第3話 撮り溜め


 動画を投稿するなら撮り溜めが大事だと思って、俺はスライムやウッドゴーレムを含める7本ほどの動画を用意していた。

 こっちはちゃんと編集してあげようかと思ってたけど、今はそれより確かめたい事がある。


 本当に俺の動画を見た人が倒した魔物の経験値が俺に入っているのかという事だ。

 確かめる方法は簡単。

 他の魔物の動画も出せばいい。


 寝ているときに聴こえて来た経験値は全て1ポイントだった。それはスライムの経験値が5だからだろう。

 なら、経験値30のウッドゴーレムや他のモンスターの動画も投稿すれば入る経験値が変化する筈だ。


 そう考え、残り6本の動画を全て投稿した。


 その日はダンジョンに行く気にはならなかったから、家で動画の反応を見ていた。


 10時間程で、七本の動画の総再生数は1000を超えた。


 そして、


―――


天空秀 19歳 男

クラス『鑑定士』

レベル『5』


体内魔力量140

身体強化率140


スキル【鑑定lv2】


―――



 レベルが5まで上がり、魔力と身体強化が140まで上昇。

 更に鑑定のスキルレベルが上がった。


 スキルレベルは上がる事でそのスキルの性能が強化される。

 どうやら鑑定のレベル2の場合は、必要コストが半減するという物だった。

 つまり、計算上俺は合計28回の鑑定が可能という事だ。


 動画の再生回数を分析してみると、スライムを始めとした比較的『最初』に相手するモンスターの物が多く再生されている。


 魔物のデータをブログとかに上げてる人は結構いるし、戦闘映像を動画投稿サイトに上げている人も多いけど、その両方を一つ纏めにした物を上げている人は少ない。


 需要と供給が良い感じに噛みあった結果の1000再生だろう。

 初心者だったら雑魚の魔物の情報でも知っておきたいだろうしな。


 魔物の鑑定情報は鑑定紙を使わないと分からないから、それを無料で公開している人は案外少ない。

 無料公開されてるのは、結構広く知られている有名どころのモンスターばかりだ。


 という事は、俺は無料公開されていないモンスターの情報を先んじて入手して無料公開すれば再生回数を稼げるという事になる。


「よし、やってみるか……」


 俺は剣を持ち上げる。

 バイト代で買った俺の唯一の武器だ。


 ダンジョンは世界各地に無数に存在する。日本だけでも1000個以上あるらしいからな。

 その中でも比較的マイナー、つまり人気が無く俺の家から近い場所を探す。


 後、コメントでカメラがぐわんぐわんして見づらいという物が幾つもあったので、いいカメラを買おうと思う。


 超小型チョーカー型カメラなる、俺の為にあるようなカメラが電気屋に売っていたので購入した。

 30万した。初期投資だと諦めよう。バイト代があってよかった。


 やって来たのは二駅となりにあるダンジョン。

 そこはここら辺にある他のダンジョンに比べて入る探索者が極端に少ない場所の一つ。

 その理由は、アンデッド系のモンスターが多数出現するからだ。


 

「スケルトンは武器を持ってないけど、腕の骨が鋭くて斬れたり刺さったりするから気を付けた方がいいですね」


―――

スケルトン

ランクE

魔力ランクF

身体ランクE

スキル【骨再生】

―――


「で、肉体を再生する能力を持ってるから頭蓋骨を砕くまで油断しない事。頭蓋を破壊すれば即死するから再生も意味が無い」


―――

ゾンビ

ランクE

魔力ランクG

身体ランクD

スキル【怪力】

―――


「怪力は人間の骨くらいなら一撃で折る威力があります。けど、その怪力を発揮するためにはかなりの溜めが必要で、かつこいつの思考能力は単純なので冷静に動きを見れば回避は容易です」


 鑑定で魔物を見て、その結果のスキル部分に注目する事で、俺には感覚的にそのスキルの詳細な情報が理解できる。

 鑑定紙に比べて優れている点はここくらいだろう。


 その情報を元に戦闘の組み立て方を実戦形式で実況していく。


 まぁ、ゾンビやスケルトンに手こずる探索者は少ないけどね。


―――

レイス

ランクD

魔力ランクD

身体ランクG

スキル【幽体】【火球】

―――


「レイスの幽体スキルは基本的に魔法しか利きません。魔法剣とかも一応効果ありますけど。まぁ、俺みたいに攻撃手段持ってない人は出会ったら即行逃げましょう。足はそんな速くないから、逃げるのに全力注げば身体強化の低いクラスでも逃げ切れると思います。ヒィィィィ!!」


 そんな風に、その日はアンデッド系モンスター8種類の動画を撮る事に成功した。

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