第39話 ダークエルフvs人類6

「ッラァ!」


 殴り掛かったのは炎を纏った龍の拳。

 されど、その拳は剣の腹で受け止められ、いとも容易く返される。

 崩れた体勢でその斬撃を回避するのは不可能。


「神の力に龍の力如きで勝てると?」


 斬撃がセブンさんの胸から斜めに入った。


「私は、お前を許さない!」


「そうか。殺意があれば、相手を殺せるか? そんな物は戦場に立つ誰もが持つ物であるのだと理解しろ」


 黒峰さんの裂傷を引き起こす血刀が、その剣で受けられた瞬間腹から折れた。

 そのまま剣が、黒峰さんの体内へ入っていく。


「させない!」


 そこへ割り込む様にリオンさんが入る。

 けれど、黒峰さんの傷は浅くはない。

 そのまま重力に身を任せ、黒峰さんが倒れた。


「貴様だけだ。ここで戦力と言える存在は」


 鍔迫り合っている剣圧はダークエルフのそれが勝っている。

 逆にリオンさんは今にも吹き飛ばされそうなほど、ギリギリ耐えているといった所だ。


 けれど、この場所で最もダークエルフと対等の位置にいるのは間違いなくリオンさんだ。

 それ以外の俺たちは戦力にすらなっていないと分かる。

 それほど隔絶された力の差が、人類最強おれたちと熾天使ダークエルフの間には存在している。



 この戦いはこのまま進めば間違いなく負ける。

 リオンさんが如何に善戦したとしてもダークエルフを討ち取るまで事を運べる可能性は限りなく0である。


 拠点に待機させている兵霊に合図を送れば、セカンドプランが始まる。

 最初からダークエルフに勝てないという可能性は考えていた。

 だから、その時のためにサブプランも考えていたし、その準備は行っていた。


 しかし、できるならこの方法は使いたくなかった。

 この方法には致命的な欠陥が存在するからだ。


「どうした? 完全な力を使えるこの我に、貴様程度の斬撃では勝利は無い。残っているのは鑑定使いだけ。その鑑定能力も我には通用しない。もう貴様等の負けだ、無駄な行為は感心しない」


