第24話 らしさ


「それじゃあ、レイちゃんの就職を祝ってぇ……」

「「乾杯!」」


 カランという景気の良い音がリビングに響く。

 そして二人揃って一気にグラスの中身を飲み干した。


「ぷはーっ、やっぱり祝い事のお酒はいいねぇ」


「お酒はいつ飲んでもうまいが、まぁ否定はしないでおく」


「素直じゃないなぁ、このこのー」


 ひじでぐりぐりと脇腹を押される。


「おいやめろ」


 そういうと、肩がくっつくぐらいの距離に近づいてくる。


「いいじゃんいいじゃーん、別に減るもんじゃないしぃ」


「何か減る気がする」


「何かって何ぃ? にへへ」


 いつもは拗ねるとこだが、お酒が入っているからかごきげんな様子だ。


 なんだかんだでふざけ合いつつも、和やかな雰囲気で、俺が買ってきた焼き飯と、ルリアが作ってくれたつまみ料理を食べながら、どんどんとお酒が進んでいく。それでもお酒は減る様子がない。どんだけ買ってきたんだか……。


 それにしても、ルリアは料理が上手である。このきんびらごぼうのような小鉢料理も味付けが見事だし、枝豆のようなものも塩加減が抜群だ。


 ちなみに、枝豆のようなものはエダンというらしい。名前があまりに似通っていて、思わず笑ってしまいルリアに首をかしげられてしまった。


 今までのお礼代わりにと、追加で買ってきたキリーカ特製のデザートを出すと、ルリアが見たことがないほど笑顔がこぼれ、頬に手を当てながら味わっている。なんとも幸せそうだ。買ってきてよかった。


「んー、おいひぃ。しあわへ……」


「そりゃ何よりでございますよ」


 あまりに喜ぶので、こちらまで頬が緩んでしまう。朝、ムスッたれていたのが嘘のようだ。






 しばらく呑み進めていると、ルリアの呂律が回らなくなってきた。ただでさえ日頃からとしているのに、もはやである。


「……んでねぇー、ってー、きいてぇーるのぉぉ?」


 左腕に絡みついてきて、先程からだる絡みされている。その癖飲むのを辞めないのでたちが悪い。


「聞いてる聞いてる。てか寄りかかんな」


「にぇへへ、ならよぉし」


「聞いてないなこいつ」


「えーとねぇ、んとぉ、なんだっけねぇ、あははは」


「あー、頭から水ぶっかけてぇわ」


 俺はちびちびと飲んでいたので、比較的酔いは浅い。というより、横でこんなにベロンベロンになられると、酔うに酔えない。


「みずあびぃ? いずあびすりゅー? あはははは。みじゅみじゅーしゆー」


「おい、そろそろ辞めとけ。明日に響くぞ」


 そう言ってルリアが持っていたグラスを取り上げる。手に力がまともに入っていなかったので、簡単に取る事ができた。


「んゆー、もっと飲むぅ」


「ダメだ。そろそろお開きだ。水持ってきてやっから、ちょっと待ってろ」


 そう言って腕を振りほどき、立ち上がろうとすると、腰元に指をかけられて思わずよろけてしまう。

 その隙に胴回りを腕で回し取られ、そのまま床へ押し倒されてしまう。

 カーペットが敷いてあったため、大きく痛みはしなかったが、まあまあの衝撃が体を襲い、うっとうめき声が無意識に出た。


「やー、このまぁま、ねぅ……」


「おい待て。まだ寝るな。こんなところで寝たら流石に風邪引くぞ」


「んゆんゅ……、れいちゃ……すみぃ」


 その言葉を最後に、俺の腹に頭を預けたまま眠りについてしまった。


「……勘弁してくれ」


 額に手を当てて、ため息を天井に向かって吐く。

 声をかけてもゆすっても、起きる気配はない。


 仕方がないので、仕事で疲れた体を痛めつけながらも、なんとか半身を起こし、ルリアを脇にどけ立ち上がると、ルリアの膝下と肩に手を入れ持ち上げる。

 そのままルリアのベッドまで運んだ。


 掛け布団をかけてやると、なんとも気持ちよさそうに枕に頬擦りをしている。

 こちらの苦労も知らず、呑気なものだ。


 ふと、何で異世界にまで来て、酔っ払いの女装男の世話をしているのだろうと、少し悲しくなる。


 というか、ここ数日、生活基準を満たす事に重点を置きすぎて、異世界らしい事は何もしていないような気がする。


 まぁ、ギルドに通ったのはなんというかが、結局やっているのは『職業案内所通い』とさして変わらないではないか。


 明日以降は、もっと異世界らしいこともしてみよう。

 そう静かに決意しながら、俺は散らかったお祝い会場を一人片付けるのだった。



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