第3話 ギルドを探して


 ひとまず、仕事と寝床を探しにふらふらと街の中を歩く。

 周りから見れば不審者そのものだが、今は気にしている場合ではない。


 異世界の仕事斡旋場あっせんばといえば、ギルドとか組合とかだろう、多分……。


 そんなことを考えながら、ギルドっぽい雰囲気をしている建物を視線を泳がし探す。

 周りから見ればより不審者感が増したに違いない。

 しかし、そうしているうちに気がついたことがある。


 まず、この世界の文字は『読める』ということ。

 文字自体はワケの分からない記号なのだが、何故だか読めてしまう。


 なるほど、所謂いわゆるご都合主義的能力という訳だと勝手に納得する。

 さらに先程のおばちゃんとの会話からしても、言葉の壁は一切なさそうである。

 これはとても助かる。


 ひとまず最低限の能力が備わっていることに、布団に口元を当てて深くため息をつく。

 ぷふぅと、空気がお布団に吸い込まれていった。


 今は、ただでさえ所持品が『お布団のみ』という謎設定のハードモードである。

 この世界に神様がいたとしても、このくらいのチートは見逃してもらいたい。


 そういえば、『マンガ』を読みながらよく心のなかで『なんで異世界にきていきなり言葉通じるんだよ』とかのたまっていたが、そん時の自分を殴ってやりたい。

 そんなものに理由なんて必要ないのだ。


 それに当人にとってみれば、それさえ出来ないのならその時点で詰んでいるのだから、今後異世界モノの作品を読む人たちよ、大目に見てあげてくれ。


「というか、他に能力は無いのだろうか」


 ふとそんな事に思いを馳せるも、今は確かめるすべも無ければそもそもこの世界の事すらも知らない。

 やはり、ギルド的なところを探す他ないという結論に戻ってくることになるのだ。


 どんなゲームでも、チュートリアルが大抵存在するのだ。

 きっとこの世界でも、チュートリアル的要素ないし職業案内所的な何かあるはず……ある、かな?


 そんなことを頭の中でぐるぐると考えていると、とある木目製の看板が目に入る。


 そこには大きな文字で、『総合ギルド』と書かれていた。


「はぁー……、ほらみろ、あったじゃないか」


 とか言いつつも、思わず安堵の息が漏れ出してしまうのはご愛嬌あいきょう


 あるとは思っていた、思ってはいたがやはりどこかしら不安はあった。

 安心して少し肩の力が抜けるが、ギルドの入口に目を向けると再び肩に力が入る。


「……なんか、ガラが悪いのがいるなぁ」


 両開きの木製扉の入口横にいかにも『僕たちぃヤンチャしてまっせー! ヒャッハー!』みたいなのが数人たむろしている。


 ふと深夜帯のコンビニ前を思い出すが比にならない。

 なにせ背中や腰には大層な武器がぶらさがっており、体格もいかにも屈強くっきょうな冒険者といった様子である。

 これで皆モヒカンだったら思わずチビっていたとこだ。


 普通にしていれば絡まれないのだろうが、今の自分は明らかに普通ではない。


 とはいえ、入らない選択肢は無いし布団を捨てるわけにもいかない。

 俺は意を決して布団を抱え直し、ギルドの入口へと歩を進めた。


「そこのニイチャんよぉ、んなもん抱えてココに来て、どうしようってんだぁ??」


 あぁ……。


 俺の物語は、早くも終焉おわりを迎えたようだ。


 あっという間にガタイの良い男たちに取り囲まれる。

 もうおしまいかと縮こまり、布団をギュゥと抱きしめふるえていると、


「ニイちゃんよぉ。新人かぁ? あぁん?」


「知らねぇのかぁ? 大荷物があるならよぉ、一旦そっちの倉庫に預けてきな」


「入ったら正面に嬢ちゃんがいるからよぉ、そこで預り証もちゃんと貰うんだぜぇ? 無くしたら預けたもんが返ってこねぇから気をつけろよなぁ、ヒヒヒ」


 見た目と口調とは裏腹に、拍子抜ひょうしぬけするほど気の良いアニキ達だった。

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