいるの?飼ってるの?」


スラみっちは人間の姿に変身していたのだが、ばれてしまっていた。


「初めまして。ガラド・アリエル・アスラ様。私、勇者様の旅のお供をしております。それと女王陛下イスラ・アリエル・アスラ様には一族ともども大変よくしていただいております。」


スラみっちは恭しく膝をついて挨拶するとポンっと変身を解いてスライムの姿に戻った。


「喋って、変身するスライム! 面白いわね! お母様の知り合いなら、いいわ。」


そう言ってスライムをぺたぺた触った。

プニプニだー。冷たーい。と、ひとしきりスライムの感触を楽しんだ後、また明日ねーと言って彼女は去っていった。



~次の日~


俺たちは広間に集められた。

エルロンが昨日と同じ所に座っている。


隣には、エルフの少女ガラド、そしてドワーフの男、長い髭の魔法使い。

そこに俺も加わるとエルロンは口を開いた。


「まずは、求めに応じてよくぞ来てくれた。君たちにはある目的のため、パーティを組んで旅をしてもらいたい。その目的とは、この猫。」


そう言って一匹の猫をみんなに見せた。

赤い目を細めて手を舐めている黒猫。


「なに見てんのニャ。」


猫が、喋った!


「この猫には300年前の戦争で暴れまわった、魔王オルロフスの魔力が封印されている。


 勇者によって倒され、しかしその力を完全に削ぐことはできなかったので、この猫に封印されたのだ。


 そして今、この封印を解かんと企む者どもがいる。

 それを防ぐため、東の聖地イヴァシュカへと連れていき、この猫ごと完全に封印してしまうのだ。それが君たちの使命だ。」


なるほど。

これが夢の老人が言っていた、おれの役目なのかもしれない。


そしてそれぞれ自己紹介していった。

ドワーフのドゥリン・ドワルゴン。

魔法使いのガン・ド・ウルフ。

エルフのガラド・アリエル・アスラ。

最後に俺とスラみっちが自己紹介を終えると、黒猫魔王様が口を開いた。


「我輩こそが闇の中の闇、深淵の闇の王 魔王オルロフス。皆の者、跪いて命乞いをするがよい。」


ガラドがかわいーと言ってなでると、ゴロゴロと喉を鳴らした。

スラみっちは「魔王様、お久しうございます。」と跪いている。


ともあれ俺たちはパーティを結成した。

パーティ名は「勇者のパーティ」となった。



東の聖地イヴァシュカというところは、中央大陸の東の端にあるらしい。

行きだけでも1年以上の旅路となるようだ。

出発は5日後と決められ、それまでは自由行動となった。


俺は首都ロムルスのユリアに手紙を書いた。

旅の目的地が東の聖地イヴァシュカだったこと。旅の仲間のこと。渓谷の美しさなど。


首都ロムルスを発つ時に、シディウス議長は魔法のインク瓶を俺に持たせてくれていた。

”魔法のインク瓶”はどれだけ使ってもインクがなくならない。

たまには手紙を書けというメッセージだろう。

町に着くたび、俺は手紙を書いた。



そして、俺たちは東に向けて旅立った。

次の目的地は竜王の統治する竜王国。


そこで俺は、フジー竜王と将棋対決をすることになる。


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