第23話 来訪者


 事務所の準備というか備品の配置とかが終わったらしいので、俺も一度足を運んでみる事にした。

 しかし、社長が自分の会社に行かない企業なんて良いんだろうか。


 それと黒峰さんには自分のギルドを立ち上げたと報告を入れた。

 誘われてるのに、何も言わずに自分のギルド作りましたは流石に失礼だと思うし。事後になってしまった事はお詫びしておく。

 あとリオンさんにも、メッセージを入れたら「え……」「一度事務所に行ってもいいですか?」というメッセージが帰って来た。


 顔文字を多用してくる彼女が顔文字もスタンプも使わないのは珍しいが、ギルドの見学くらいいいだろうと思って住所を教えた。


「社長室の居心地はどうです?」


 俺は事務所の社長室と書かれた扉の中にいる。

 俺の為に作られた部屋は結構高級感のある部屋になっていた。

 椅子とか学校の校長室でしか見た事無いみたいな奴だし。


「俺殆どここ使わないのに、こんないい部屋があっていいんですかね?」


「そりゃ社長ですから」


 清水さんはそう言ってくれるが、やはり落ち着かない。そわそわしてしまう。


 そこに扉がノックされて、斉藤さんが入って来た。


「社長、黒峰静香さんがお見えですよ。ていうか凄い人と知り合いですね。さ、どうぞ?」


「ありがとう」


 あれ、あの人にはここの住所とか言ってない筈だけど。

 でも、メールにはお祝いに伺うみたいな感じの文章が届いていたな。


 斉藤さんの後ろに続いて黒峰さんが入って来た。


「お久しぶりです黒峰さん」


 流石に俺だけ座ってるのもあれなので立ち上がって、四人用の席に移動する。

 こっちのソファもふかふかだ。


「お久しぶりね天空君」


 黒峰静香、日本にも数えるほどしかいないA級探索者の一人であり、鮮血の偶像という大手ギルドのギルドマスター、つまり社長も兼任している。

 色々学ばせて貰ってもいいかもしれない。


「良いギルドね」


 いつの間にか空気を読んでくれたらしく清水さんと斉藤さんは席を外していた。


「貴方を活かすために作られたって感じがするわ」


「そうですかね?」


「そうよ。殆どのギルドは優秀な探索者が結成時に一人はいて、その人のワンマンチームになってしまう。その呪縛は私のギルドでも同じよ」


 まぁ、黒峰静香とそれ以外とでは途方もない差が存在するのは確かだ。

 それは探索者としてのランクもレベルも証明している。


「けど、君がやろうとしている事が実現したら、私に追いついてくる探索者も今まで以上に現れるかもしれないわ」


 斉藤さんも言っていた。

 俺の力は探索者の新人教育として有用であると。


「そうなればいいですけど……」


「きっとなるわ。私の所も新人に君の動画を見る様に言ってるくらいだし」


「え、そうなんですか!?」


 なんか照れるな。

 ただでさえ知り合いに見られるって言うのにまだ慣れてないのに。


「そうよ。それじゃあ、私は『おめでとう』と『ありがとう』とそう言いに来ただけだから」


 そう言って黒峰静香は立ち上がる。


「また、一緒に探索できるときを楽しみにしてるわ」


「はい。俺もです」


 そう言って、黒峰さんは部屋を出て行った。


 すると、廊下から話し声が聞こえて来た。


「あれ、黒峰さん!?」


「あぁ、貴方も来たのね。天空君はあっちの部屋に居たわよ」


「ありがとうございます」


 そんな声が聞こえて、またすぐに扉が開いた。


 そこに現れたのはリオンさんだった。


「お久しぶりです」


 会うのは遠征の時以来だ。

 メッセージアプリでのやり取りは少しやってたけど。


「なんでですか?」


「え?」


 入って来るや否や、彼女は俺に疑問の言葉をぶつける。


「なんで、私を誘ってくれないんですか!」


「あの、どういう……」


「うっ……こほん。少し取り乱しましたごめんなさい」


「いや、大丈夫ですけど……」


「私もここの探索者ギルドに入れてください。採用試験でもなんでも受けます。あの時よりレベルも上げて神獣も制御できるようになりました。お願いします」


 そう言って、彼女は頭を下げる。

 しかし、しかしだ。


「だって、リオンさんまだ学生っていうか高校生でしょ?」


 それで、企業に就職とかできるの?

 いや、できたとしても普通はしない。

 そもそも探索者として活動している事自体が異常なのだ。


「私、この神獣召喚ってスキルを授かった時に暴走させてしまい、母に怪我を負わせてしまったんです」


 何の話だろうか。

 でも、聞かなきゃ分からないか。


「母は怒らなかったけど、でも私はもう二度とお母さんや周りの人をこの力で傷つけたくなかったんです。それで、神獣を制御できるようになろうと思って探索者になる事にしました」


 まぁ、レベルを上げるなら探索者が一番向いている。


「最初は怖かったけど、秀君の動画を見て少しずつレベルを上げる事ができました」


 始めてリオンさんから動画にコメントを貰った時は嬉しかったな。

 今でも思い出せる。


「そして、遠征の時秀君の力を借りて初めて神獣を制御できたんです」


 だから、私は貴方のギルドに入りたい。

 リオンさんは俺にそう言ってくれた。


「でも、本当にいいの? 俺のギルドじゃなくても、今のリオンさんの力ならどこのギルドでも欲しがると思うけど」


「いいです」


「分かった、ちょっと清水さんに聞いてみるよ。結果が分かったら連絡するから」


「分かりました! お願いします!」


 奇麗なお辞儀を見せて、そのままリオンさんは退室していった。

 なんかすごく耳赤くなってたけど。いや普通に自分の昔話とかしたら恥ずかしいよな。

 けど、それを話してまで俺のギルドに入りたいと思ってくれてるんだから、その気持ちを無碍にはしたく無い。


 それに、俺の鑑定でもあの人は仲間になって欲しいと思える人材だから。


 清水さんにお願いしてみると、アルバイト的な感じの契約ならいいんじゃないでしょうかという事だったので、取り敢えずそんな感じで雇い入れる事にした。

 ていうか神獣召喚を制御できるリオンさんって、実質A級だし雇わない選択肢無いよね。

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