「貴方は絶対に私が倒す!」


 三人にもセカンドプランについては教えている。

 その弱点も。


 だからなのだろう。

 リオンさんは自分が倒すとそう言った。


 セカンドプランの致命的な弱点。

 恐らくこの作戦を実行したならダークエルフを完膚なきまでに粉々にする事が可能だ。

 それこそ『血の一滴すら残らない』程に。


 だから、それじゃあ本末転倒だから俺はゼニクルスに黒峰さんにセブンさんがやられている今の状況に陥って尚、悩んでいた。

 俺は楓を助けるためにここに来た。しかしサブプランはその全てを無駄にする。

 希望を費やす行為だ。



 ――けれど、俺は選ばなくてはならない。



 楓とここに居る全員のどちらを取るか。


 もしかしたら俺だけなら逃走できるかもしれない。


 リオンさんが抑えている今なら、俺だけでも逃げて、そうしてまた挑戦できる可能性もある筈だ。


 ダークエルフの血が無ければエリクサーは手に入らない。だったら、ここで俺はダークエルフを倒さない選択をするべきだ。


 逃げるべきなんだ。


 けれど、だけど、それは、そんな事は……



 リオンさんは言った。貴方は私が倒す、と。

 それは、セカンドプランの発動を望まないという事だ。

 きっと、彼女は俺のためを思ってそう言っている。


 クソが……


 見捨てられる訳ないだろ。


 俺を慕って信じて信用して信頼して、そんな相手を見限れるわけないだろ。


 俺は兵霊に合図を送った。


 その瞬間、俺の後方から赤色の煙弾が上がる。

 それを期に、俺たちを取り囲む様に煙弾が撃ち上がった。


「お前は魔法のエキスパートだったから、だから魔法は通用しないかもと思っていた」


「何だ貴様……何を言っている。あの煙は一体なんのつもりだ?」


「お前は魔力感知に長けていたから、魔力を隠蔽して策を練る方法を考えた」


「なんだと……?」


「お前は逃げ足も速そうだったから、土系統の結界を構築する事にした。あの煙弾は、待機させていた結界を構築する術士への開始合図だ」


 そしてその10秒後、結界の完全構築が開始される。


「リオンさん!」


「ごめんなさい秀君。私が弱いばかりに……」


「いいや、リオンさんは頑張ってくれたよ。俺の詰めが甘かったんだ」


「神獣召喚、蛇神オロチ」


 武器と身体へ宿していた神気を解除し、リオンさんの最初のスキルである神獣召喚を発動させる。

 あの時、ダークエルフから逃げた時と同じ、時間稼ぎ要員だ。


「来い、兵霊たち」


 俺も出せる限りの兵霊を召喚し、オロチの援護へ回す。

 殆ど戦闘能力は無い存在だが、肉壁くらいにはなるだろう。


 その間に、俺たちはセブンさんと黒峰さんを回収する。

 ポーションを掛けながらオブって、結界の端まで移動する。


「貴様等はどうやって出るつもりだ!? ここで我と心中でもするつもりか?」


「誰がするかよ」


 魔眼を発動させ、結界の一部へ穴を空ける。

 後は外へ出て、魔眼に収納した魔法を元に戻す事で結界に穴を空けずに外に出る事ができる。


 魔眼は魔力を収納するスキルじゃなく、魔法を収納するスキルだ。

 そして、神気は魔法を無効化する力ではなく、魔力に干渉されない力だ。


 つまり、俺の魔眼は魔力で岩石を操って作られたこの結界に干渉できるが、お前の神気はこの物理的な土の結界は無いのと同じ。


 力技でぶっ壊す事は出来るかもしれないが、その前に決着が付く筈だ。


 拠点にいる兵霊に脱出完了の合図を送る。


 そうする事で、今度は青色の煙弾が上がって行く。

 これが『攻撃』の合図。


 魔法は使わない。

 使うのは、現代兵器だ。


 戦車や大砲、爆薬、その進化系である小型ミサイル。打ち上げは魔法で代用できるって事は既に実験を終えている。

 その他、現代の攻城戦用というに相応しき大規模破壊兵器の数々。それを、俺は収納によって用意していた。

 これらは魔力を持っていないから、兵器と人員に草木をかぶせてカモフラージュする事は容易い事だった。


 セカンドプランの作戦内容は単純な物だ。

 魔法で作り出した物理的な結界にダークエルフを閉じ込め、その結界ごと破壊兵器を全方位からぶっ放す。


 戦闘中に、少しずつ魔力遮断の魔道具を纏った仲間達が近づいている事に気が付かれなくて良かったよ。


「ごめん楓、もう少しだけ目覚めさせるのは先になりそうだよ」


 本来、ダンジョン内で現代兵器は使えない。

 何故なら、ダンジョンという過酷な自然環境内で、現代兵器を深層階層へ持っていくと言うのは現実的では無いからだ。

 パーツをバラして中へ持って行って組み立てるという作戦が過去に有ったが、それも失敗している。


 現代兵器はどうしても味方を巻き込んでしまうからだ。

 しかし、例えば敵が一体でそしてその一体を結界に閉じ込める事ができるのなら、現代兵器の火力はどんな魔法やスキルにも劣らない、寧ろ魔法やスキルなど比べ物にならない火力を発揮する。


 これが俺の用意した最終手段だ。


 攻撃が降るより先に外へ出るかもしれない懸念は、蛇神オロチという時間稼ぎ要員が許さない。

 神気を纏った者同士の攻防は恐らくスキルや魔法での戦闘ではなく、単純な物理攻撃の殴り合いになる。

 その戦闘方法で早期決着は絶対に不可能。更にオロチはダークエルフを外に出さない事に全力を注ぐ。


 だから、これで終わりなんだよ。

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