第17話 精霊
スカイフォートレスで撮影した最初の動画投稿から二ヵ月で、レベル77。
ここまでの速度でレベルアップを重ねた人物が俺以外に居るだろうか。
それに、スカイフォートレスの本格的な探索が始まればその規模はもっと増えると予想できる。
俺は攻略済みダンジョンの一つで、一般公開されているB級ダンジョンへやって来た。
新宿にあるこのダンジョンは、階層数が異様に多いという特徴がある。
全100階層からなるこのダンジョンは、階層が進めば進むほど敵が強くなっていく。
俺がここへやって来たのは、ここがモンスターの種類が最も多いダンジョンだからだ。
撮影用のカメラのモバイルバッテリーは大量に持って来たし、食料や水分も大量に収納に入れている。最悪一週間くらいならこのダンジョンで生活できるレベルだ。
まぁ、風呂とか睡眠の関係で無理だけど。
しかし、このダンジョンには30、60、90階層に探索者用の拠点がある。
そこに辿り着ければ宿を取る事も可能だろう。
金はある。動画の収益化が通った事で、数十万の現金が収納に入っている。
銀行にも幾らかあるが、精霊を召喚するときに勝手に銀行口座から引かれると、銀行の人に口座を差し止められないか怖いから予めおろして来たのだ。
「来い、精霊ゼニクルス」
ダンジョン一階層、洞窟ゾーンに入った俺がそう呟くと煙が発生しその中から一体の精霊が現れる。
サイズは人間大、黒い体毛が全身を覆っていて服とかは着ていない。
尖った耳と装飾品の数々は、精霊ってより悪魔に見える。
「へいまいど! 何時間のご利用ですかい?」
「8時間」
「8万でごぜぇます」
たけぇ。
けど、魔力を消費するリオンさんの召喚と違って俺の召喚は金しか消費しない。
つまり召喚時間の限界が無い訳だ。
払った金に比例したその時間だけ、こいつは俺の命令を聞く召喚獣になる。
戦えと命じれば戦うし、そこそこ強い。
けど、こいつは手を抜く事は無いが負けるとそのまま送還される。金を持ったまま、返金は無い。
だから、負けない様に主である俺が立ち回らせたり補助するのが重要になって来る。
「とりあえず初見の奴は俺がやるから、二匹目からは普通に倒してくれ」
「へい。強化オプションは使いますか? 使える魔法の種類が増えたり、最大魔力量が増えたりするんですが」
「幾ら?」
「最低レベルの強化が追加で時給5000円でやす!」
「しない。ここの敵なら今のお前の方が倍は強いだろ」
「ッチ。かしこまりやした!」
舌打ちしやがったこいつ。
こいつ精霊というだけあってかステータスはかなり高い。
それにスキルを使えばここのモンスター相手なら戦力は倍なんてレベルじゃないだろう。
「行くぞ」
流石に日本で最も階層数の多いダンジョン。
そして、現れるモンスターの数も随一だ。
リザードマン、吸血蛇、サンダーマウス、ホワイトベア。
って、最後普通に動物だろ。地上最強生物ではあるけど。
その他も、様々なモンスターの動画を撮影する事に成功した。
勿論鑑定もだ。鑑定スキルはレベルが上がりに上がったお陰か、殆ど魔力を消費しない。今や一回使うのに1ポイントの魔力しか消費しない様になってしまった。
「この辺のモンスター相手だと何体いてもやっぱりお前の方が強いな」
闇属性の魔法を多用するゼニクルスは、その魔法一撃で殆どのモンスター倒していった。
それに獣のような姿をしている事もあってか、近接戦闘も強化魔法で可能という高スペック。
雇うのに金が掛かり過ぎると言う点を除けば完璧である。
「これでもランクAですんで」
なんとこのゼニクルス、俺と同じ【鑑定】のスキルを持っている。
それで、自分のステータスを自己判断しているのだ。
Aランクと言えば、あのダークエルフと同格という事になる。
ただ、やはり追加オプションとやらを買わないと全力は出さない、いや出せない様でダークエルフに比べると性能は劣る。
そうこうして居ると、俺の携帯端末が鳴った。
誰かからメッセージが飛んできたようだ。探索者用に作られたこの端末は電気ではなく魔力で動いている。
だから、電波が通らないダンジョン内でもこうやって使う事ができる。
『やっぱり、あの動画投稿者って秀君だったんですね?』
送信主はリオンさんだった。
どうやら俺が投稿している動画が見つかったらしい。
しかし「やっぱり」という事は、予感があったって事か。
まさか、本当にリオンさんって最初にコメントくれてたあのリオンさんだったのか?
とりあえず『伝えて無くてごめんなさい。動画には他の人が映らない様にしてますけど、カットして欲しい部分があったら言ってください』と送っておいた。
やっぱり俺の利益よりもプライバシーの方が大事だし。迷惑をかける訳には行かない。
まぁ、鮮血の偶像はメディア露出激しい方だから今更だけど、リオンさんに関しては勝手に動画を上げられるなんていい迷惑だよな。
送信して直ぐに既読が付き、すぐ返信が帰って来た。
『いえ、実は私もあの動画を見て居まして、有名になる前から。それでお礼を言いたかったんです、最初のスライムを倒せたのは秀君のお陰ですから』
まぁ、唯一のスキルである神獣召喚が使えない状態のリオンさんがモンスターを倒すには俺がやった方法を真似るのが一番手っ取り早いだろう。
俺もスキル無しみたいなもんだったし。
あぁ、そういう路線もいい。スキル無しでモンスターを倒す方法動画みたいな。
メモっとこ。
って、返信の方が大事だ。
『コメントしてくれたリオンさんですよね? 憶えてます。初めてのコメントがリオンさんだったって知れて嬉しかったです』
『いえいえ(/ω\)』
顔文字。
もう誰も使ってないだろそれ。
まぁ、いいや。俺も『ウム』って返しといた。
「女ですかい? いや、おモテになるみたいで羨ましいですわ。彼女じゃなくてわいにももっと金使って欲しいんですけどね」
「彼女じゃないから。ただ、お前の力には期待してるから金は入れば使うよ」
「え……自分で言うのもなんですけど、わいは結構あくどい商売してまっせ?」
「俺も自分で言うのもなんだがクソ弱いんだ。だから、少しでも戦力が上がるなら金を惜しんだりしないよ」
どうせ、百万や二百万が幾ら積み重ねられても楓を治すのは無理だ。
数億って金がかかるダンジョン産の最上位薬品を使うしか治す方法は無いと医者に言われてる。
だから、少しでも強くなって直ぐにできる限り早くその金を稼ぐために、使えるとこにはどんどん使っていく事にしてる。
さ、動画撮影を再開しよう。
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