スペアとして生きてきたから


 お二人のお話は続きます。


「言いたいことは分かるが、それで次代が全員嫌だと言ったときにはどうなる?」


「そうならないように考えることについては、ご協力いたしますわよ。でももうスペアとしての教育なんてものはやめましょう?不健全だわ」


「ふっ不健全?」


 驚いた私は、ついうっかりと声に漏らしてしまいました。

 笑ってくださいましたけれど、スペアの前に淑女としてならないことです。


「幼い頃からの人権を無視した洗脳教育なんて。ねぇ。まぁ彼や私みたいな反骨精神の塊のような子どもには通用しませんでしたけれど?」


「いやお二人はその精神を強く持ち過ぎだからね?」


「言われた通りに生きるなんて悔しいでしょう?ローズマリー様もそう思わなくて?」


 悔しい……ですか?


 言われた通りに生きることに、私は疑問を持ったことがありませんでした。

 それは悔しがることなのでしょうか。


 私は縋るようにローレンス殿下の横顔を眺めてしまいました。

 困ったお顔で微笑まれておりますが、これはよく知るお顔です。


「ヴァイオレット嬢、これ以上マリーを混乱させないでくれ」


「あらあら?ただ他の生き方に気付かれたくないだけではなくて?」


「そ、そんなことは……ないとは言い切れないけれど。私は別にマリーに強要する気はないんだから」


「強要する気はなくても、ローズマリー様が他の選択肢を知らないままなら同じことでしょう?」


「だ、か、ら。これからゆっくり話すことにしているんだよ」


「相変わらず悠長なことですこと。でもそのお話も洗脳では?」


「あぁ、もう。ヴァイオレット嬢はこれからは自分のことだけを考えていて!」


 お二人の掛け合いに驚いていた私は、お言葉を追い掛けることに精一杯で、相槌を打つことも出来ませんでした。






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