冷めない夢でスペアを降りた私
これはいけません。
この場を望んだのは私ですのに。
お二人のお話に集中しなくては。
「理由としてはとても弱かったけれどね。でも本当に良かったんだね?」
「問題ありませんわ。私も彼もこの程度の後始末、容易にできましてよ」
つまり貴族たちに妙な噂話や疑念が残ったとして。
ヴァイオレット様も、そして元第一王子も、彼に至っては廃太子で終わらずに廃嫡までされていたとしても──。
「私たちが全力を出すまでもなく、お慕いする方のお一人くらい守ってみせますわ」
自信たっぷりに仰ったヴァイオレット様の笑顔はとても清々しくて、今まで見て来たどの笑顔よりも気高く美しいものに感じられました。
──本当にこの方こそ、王妃になるべく生まれたご令嬢なのでは?
私はそう心から感じておりましたのに。
「だから本当にごめんなさいね。王妃の座を押し付けてしまったことは心からお詫びするわ」
前回の謝罪のときにも拝したこの晴れやかなお顔。
私にはとても為政者らしいそれに見えていたのですが。
後からローレンス殿下が仰るには、次期王妃の重責から解放され、そのうえお慕いした方と添い遂げられると決まったことが、嬉しくて嬉しくて、それで自然に湧き起こっていた謝罪に相応しくない明るいお顔だったということ。
けれども後からそれを聞く私はまた、ローレンス殿下のお言葉を心から受け入れるまでにお時間を頂くことになるのでした。
頭では理解出来ています。
けれども心でこれを認めますと、それでは今まで知るお姿はなんだったのかと。
その疑問と共に自信を失っていく私を、ローレンス殿下はこの先も一切突き放すことなく、いつまでもお側で励まし続けてくださることになるのですが。
この時の私にはまだ知らないこと──。
「悪いと思っていないよね?」
「うふふ。でもお二人もこれで良かったでしょう?」
「何がこれで良かっただ。王になりたいわけがないよ。マリーにも重責を押し付けて」
「もう遅いわよ。ごめんあそばせ」
こうして私は、ちくちくと痛む胸を気にしながら、次代の王妃となる立場を受け入れることとなりました。
スペアを正しく降りるときまで、スペアであり続けること。
疑ったこともなくそう信じて生きてきましたのに。
どうしてこのようなことに?
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