第4話 10月25日「民間航空記念日」


 私は翔ぶ事に心を惹かれ、電線からの空を未だ眺めていた。

 ふと、その視界の端にシャボン玉がふわふわと現れた。文鳥はそれに驚き去っていった。


 子供の笑顔を沢山含んだその大きなシャボン玉。柔らかく成った私の眼はその出所を辿る。

 

 ふうっとではなくウィーンと言った具合に、子供がシャボン玉を生み出しながら、お母さんに手を引かれて歩いていた。

 確かに、電動なら片手間でシャボン玉が出来るねと妙に納得しつつ、ふうっとしたシャボン玉が一笑された気がして、目線は定まらなかった。

 

 子供の歓喜に、笑顔を添えたお母さんの「綺麗だね」が一つの世界を形作る。その世界に入れない私は、空に呼ばれた気がしてまた見上げた。

 

 航空機が洗練された機械音を轟かせる。静かな空はその寛大な器でそれを受け入れていく。

 綺麗な空は、人が翔ぶ空なんて用意してはいない。人間がもぎ取ったんだ、無理矢理。


 それでも空はきっと、どんなに人が目先で翔ぼうとも、気にも留めずに、ただありのままで居るのだろう。器が広いから、どこまで行っても変わらない、不滅のゆとりで。


 力ずくで、是が非でも、綺麗なその空に触れてみたかった人がいたのだろう、もしくは、翔ぶ人になってみたかったのか。


 綺麗なものは、手の届かない所のもの程惹かれて、手の届く所のものほど酷く儚いというのに。それは丁度、触れた途端に弾けるシャボン玉の様に。


 

 空は時に、何かの偶然で、はたまた気まぐれに、人を綺麗と思う事があるのかも知れない。

  


 大きなシャボン玉が私の目先に来た。私が咄嗟に手を差し出すと、途端に弾けてしまった。

 すると、子供が「ああ!」と叫んだ。

 

 綺麗な物には、良く考えて手を出すべきだなと、シャボン玉を犠牲に私は学んだ。

 

 

 

 

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