第2話 初動画


「何だよあれ」


「あぁ、あいつはただのバイトさ。探索者じゃねぇ」


 名前も知らない探索者のおっさんたちが、俺を見ながらそんなことを喋っていた。


 聞こえてるぞ。俺だって資格を持ってる立派な探索者だ。


 しかし探索者ギルドでのバイトという言葉に間違いはない。

 ここでは日々大量のモンスター素材を取り扱っている。それを査定するには俺の鑑定も使った方が多少効率は上がる。それに一回700円で受けてるから鑑定紙の料金も300円分浮くしな。


 探索者ギルドに寄った時にもし魔力が余ってたら手伝ってくれと受付の人に頼まれたのだ。

 今日はもうダンジョンに入る予定もないから、魔力を全て使い切ってから床に就くのはある意味効率的だ。探索者になって一ヵ月ほどだが、主な収益はこのバイトだったりする。


「それじゃあ、これ代金ね」


「ありがとうございます」


 一時間で7700円も儲かった。まぁ、魔力回復に10時間必要だから実際は10時間で7700円と言えなくもないが。


 受付の人に賃金を貰い、俺はそそくさと家に帰った。

 今からやることがあるんだ。


 もう夜も更けているが、俺はパソコンの電源を入れた。

 そこに動画をアップロードしていく。


 概要欄には戦ったモンスターたちのステータスを乗せる。

 確かに鑑定紙を使えば分かる情報だが、実際戦闘中に鑑定紙を使うのは難しい。


 俺が今回投稿した下級の魔物なら、既に鑑定情報がネットに公開されているが、それでも俺の場合は、その鑑定結果から効果的な戦術までを動画にしているので需要はあるのではないかと思っている。


 正直、鑑定士の能力で一線級の探索者になるのは現実的ではない。

 セカンドプランとして配信者や動画投稿者として金を稼ぐプランを用意しておいてもいいだろう。


 鑑定紙は対象に張り付けることで効果を発揮するが、俺の鑑定は見るだけで発動する。

 この違いを活かして、ゆくゆくは中級や上級のまだ鑑定結果が公になっていない魔物の情報などを乗せていけたらと思っている。


 ちなみに今日が初投稿で、少し緊張している。胸ポケットに入れた端末で撮影していた動画をモンスターごとに切ってアップしているだけだしな。ほとんど無編集と言っていい。

 あまり期待はしてないが、100再生くらい行ってくれると嬉しい。


 その後、布団に入ったが動画の方が気になって中々寝付けず、布団の中でスマホから再生回数を見てみた。

 【ソラソラのモンスター鑑定チャンネル】『【最弱】スライム鑑定してみた!【戦闘映像】』は5回視聴だった。


 まぁ、そんなモンだよな。初日だし。


 俺はそのまま眠りに就いた。





『経験値を1獲得』

『経験値を1獲得』

『経験値を1獲得』

『経験値を1獲得』

『経験値を1獲得』

………………

…………

……




『レベルが1上昇しました』


「あぇ?」


 寝ぼけまなこを擦りながら、俺はそんな声で目を覚ました。時計を見ると時刻が11時を指していた。昨日布団の中でスマホが気になりすぎてよく寝られなかったから起きるのが遅い。


 というか俺今家だぞ。レベルなんか上がるわけないだろ。


 俺の職業本クラスブックバグった?


「とりあえず、ステータスか」




――――


天空あまそらしゅう 19歳 男

クラス『鑑定士』

レベル『3』


体内魔力量120

身体強化率120


スキル【鑑定lv1】


――――


「え、本当に上がってる……」


 一体何が起こったのか理解できなかった。

 レベルは昨日上がったばかりだ。レベルアップに必要な経験値は1レベル上がる毎にどんどん増えると言われているし、まさか一日でレベルアップするわけがない。


 そもそも、俺は昨日レベル2になっているのを確認してから一匹たりとも魔物を倒していない。


「どうなってんだよ?」


 独り言ちる。

 しかし、当然応えてくれるような相手はいない。そもそも一人暮らしだし。


 とりあえずスマホを確認し、昨日アップした動画を見てみる。

 家に帰ってからやったことなんてあれくらいしかないしな。


 そうすると視聴回数が30回まで増えていた。

 そしてコメントが一件。


『ソラソラさんのお陰で初めてのモンスターに物怖じせずに挑めました! ありがとうございます』


 なんか胸が温まった。ちなみにコメントをくれた人の名前の欄には『リオン』と書かれていた。本名ではないだろうけど覚えておこう。俺の動画に初めてコメントをくれた人だ。


 というか、まさかこの人が倒したから俺に経験値が入ったのか……?

 例えば回復職の場合、魔物にやられた仲間の傷を治癒させるだけでも経験値が入るという。

 魔物の攻撃を防ぐバリアを張ったりしてもそうだ。


 例えば斥候系のクラスは、偵察によって不意打ちとかするとその不意打ちに参加してなくても多少の経験値が入る事があるらしい。

 この理論に関して、一つの仮説が存在する。


 それは、倒した本人が『その人物のお陰である』と認識していて、尚且つその功績にスキルが効果を発揮している場合のみ経験値がその相手と分割されて入ることがあるという説だ。

 その分配率は感謝という気持ちの強さによって上下する。


 通常のスライムの討伐時の経験値は5ポイント。 

 もし、この動画を見た人が俺のお陰と思って戦闘しているのなら、その一部が俺に入ってもおかしくない、のか……?

 勿論、その理論を信じるのならの話だが。


「けど、まさか。でもそれしかないよな……?」


 もしかしたら、俺は動画の視聴者が倒した魔物の経験値の一部を貰えるのかもしれない。

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