第4話 倉庫と文字



 アニキ達に教えてもらった倉庫とやらに赴くと、開いたままになっている入り口から中の様子が見える。


 正面にはカウンターらしきものが見え、そこには女性がぽつんと一人立っていた。

 奥の方では小包やら木箱やらを運んでいる人たちが数人見える。


 広さでいうとちょっとした体育館程度の大きさがあり、いかにも『倉庫』といった感じだ。

 俺は受付嬢らしき人物のもとへ、布団を抱きかかえたまま近づく。


「いらっしゃいませ、お荷物の一時保管ですか? それとも長期お預かりでしょうか」


 明るく澄んだ声で、こちらから声をかけるまでもなく用件を問われる。

 やはり言葉はしっかりと分かるようだ。


「ええっと……初めて使うので、いろいろルールとか教えてもらえると助かるのですが」


「かしこまりました。それではまずは簡単にご説明させていただきますので、ご不明な点がございましたら随時お尋ねくださいませ」


 受付嬢がメニューと書かれた羊皮紙ようひしを見せてくれる。

 普通の紙ではないものが出てきて少しワクワクしたが、せっかく説明してもらえるので、そちらに集中し直す。


「まず、当倉庫はギルド本部の運営となっております。その為、ギルドをご利用の方の場合、一時間まででしたらご利用は無料とさせていただいております。本日は、ギルドをご利用の予定でしょうか」


「あ、はい。一応、その予定です。仕事をなにか斡旋してもらえないかと……」


「お仕事の斡旋でしたらギルドのご利用は必須となりますので、問題ないかと。ギルドをご利用の際に当倉庫を利用している旨をお伝え下さいませ。ギルドより、一時間無料チケットをお渡しさせていただきます」


 まるでデパートの駐車場のような仕組みだなと思いながらも、意識をメニューと受付嬢さんの話に戻す。


「一時間以上のご利用の場合は、一時間ごとに三ペリン、二四時間を過ぎますと、一日ごとに五十ペリンずつ使用料が加算されてゆきますので、ご注意くださいませ。また、長期間の別プランもございますので、長期利用時は通常プランではなく、そちらをご検討くださいませ」


 ペリンというのがこの世界の通貨単位なのだろうとぼんやり理解する。

 

「それじゃあ、ひとまず一時預かりをお願いします。ちょっとギルドに寄る間だけ、これを預かっておいてください」


「かしこまりました。それではこちらとこちらにお名前と……預けるモノの名前をそれぞれ二箇所ずつ書き込んでください」


 そう言って預り証と書かれた紙と、倉庫控えと書かれた同じような用紙を1枚ずつ手渡される。


 名前は、素直に書いても良いのだろうか。

 そもそもこの世界の字は書けるのだろうかと、試しに『レ』と書いてみる。


 すると自分ではカタカナで『レ』と書いているつもりなのだが、自動的にこの世界の言葉に変換して書いている。

 文字や言語については、読み書きに不自由しなさそうである。


 ひとまずの問題を解決した後に、次は新しい問題に直面する。

 このまま素直に名前を書けば完全に『和名』なのだが、この世界のネーミングはどのようになっているのか。

 ふと気になって受付嬢さんの胸元を見る。


 決して胸をみる為ではなく、胸元の『バッジ』を見る為である。

 ……本当だぞ。


 そこには、=と刻まれていた。

 マーチェンはともかく、ユナであれば日本人の名前でもおかしくない名前である。


 ならば自分の『レイジ』という名前でも通るのではないだろうか。

 そう考えた俺は、名前の欄へそのまま『レイジ=クライ』と記名した。


 書いてから気づいたのだが、『クライ』という部分も英語の『cry』のようで、なんだか良さげな気がする。

 意味合いとしては悲しくなるが……。


 そして、預けるモノの欄へ『ふとん』と書いたところで、受付嬢のユナさんが怪訝そうな顔をしてこちらを見てくる。


「お荷物は、お布団だけでしょうか……」


 考えてみると普通ギルドに行く人が預けるといえば、もっと旅の荷物だとかそういったものだろう。

 それが『お布団』という生活用品を預けに来るのだから、変に思われても仕方がないのだ。


 とはいえこれしか荷物はないので「そうですね」と苦笑いしつつ返事をした。

 これでは受付嬢さんにまで不審者扱いされてしまいそうだ……。

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