第21話 詐欺その2

「だって清水さんはうちの顧問弁護士になるんですよね? だったら給料の前払いって事でいいですよ」


 信用できる相手。

 それが手に入るのであれば、金を賭ける価値があると俺は判断する。

 実際、法律とか会社の事なんて俺はサッパリだし詳しい人が居た方が良いに決まってる。

 その人が、事務所に所属してない何のしがらみも無い人ならより良いとまで言える、気がする。


「いえ、顧問弁護士の件はお断りを……」


「え、なんでですか!?」


「あの、状況を正しく把握しておられるかは分かりませんが、私はこの北壁とグルになって貴方を騙して不利益を被らせようとしていました」


 いや、状況は把握してなかったけど、清水さんは俺を陥れようとはしてなかった。

 少なくとも、俺の目にはそう映ってる。


「そんな私に、貴方の会社の顧問弁護士になる資格は在りませんよ」


 まぁ、清水さんが言うならそれはきっと事実なんだろう。

 けれど、実際こうなっている。この状況こそが俺の鑑定が正しいと言う証明だ。


「俺は俺の目を一番に信じてます。だから、それ以外の資格は必要ありません」


「なんか、凄いですね社長……」


「ていうか、斉藤さんは全然驚いてない感じですけど知ってたんですか?」


「はい。こうなる事は予め清水さんに聞いていましたので。詐欺られそうになってるって聞いた時は流石に焦りましたけど」


 いやだって、普通に弁護士が顧客騙そうとしてくるなんて思わなかったし。

 やっぱり事務所の収益状況を一番の選定基準にしたのが悪かったかな。悪い事してる方が業績は良くなるのだろうか。


「僕は天空さんの鑑定の力なら僕の夢であるどんなクラスでも探索者の夢を追えるって目的を叶えるためにこうやって起業させようとしましたけど、それだって直ぐに信じてくれるし」


 それも鑑定のお陰だ。

 スキル無しの俺に人を見抜くなんて才能は無い。


「という事なので、清水さんさえ良かったら俺のギルドの顧問弁護士になって欲しいです」


 そう願うと、彼女は目尻に涙さえ浮かべながら俺の問に同意してくれた。


「すいません、ありがとうございます。そして本当に申し訳ございませんでした」


 うちのギルドも良い感じに人材が揃ってきたのではないだろうか。


「何を勝手に話を進めているんだ! そんな事が許されるわけないだろ、そもそも俺はだな……」


 と、長話が始まりそうだなと思った瞬間、清水さんが声を上げる。


「――社長!」


「な、なんだ……」


「私は社長との会話を幾つも録音しています。それは立派な犯罪行為の証拠です。弁護士が私的な理由で顧客に被害を被らせるのは立派な犯罪行為だからです。そして、しつこく何度も私をホテルに誘うのはセクハラです。だから、それで訴えましょうか?」


「な、ななな、なんで、なんなんだ、お前……」


「行きましょうか天空様、斉藤さん」


 固まってしまった北壁さんを放置して、俺たちは外へ出る。

 清水さんはテキパキと書類を片付け始めた。


「私の残りの仕事はキチンと行いますし、勿論就業規則にのっとった時間までは働きますよ」


「貴様など、二度と現れるなぁあ!」


「そうですか。ありがとうございます。それでは」


 おぉ、なんか良く分からないけど凄い迫力だったな。

 ダンジョンモンスターみたいだ。


「すいません、デスクを片付けるので少々お待ちください」


「はい」


「はい…… 凄い現場に遭遇してしまった気がする……。探索者ギルド作ろうって話だよなこれ?」


 それからの話はスムーズに向かった。

 株は俺がその90%を保有する事になった。

 斉藤さんが残りの10%。清水さんは要らないらしい。というか本当に契約するのかとしつこく聞かれた。

 しつこくしたいですと答えていると、ついに折れたのか分かりましたと言ってくれた。


 これで弁護士を雇うと言う当初の目的が達成された。


 なんか、ここ一週間は全然探索者らしいことをしていない気がする。明日からは普通にダンジョンに行けるらしい。


 動画の方の権利関係も全て会社が持つという形になった。90%俺だから、あんまり変わらないらしいけど。

 探索者の新規雇用とかは全部清水さんがしてくれるらしい。編集者の雇用は斉藤さんにお願いした、チーフだ。

 清水さんは、北壁さんの弱みを持っているから訴えられる事はまずないだろうと言っていた。だから時間はあると思う。


 会社経営をするデメリットと言えるデメリットは、人件費で月収を払わないといけなくなったこと。それと動画の収益が俺にじゃ無くて会社に入る様になる事。ただ、最悪楓を治す薬品を買う為なら会社の経費で買ってもいいと言われた。

 本当に良いのだろうか? まぁ、深くは考えない事にしよう。


 逆にメリットは、俺以外の人の頭が増えるのでできる事の幅が大幅に広がった事。俺の鑑定があると色々とできる事があるらしい。俺に思いつかない様なアイデアも彼らなら思いつくかもしれない。

 それに、単純に仲間が増えるのは嬉しい。

 あと、税金が少なくなった。

 色々あるけど、これが主かな。


 斉藤さんも事務の経験が生きているようで、清水さんと話して色々とプランを決めているようだ。

 俺は最終的にオッケーとノーを決めるだけ。まぁ、会議には参加するけど。


 楓を治す薬品はそもそも新たな一錠がダンジョンから発見されるまで待つ必要がある。

 それが発見されたら多分オークションだが、その時に金が無いでは話にならない。

 できるだけ早く稼げるギルドにしたい物だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る