第41話 終末の転換日
ダークエルフの討伐は完了した。
けれど、その勝利は本当に勝利と言っていいのかすら分からない物だった。
ダークエルフの血液を求めての戦いであったにも関わらず、俺たちはその回収に失敗したのだから。
Aランクダンジョン。それもダークエルフの最終形態を見るに、もっと上のランクである可能性が高いこのダンジョンを完全に攻略しきったという実績は確かに手に入れた。
けれど、俺の目的への道は何一つ前に進んでいない様に思えた。
「三人の傷の手当をお願いします」
「分かりました。天空さん」
そう返事をしてくれたのは、いつぞやの遠征の拠点指揮を執っていたBランクギルド『オルトロスの主』のギルドマスターである海妻正吾さんだった。
彼もこの作戦に参加してもらっている。
拠点防衛の指揮を執ってくれていた。
「おう、英雄様のご帰還だぜ野郎ども」
それに加えてもう一人、全体指揮を執っていた男がリオンさんたちを見送った俺の前に現れる。
彼の名は
自分の名前をギルド名にするような
彼は『千剣の盃』のギルドマスターである。
拠点にも一人はAランク探索者が必要であるという観点と、スカイフォートレスの内部事情にも詳しいと言う観点から千剣の盃にも声を掛けていた。
ただ、千宮司さんからダークエルフとの直接戦闘には参加したくないと要望が出たので彼は拠点防衛と指揮に回していたのだ。
傍から見れば危険度の高い任務から逃げたと思われるかもしれないが、ダークエルフの戦力分析を的確に行った結果なのだろう。
その眼は俺のスキルよりも先の何かが見えている。そう思わせるほどに頭もキレる人物だ。
後方で激しく鳴り響く爆撃音を聞きながら、俺は彼の言葉に応える。
「英雄なんてやめて下さい。俺は足手纏いだった」
「けど勝っただろ。お前が居なくて勝てたか?」
「それは……」
この作戦をそもそも立案したのが俺だ。
俺が居なければ、この作戦が実行される事すら無かっただろう。
Aランク探索者を三人も巻き込んでの作戦である。普通のギルドじゃお互いがお互いを警戒しすぎているからどうしようもない。
『アナライズアーツ』というAランクでも何でもないギルドが間に入っているから今回の作戦は機能した所がある。
「おっと……最後の灯って奴か?」
千宮司がそう言った瞬間、俺もその言葉の意味を理解する。
先視が捕えたのは、この拠点に向かって急速に接近してくる巨大な魔法球だった。
方向からしてダークエルフが死の間際に放ったものだろう。透視と鷹眼でダークエルフを見ているが、もう虫の息って感じだし。
そして、驚くべきことはもう一つ。
神気の付与されているその魔法は、未来で切り裂かれていた。
「俺にも一つ位いいとこ寄こせよ」
そう言って、千宮司は前へ出た。
剣を手に持ち、その柄を神速で引き抜く。
その様は、居合切りの如く。
「ッシィィイッッ!」
深く吐き出した息と共に、魔法球が切り裂かれた。
「なんだそれ……」
神気を纏っているんだぞ。
魔法だぞ。それを切裂くとか……
いや違う。
俺の目には彼の刀に付与されたその力が写っている。
「神気を操れるのか……!?」
「シンキ? あぁ、これってそんな名前だったんだな」
リオンさん以外に神気を扱える探索者を俺は一人たりとも見た事が無い。
しかしリオンさんと違って、千宮司のスキル欄には神気に関するようなスキルは無い。
一体どうやって神気を操っているのか見当もつかない。
「ふぅ…… ま、これであいつも終わりだろ。英雄様も休息した方が良いんじゃないのか?」
「え、あぁはい。少し休ませて貰います。ダンジョンの最奥の探索は……」
「あぁ、任せとけ」
「一応言っときますけど、ちょろまかしたりしたら……」
「わあってるよ信用ねぇな。てか、こんだけ色んなギルドの人間が居るのに目を盗むなんて無理だぜ」
確かにな。
よろしくお願いします、と言い残して俺は拠点の中にあるベットに横になる。
収納はもう大き目のドーム会場位の物量を収納できる。それを出すだけで重さでモンスターを倒せる位だ。
まぁ、遠隔で収納した物を出現できないから戦ってる最中に使ったら俺も潰れる可能性が高いが。
そこに入れた家具や拠点用の道具は、どれも一級品だ。
資金は、これだけのAランク探索者が参加してくれると宣伝すれば出資元には困らなかった。
そんな高級ベットで睡魔に身を任せようと目を閉じたその時だった。
「伝令! 伝令!」
ダークエルフの完全討伐から30分程。
脚の速い探索者が、外部からこの拠点に訪れた時の掛け声が大声で聞こえて来た。
「太平洋の真ん中に、超大型ダンジョンが発生しました! 更にそのダンジョンが既にスタンピードを起こしている模様です!」
俺が感じていた疲れや眠気は、その報告を聞いて吹き飛んでいった。
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