第7話
旅に出てから数日が経った。
最初に長老から聞かされていた通り、そう呑気な行程ではなかった。
まず、旅の足は徒歩のみであった。ロバのような動物を一頭連れてはいるが、それは荷運びのためであって乗るものではない。陽が昇る前から落ちるまで、一日中歩き通すということがどれほどのことか、大洋は初めて知った。もちろん食事や他にも休憩は適度に取るが、それで疲労が解消されるわけではない。むしろ日増しに溜まっていく一方。
進む道は街道と呼ばれ、そこそこ開けているものの、歩きやすいように舗装がされているわけではない。雨によるぬかるみや轍の後などに足を取られることもしばしばだった。多分歩き方が悪いのだろう、気づけば大洋が一番薄汚れている。
運動は好きだし、高校では所属していた陸上部の活動も熱心にこなしていた。だから体力にはそれなり自信もあったのに、一日の終りに一番くたびれているのは大洋なのである。いかにもか弱そうな少女にすら劣る有様に、大洋のなけなしの自尊心はこれまた肉体と同じくあっという間にくたびれ果ててしまったのだった。
「マサヒロ様。昨日の残りもありますから、それほどでなくとも良いですよ」
道に屈んだ大洋に、アルドが声をかけた。その言葉に幾分ホッとしながら、大洋は起き上がって伸びをした。薪拾いである。
この世界が広いのか、人口が少ないのか、はたまたその両方か。大洋にその判別はつけられないが、街道にはひたすら人気がなかった。行商だろうか、ごく偶に荷車とすれ違う程度で、大洋たちのような旅人にはまず出会わない。
街から街へと道は続くがその距離は長く、そして一定でもなく、朝街を出て一日歩いたとしても夜に次の街へたどり着けるとは限らないのだ。だから当然、野宿の日もある。道々薪になりそうな木の枝を拾って歩く必要性を、大洋は初めて学んだ。
「恐らく今日は日が暮れる頃には次の街に入れるでしょうし」
「だと、嬉しいんですけど……」
疲弊する理由は体力面ばかりだけではない。むしろ精神面のほうが悲鳴を上げていた。そろり、と後ろをうかがう。
「……大丈夫ですか?」
大洋としては、純粋に気遣いであったのだ。いや、それのみであったとは言えないかもしれない。その陰には協調性やおもねりや、また自尊心の残り滓もきっと含まれていた。しかしそれでもやはり、大半は気遣いであったのだ。
「問題ございません」
が、返ってきたのは冷たく簡潔な一言。それもパウラだけ。
少女とは、目が合うには合った。わずかにうなずきと分かる目の動き。ただそれだけだった。
旅に出てから数日経って未だ、大洋は少女とパウラ、つまり女性陣とろくに話をしたことがない。
幾度となく会話を試みてはみたのだが、取りつく島もないとはこのことをいうのだろう。少女は始終硬いというか表情を動かさず、時に大洋が話しかけようとする度パウラが遮ってしまう。頑なに大洋を少女に近づけさせまいとしているのだと、流石に分かってしまって落ち込む。年頃の少女、それも絶世の美少女だから、警戒してもしすぎることはないのかもしれない。しかし旅の同行者であり、長老やアルドの言葉を借りればこの世を救う守り人様である。大洋自身は認め難くとも。
打ち解ける努力くらい大目に見てくれても良いのでは?
それとも今まで言われたことはないが、女性から見て自分はよっぽど凶悪な面構えや下心満載な態度をしているとか?
考えて改めようとしても、パウラの鉄壁の防御はいっかな崩れる気配がない。誰にも聞こえないように、大洋は深いため息をこっそりついた。
頼りない道が示す先に、まだまだ街の気配はない。
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