第6話 10月27日「テディベアの日」
柿をぽんと宙に舞わせて、私は感覚の中で好きな事をする。
それはスマホで見る時のマップみたいなもので、それをふわっと広げるのだ、感覚の中に。そして、辺りを本当に見回してみる、特に何を見る事もしなくていい。
ゆっくり見回すと、感覚がふわっとする方向が訪れる。何か開いた様な感覚、それは例えば、何も考えていない時に何かがふと唐突に思い返される様な感覚に近い。
私はその方向へ歩き出す。建物は避けて、道をころころと変えて進んでいく。すると、家ばかりが建ち並ぶ所まで来てしまっていた。道々には街の様な看板も立っておらず、囃し立てない程度の雀が時折口を鳴らす位だった。
住むという機能だけを集結させた、街の内臓の様な場所。その中に、家一つ分程のささやかな大きさの公園が現れた。
開け放たれた園内に、またささやかな腰掛けが二つだけ。ちょこっとの水場もあり、災害時には最低限の役回りをしてくれそうではあった。
私は柿をバッグから取り出して、なるほどと目を少し大きくした。
私は、柿を食べたかったのか。迂遠の道のりに丁度喉も乾いた所だった。
水道で柿の皮と手を洗う。そしてその場で、柿に皮ごとで齧り付いた。
しゃりっとした皮にほんのりとした甘味の果肉が混ざっていく。柿を好んで食べた事の無かった私は柿を見直す事にした。美味しくないと思っていたからその旨味は一入だ。大分と量の多さに戸惑ったが、なんとか平らげた。
柿もいなくなり、小さな公園で一人ぼっちとなる。
ふと、足元に落ちていた鈴付きの小さなキーホルダーを見つけた。散々踏まれたのだろう、付いていた小さなテディベアもぺちゃんこになっていた。
手で拾えば、まだ鳴る鈴と砂まみれのぺちゃんこテディベアであった。
テディベア、可愛い名前にしたためられたものは大統領というおじさんの愛称だそうで。私はそんな事を思うと、悲哀の底に、今拾ったばかりのぺちゃんこテディベアを突き落としてしまった心持ちとなった。
歩く度に鈴が鳴るバッグを持ったのは小学生ぶりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます