第38話 ダークエルフvs人類5
彼らが何言か言葉を交わし、そして高まった魔力が一気に爆裂した。
高まった魔力は片方ではなく両方のそれだ。
そして、そのタイミングで攻撃を仕掛けたゼニクルスが一瞬で消し飛ばされた。
「何をしたの……?」
黒峰さんがそう呟く。
他の皆も今起こった事に驚愕している。
しかし、一番驚きたいのは俺だ。ダークエルフに融合なんてスキルは無かった。
それに、今のあいつのスキルだ。
スキル名は分かっても、スキル効果を鑑定できない。
「そんなに驚く必要など無い。神に魔法は効かないと、貴様が言ったのだろう。であれば、我が力に魔眼の力が通用しない事も自明の理」
神気、それは蛇神オロチが持っていた特殊な力だ。
確かにあいつやリオンさんの【神獣召喚】に鑑定を使った時は魔法が効かないという事は分かったが、蛇神オロチの持つ特殊能力は鑑定できなかった。
つまり、神気を持つ存在に俺の鑑定は無力という事か。
「理解したか、格の差を。そして理解させてやろう、力の差という物を」
二人いたダークエルフが一つになり、【熾天使ダークエルフ】と名称を変えたそいつは、手を上へ掲げた。
「神器召喚」
そう呟いた瞬間、光がその場を包み、それが引くとダークエルフの手には一振りの剣が握られていた。
「何をしている、早く構えろ。少しは抵抗したいだろう?」
その声が聞こえたのと、俺の前にセブンさんが移動したのは同時だった。
俺の【先視】は俺の感覚での視界しか見えない。
つまり、圧倒的な速度での移動、そして同じ位置にその速度で引かれた場合、何も起こっていない様に見える。
だから、その高速の斬撃に気が付けたのは爬虫類の様な目を持つセブンさんだけだった。
「シッツ……」
何かが宙を舞った。
その先からは何やら赤黒い液体が零れ散っていた。
「セブンさん!」
「反応は悪くないが過信したな小僧。我が神剣に切裂けぬ鱗など無い」
恐らくだ、見えた訳じゃない。
けれど、多分あいつは剣を俺の目の前まで接近して振る予定だったのだろう。
しかしセブンさんの卓越した動体視力が動きを捕えて、俺とダークエルフとの間に割って入った。
セブンさんは腕の鱗で、剣戟をガードしようとしたがあの剣の切味は通常武器のそれとは隔絶した物で、腕が吹っ飛んだと。
「なんだよそれ……」
そんなの――いや、これがAランク探索者と、ダブルAランクモンスターとの死闘って事なのだろうか。
俺じゃもうサポートすらままならない。
これじゃただの足手纏いだ。
ゼニクルスを失い、鑑定は通用せず、仲間に守られる始末。
俺は今、何のためにここに居るのだろうか。
「降霊武装、蛇神オロチ!」
そうだ。まだだ、神気には神気で対抗すればいい。
そして、俺にはまだ役割が残っている。
収納から治癒の魔法が籠ったポーションを作り出す。
ゼニクルスは消滅したが完全に死んだって訳じゃない。再召喚に時間がかかるだけだ。
それが有れば、転移のスキルが使えるようになる。
まだ、勝ち目が無くなった訳じゃ無い。
それに、準備は着実に進んでいる。
「どれ、受けてみろ」
ダークエルフの振り下ろした剣から、剣圧とも言うべき斬撃が飛ぶ。
「はぁあああ!」
それをリオンさんが神を降ろした光の剣で受ける。
しかし、どう見ても戦況は劣勢。
吹き飛ばされこそしなかった物の、リオンさんの息が上がっている。
「すいません塞がりはしましたけど、腕は……」
「心配すんな。ドラゴンチェンジ、『アースドラゴン』」
またもや土龍への龍化スキルを発動し、セブンさんは残った左腕で地面に触れた。
すると、俺の目に魔力の躍動が映る。まるで大地の魔力を吸収しているような。
その魔力は、無くなった右腕へ集まっていく。
「はぁあ!」
咆哮と共に、腕が生えた。
「マジですか」
「蜥蜴みたいなもんだ。何度もは使えねぇ」
だから、ここからは全力だ。
セブンさんはそう言って立ち上がる。
「ドラゴンフォース」
「血液操作・赤衣」
「並列召喚、『降霊召喚』『降霊武装』」
セブンさんに角が生える。
ドラゴンフォースは龍の使う属性エネルギーを体内に循環させ、全ての肉体運動を飛躍的に強化し、更に全ての物理攻撃に炎や雷といった属性を込める事ができる。
血液操作、赤衣。
自分の血液を身体に纏い、その防御力と速度を飛躍的に向上させる。
更に、纏ったその血に触れた相手は触れた部分を裂傷させられる。
リオンさんは降霊召喚と降霊武装の同時発動。
自らに神の力を宿し、武器にも神を宿らせる。
それによって起こる効果はダークエルフと同じように俺のスキルでは読み取れないが、それはリオンさんの正真正銘の全力だ。
皆分かっている。
ここが最も重要なこの戦闘の勝敗を決するポイントである事を。
だから全てを使い果たすつもりで、全力の力を纏っている。
最大の恐怖はその光景を薄ら笑っているダークエルフの表情だ。
まさか、この三人を前にして笑みを浮かべられる程余裕があるというのか。
「来るがいい、人間」
最後の激突が始まった。
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