第14話 11月9日「ベルリンの壁崩壊の日」


 私は、雀が去った静けさを消す為にイヤホンで片耳を塞いだ。

 DAZBEEの死神カバーを耳に流して、ヘルプミーの言葉を階段に流しながら下へ降りた。

 

 私の足がアコギに合わせて一つ行く度に、地獄への空いた安泰の通りを味わせてくる。

 そんな運命もあるのだろう、私の方へと車が向かってきた。

 私は咄嗟に身を避けて、壮大に駆ける車を見送った。

 血迷った車が私へ到達していたのなら、死神が憑いた方はきっと車の人だっただろう。

 私は死神に好かれる様な事はしていないのだから。私としては、理由はそれだけで十分だった。

 

 受難はしかし残夢と同じで、ある時を境に失墜してしまうものだ。決して最後まで見れるものでも無い。

 私はそんな事を思いながら、テディベアのキーホルダーを手で弄び、感覚の糸を日常に繋ぎ直した。

 

 この世界でただ一人、勘違いしてしまっている様な私を乗せて、私の今日が時の壁を登って行く。

 時は既に10時となって、私の臨む店々は開いている。

 

 どこかの誰かが勘違いでベルリンの壁を壊したこの日に、生き方を勘違いしている私の足が、開いた店に急くのは具合が良いと思えて、スマホにそれを記した。

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