第21話 11月21日「世界ハローデー」
アーケードを見上げたままだと、どうしても悲運の味が喉まで下がって来る気がしたので、私は何か綺麗なものに目を避難させる。
下着屋さんが目についたので下着を新調しようと近寄ってみたが、すっかり生身となってしまった私はもう手遅れの状態だった。
私は商品を手にしながら、棚の下の段を見る振りをして、へたり込む。
まるで空気の薄い所へ来た様な息苦しさ。そして危殆とするものが私の肺を握ってくるかの様な気持ち悪さで、私は十分過ぎる程の惨めさを、楽天的な面から滲ませる。
私の間近にある白いフリル付きのブラに、「私と同じね」と言われている気がした。息の苦しみと薄氷に痛む胸を堪える間に感じたそれによって、何とか繋ぎ止めた。
「大丈夫ですか?」
誰か女の人が声をかけてくれた。
急いで逃げる事しか出来なかった昔の私を思い出しながら、緩やかと滑らかを意識して、顔と首を操作した。
「すみません、大丈夫です、ちょっと立ちくらみしちゃってて」
切れが悪い言葉が、頭の手前から排出された。咄嗟の言葉は、あまり私は得意では無いのだ。尾を引く様は、すきバサミで切ったそれとよく似ている。
私のすきバサミ言葉に、やはり女の人は手を差し伸べてくれた。
「いいよ掴まって」
女の人の手は私と同じ位の温度で、その華奢さに気づく頃には僅かに感じる位の冷たさが表れていた。
「すみません、ありがとうございます」
下手な苦笑いでは緩衝材として物足りない事を自覚しつつ、立ち上がって目を見て気丈に礼をした。
私は、商品を戻すと頭を垂れつつ女の人の脇を通り過ぎた。女の人の目を有り難く受け止めながら。
見届けてくれる様な、嗜みのある目であった事は確かだった。そうしてまた、私の限界点を己に白状させる、或いは、覚悟させる。
私は、平和を望んだとしても10人に声を掛けるハローデーには参加出来ない。己が人としても女としても歪なガラクタであるという事を頼りに、人の匂いがしない路地へ侵入した。
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