第23話 ふぐ


 ギルドにつくと、初めてギルドに来た時のように、一箇所を除いて全てのカウンターが賑わい、混み合っていた。

 空いている奥のカウンターへ向かうと、膨れ面をして頬杖をついている、なんとも態度の悪い受付嬢が座っていた。


「はいはい、こちらは総合ギルド窓口ですー。何かごよーですかぁ」


 いつものぶりっ子はどこへやら、語気が強い。そういえば、無視して家を出てきたことを思い出す。まさかここまで根に持つとは……。


「そんなに怒る事かよ。まぁ、悪かったって……」


「べっつにー、ぜーんぜん怒ってないですけどぉー?」


 漫画か何かなら、という効果音が出ていそうなくらいに更に頬を膨らます。――いや、怒ってるだろ。


「ちゃんと謝るから、な。ほら、受付頼むって……。それに、早く戻らないと仕事が受けれないんだよ……」


「何が悪かったか言ってみてくだいよー。本当に謝る気があるんですかぁ?」


 そう言ってカウンターを乗り出し、指先で俺の鼻先をつついてくる。ついでに言えば何故かドヤ顔をしている。


 ……あれ、おかしいな。

 多少なりとも悪い気はしてたはずなんだが、だんだんムカついてきたぞ?


「その、朝無視して出ていったこと、だろ?」

「他にはー?」


 腕を組み満足そうに頷くルリア。

 ――うん、気の所為ではないな。腹が立ってきた。


「ルリアの提案を断ったコトとかか?」

「もう一声ほしーなー」


 こいつ調子のってるな。そう思い、やり口を変えてみる事にする。


「……どうやら許してもらえないようだな。仕方がない、他のカウンターに……」


 そういって踵を返すと、腕をがっしりと掴まれる。


「いやーまぁ、最後にごめんなさいルリアちゃん様って言ったら、許してあげてもいいかなー」


「いや、他のカウンターに行くから」


「ごめんなさいだけでも」


「いやだからもう他の」


「許す、許すからここで受けよっ、ね?」


「他のカウンターに」


「調子乗りましたやりすぎましたぁごめんなさい!」


 ちょっと涙目になりかけていたので、そろそろ許してやることにする。

 俺は、ルリアが受け持つ窓口の椅子に座った。


「それでー、何の用なのー? また仕事の請負いー?」


「そうだな。正確には継続契約申請ってやつだけど」


「へー、仕事先もう決まったんだー。よかったねー、今日はお祝いだ」


「ありがとな。んで、申請したいんだけど、任せていいか?」


「もちもち、ちょっとまっててね―。えーっと……職場は、っと……」


 んーとどうやるんだっけ、とかあれ何処いったっけなどつぶやきながら作業をするルリアを見て、かなり心配になるが、なんとか無事に申請は完了した。


「はーい、これでオッケーだよぉ。ここに署名してもらってー、あとは控えをオーナーさんに渡してあげてねー」


「ん、これでいいか?」


 俺は自分の名前を署名欄に書き記す。自分の知らない言語をサラサラと書けてしまうのにはまだ慣れないが、いずれ気にならなくなるだろうか。


「オッケー、これで継続契約申請は完了だよぉ。またわかんないこととかあったらいつでも聞いてねぇ。分かることは答えてあげるからぁ」


「……そうさせてもらうよ」


 何故コイツが受付の仕事につけているのか、未だに不思議でならないが、未だ衣食住をかなり頼っている身分だ。今は胸にしまっておこう。


「それじゃあ早速仕事に行ってくるよ」


「お土産にー、そこのご飯買ってきてほしいな―」


「何でせびってんだよ。お祝いしてくれるんじゃなかったのかよ」


「それはそれー、これはこれだよぉ」


「はいはいわかりました。ま、実際まともに礼も出来てないしな。それくらい買ってくるよ」


「あれ、もしかしてレイちゃん……デレ期がついに来たんじゃ……」


「おい、買ってこね―ぞ」


「いってらっしゃーい、気をつけてねー」


「まったく……」


 そう言いながら背を向けるが、でも、この世界に来て出来た数少ない友人との他愛ない会話に、つい口元が緩んでいた。



 そうして、仕事場に向かうと既にお客さんが多くなってきていた。急いで仕事着に着替えてフロアに入る。

 昨日よりはかなりうまく雑務をこなすことができて、今日は空いた時間に簡単な料理の仕方も教わる事が出来た。我ながらなかなかの成長具合だと褒めてやりたい。


 休憩中には、キリーカとも少しお話が出来た。

 実はこの食堂で出ている作り置きのデザートは、キリーカお手製のモノらしく、試食をさせてもらった。

 こんな小さな子が作ったとは思えない程美味しく、興奮気味に感想を伝えると恥ずかしそうに喜んでくれた。


 そうして1日の仕事が終わる頃には、相変わらずヘトヘトになりながらも、忘れる事なくエリスさん特製の焼き飯と、キリーカに作ってもらったデザートを二人分包んでもらい、友人の待つ家へとゆっくり帰るのだった。




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