第37話 ダークエルフvs人類4


 まるで、炎のように揺らめく魔力が俺には鑑定えた。


「君たちは本当に愚か極まりない。何もせず、僕等に殺され続けて居れば何の不幸も無く、今までのような平和が約束されていたというのに。そうやって、人類きみたちは何度間違えれば気が済むのか。全く、君たちの飽くなき欲望には恐れ入るよ」


 ダークエルフはもう一人の死にかけのダークエルフへ近づいていく。


「ハー、もう無理そうかい?」


「うん、ごめんねダー」


「いいや、君が謝るような事じゃ無いよ」


 モンスターがモンスターの死を悲しんでいる。

 その光景は、人間おれたちに少なくないダメージを与える。


 しかし、それでも俺たち探索者はこいつらを殺さなければならない。

 それが唯一の仕事だからだ。


住処ダンジョンへやって来て、僕等をこうやって惨殺するのが君らの目的か。資源のため、生活のため、文明のため、いいや違うね。君たちは君たちの欲望を満たすためだけにここに居る」


「何を言っているのかしら。幾ら人格があるからって、貴方は私のギルドのメンバーを三人も殺したじゃない」


「じゃあさ、君らはダンジョンのモンスターを何千匹屠って来たんだい? 争いに正当な理由なんて無いだろう? 君たちにとって僕たちは邪魔だから、そして僕たちにとって君たちは邪魔だから。だから殺す。けれど、一つだけ忠告しよう。僕を殺した所で、人類きみたちに未来は無いよ」


「お前、何を知っている?」


 こいつの言葉に、俺は何か俺たちの知らない秘密を感じ取る。

 そうじゃなきゃ、こんなに堂々と言葉は発せない。その言葉が嘘ではない何か理由があるのだ。


「言わないさ、言えないからね。僕とハーは君たちの事が嫌いだ。だから、君たちを殺すのは君たちのためじゃなく自分たちのためだ。けど、僕等のしている事は君たちのためなんだよ」


「はぁ?」


「まぁいいさ。君たちがどれだけ愚かでも、僕たちは君たちを止めて上げる。なんせ僕とハーは『天使』なんだから」


 俺たちにこいつの独白の意味は全く分からない。

 けれど、こいつが俺たちの知らない何かを知っているという事だけが俺たちの中に刻まれる。

 そして、俺の心に不安が上がる。本当にこいつを倒してしまっていいのかと。倒してしまえばこいつの知っている情報を吐かせる事はできなくなる。


 だが、捕らえるなんて嘗めた真似はできない。


「僕たちのために、そして君たちのために。君たちをぶっ殺して上げるよ」


 【鑑定】が【観察】が【先視】が、そして俺の生物としての根源的な恐怖が一気に沸き立つ。


 それは、圧倒的な魔力の躍動。


「何か不味い事をしようとしてる、全力で止めろ!」


 声を上げる。

 しかし、その声が届くより速くダークエルフの魔法が、いやあれは魔法なんかじゃない。

 あれは一体……


「はぁ!」


 転移で後ろへ回り込んだゼニクルスが次元の刃を手に宿し、無理矢理防壁の中へ攻撃を捻じ込む。


 しかし、その行動はもう間に合わないと俺の目が言っている。


「行くよ」


 ダーと呼ばれていたダークエルフがハーと呼ばれていた女の方へそう言った。


「はい」


 ハーと呼ばれていた女はダーと呼ばれていた男へそう答えた。


 その瞬間だった。

 練り上げられた魔力が爆発するように増大する。


 その魔力の奔流の中で、ゼニクルスとの魔力のつながりが消えた。


『まずは一匹、裏切り者からだ』


 少しだけ成長し、男か女か分からない様な中世的な顔立ちのダークエルフが、消えた二人のダークエルフの代わりにそこに居た。

 そいつが、まるで肩についた埃を払うかの如く簡単に、ゼニクルスを消し飛ばしたのだ。



―――

熾天使・ダークエルフ

ランクAA

魔力ランクAA

身体ランクAA

スキル【神気解放】【神器召喚】

―――



「何故貴様等は【大天使級】を一人も倒せずして【熾天使級ダンジョン】をどうにかできるとつけあがった?」

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