第18話 三日目の朝


「ふぁぁ、ねむぅ……」


 大あくびをしながら、タオルを巻いたルリアが風呂場へと入ってくる。


 反射的に、体を拭いていたタオルを股の間にあてがう。いや、別に同性同士なのだから、焦る必要はないのだが……。


 人の印象というモノは、ほとんどがその見た目から来るとよく言われているが、正にその通りだと感じた。


 というか、何でコイツは胸元からバスタオルを巻いてるんだ。

 いくら可愛い格好というか、女装が好きでも、そこまで徹底するか普通と呆れの感情があがってくる。


「お、おい。今入ってるぞ」


 ルリアをジトりと睨みながら言うと、


「んぁ、レイちゃん、ぉはよ……」


 と、気の抜けた声で返事をしてくる。


「おはよ、じゃなくてだな……」


「あー、ちょうどいいやー。髪すすぐの手伝ってよー、一人でやると面倒なんだよねぇ……」


 何がちょうどいいのかど思っていると、椅子に腰掛けている俺の前に、ルリアがちょこんとで座り込んだ。


 勝手に話を進めるんじゃないと怒ろうとしていたが、ふと綺麗で白く細いが適度に柔らかそうな太ももが、タオルから露出し俺の視界に映り込む……いや待て、俺は何を見ているんだと思い、ルリアの後頭部に目を移す。


「おい、まだやるとはいってないぞ」


「いいじゃんかぁ。じゃーあ、初日の借りとかゆーの、今かえしてー」


 後ろからでも分かるくらいに頬を膨らませて、そんな事をのたまう。


 それを言われると言い返す事ができない。


 深めのため息をついてから、俺は一度立ち上がり、片手であてがっていたタオルをしっかりと腰に巻き直してから、改めてルリアの後ろに座る。


「わかったよ。すすぎゃいいんだろ。どの程度やればいいんだ?」


「んー、適当に手ぐししながら流しててよ。良かったら言うからさー」


「……あいよ」


 適当と言われても正直困るのだが、何となくで、やってみることにする。


 ルリアの長い髪先を指で絡め取り、根本の方から毛先に向かってゆっくりと水をかけ、流していく。


 体に水が極力かからないよう、髪を持ち上げて行うが故に、ふとルリアのうなじが目に入るが、すぐに目をそらす。


 男同士、風呂に入っているだけだというのに、何か、とてもやりづらい。


 それもこれも、全部コイツが悪いのだ。

 そう思い、俺は、冷たい水をわざと背中にかけて仕返しをすると、ちゅべたっと、ルリアの背中がピクリと跳ねる。


「ちょっとー、冷たいんですけどぉ」


「悪い、手が滑ったんだ」


「ほんとかなぁ……。タオルを濡らして、透けて見えるボクの肌を見たくてやったんじゃ……」


「アホか」


 ルリアの後頭部めがけて手刀をぺしっと落とすと、いて、と小さく声を漏らした。






「んー、そろそろいい感じかなぁ。ありがとねー」


 互いに軽口を吐いていると、いつのまにやら満足いく状態にまでなっていたようだ。


 毎日これを一人でやっていると考えるとなかなか大変そうである。


 そんな事を考えながら、なら俺は先に出るぞと、退室の意を示し、立ち上がって外に出ようとすると、待って待ってと、ルリアに呼び止められる。


 振り返ると、先程まで座っていた椅子にルリアが腰掛け、ちょんちょんと、先程までルリアがいた場所を指さしている。

 まだ何かさせるつもりだろうか。


「背中、洗ってあげるよぉ。一人だと洗いづらいでしょ?」


 ルリアが、ニマニマとした笑みを浮かべながら、先程まで座っていた椅子を指さしている。


「……いい」


 俺は踵を返し、そのまま風呂場を後にする。


 えー、なんでー、ケチ―と、風呂場から罵声が飛んでくるが、無視して体を拭いて、服を着た。


 頭から服を被った時に、ツーンとする臭いがした。

 先日汗水流して働いた結果、そろそろ洗濯をしなければならないのだが、あいにく俺の手持ちはこの一着しかない。

 服も買おうと思っていたが、買い忘れていた。


 そろそろこれだけでは流石に不味いと感じ、今日は昨日稼いだお金で、何着かの服を揃える事にした。


「ちょっとー、聞こえてるのー。レイちゃーん」


「おーい、きこえてまーすかー」


 さて、そうと決まれば市場へと向かうとしよう。

 安くて良いものがあると良いのだが。


「レイちゃーん。無視はかなしーよぉー」

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